都政新報
 
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心のカルテ 精神科医療はいま(中)/医療へのアクセス


▲東京ルールが適用される事案には、薬物・アルコール中毒や精神疾患患者など、対応に苦慮するケースも多い(写真と本文は関係ありません)=都内で
  

心のカルテ予約制多く、緊急枠不足

 「地域で患者を受け止めるシステムを構築するのは無理だ」

 都は、精神障害者が救急医療に至る前に、身近な地域で医療が受けられる体制を整備したい考えだが、地方精神保健福祉審議会(地精審)ではこんな厳しい意見も寄せられている。背景には、精神医療体制が国の医療法に基づき、都全体を一つの保健医療圏として整備されてきたことがある。

 都内の精神科の診療所は約1千件で、増加傾向にある。ただ、入院ベッドは均一に整備されているわけではない。多摩地域を見ても八王子、調布、小平、青梅市などは充実するが、立川市には少なく、23区では杉並、中野区でゼロ。地理的な偏在が大きい。

 また、夜間・休日の受け皿不足はシビアだが、日中の医療体制も盤石ではない。診療所の多くは「完全予約制」で、午後3時以降の入院に難色を示す病院があるなど、常時「フル稼働」しているわけではない。

 診療所はあっても、緊急に対応できる余裕がなく、地域で受け止めきれない。タイミングよく投薬すれば治るのに、1~2日間、治療を待つ間に症状が重くなり、警察が強制入院させる案件に悪化してしまう――。こんな悪循環が見て取れる。

■一時収容は可能だが

 特に受け入れが難しいのが、精神科の受診歴を持つ患者の「身体合併症」だ。東京消防庁が搬送した案件の中には、23区内にかかりつけの診療所があり、軽い腹痛の場合でも、病院を確定するまでに4時間以上かかったケースがあった。カルテに「精神科」とあるだけで、顔をそむける診療所も少なくないという。総合病院であっても精神科医が常駐しない場所が多く、受け入れ後の容態急変に責任が持てないからだ。

 都では昨年8月、救急搬送先探しが難航する事態を防ぐため、「東京ルール」を策定。「たらい回し」を防ぐため、搬送が困難だと判断されれば、診療科に限らず特定の病院が一時的に収容する仕組みだ。

 「東京ルール」に基づいて搬送した案件のうち、精神障害や薬物中毒の患者は12%に上る。しかし、受け入れ先が確保できず、結果的に精神科がない病院が収容するケースが多いのが実態だ。一時的にしのいで身体の治療が終わっても、転院先の確保という難題が待っている。

 こうした中、都福祉保健局は来年度の予算要求で、地域の内科医などに精神疾患に関する知識・法制度について研修を行う施策を盛り込んだ。うつ病患者の7割が内科を受診することから、早期に医療につなげる狙いだ。

 地精審では「訪問看護事業所で、専門職の配置に加算をつけるなどの促進策も有効」といった提案もある。身近な地域で患者をどう受け止めるか、行政の知恵が問われることになる。

人権問題はらむ精神科医療――――――――――――――――


精神医療は常に人権の問題と隣り合わせだ。

 措置入院までは行かないが、精神障害者が自宅で暴れ、家族が苦慮する例は多い。その場合、任意入院は無理でも、家族の同意を得た「医療保護入院」を適用できる。精神保健福祉法では2000年度、医療保護入院に患者を結び付けるため、患者を「移送」する制度を規定した。

 ただ、患者の人権に配慮して移送を「封印」する自治体は多く、都の実績は年間1件程度。「責任逃れ」になる形で保健所から民間の警備会社の利用を勧められた例や、都の精神科救急医療情報センターに相談したところ、夜が明けてから通院先に連れて行くよう助言された例も報告されている。

 地精審で助言した法律の専門家は、「人権侵害かどうかの判断は、ケース・バイ・ケース。原則は説得して搬送を試みるべき」と指摘。制度のあり方に明確な答えは出ていない。

 一方で、まずは身近な地域で、訪問型の治療を充実させるのが先との議論も。移送に頼る背景には、精神障害者が適切な医療を受けられないことがあるからだ。 (このシリーズは全3回です)


 

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