大江戸線には築地市場駅があり、ゆりかもめには市場前駅がある。もう間もなく、一方の駅は足の踏み場もない雑踏となり、一方の駅はあまりの風の冷たさに、好奇心で降りるよそ者すらいなくなる。
　だが、とにかく今は原野でも、駅の名は既に「市場前」であり、「市場予定地前」ではない。
　市場前というだけでも不思議だが、豊洲市場前でも東京市場前でもないというのがまた不思議だ。名無しの権兵衛市場前である。今から作っていくブランド戦略はないのだろうか。まさか新築地ではないだろうし。
　将来ここに移った人たちの店の経営は、どういう収支バランスで店を商っていくのだろうか。使用料は、扱い額は、高熱水費は……よく分からない。誰かが邪魔している、いや、誰も言わない世界がそこにある。
　一方、今の築地市場の場所はどうなるのだろうか、皮算用はいっぱいあるようだ。そして駅の名前は「築地市場跡」？　いやいや立派なビルが建つのだろうから、しゃれた横文字？　それとも「隣銀座」？　行き交うのは日本人、それとも……これも分からない。
　もうけ話は空の上を飛び交い、魚たちはトラックで行き交う。まもなく買い出しの雑踏が始まる。第何回？　あと何回？　いやずっと続きますって？　いずれにしても年末には「築地」に行く。これは我が家の決め事だ。 （場外の声）

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