都政新報
 
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「疑惑」再現 都議会百条委・調査から


▲浜渦氏を告発する議決を行う都議会百条委=2005年5月31日
  第1回(2005年5月24日付)

 都社会福祉総合学院問題の百条委員会は実質的な調査を終え、5月31日の委員会で調査案をまとめる。これまで12人の証人尋問を行った結果、百条委の大勢としては学院設立の経緯やスキーム、現行の補助金などに違法性がないと判断し、予算特別委員会という舞台を悪用した浜渦武生副知事らの「疑惑捏造」だったと結論づける見通しだ。予特質疑までの2カ月間、水面下でどんな動きがあったのか、証言や記録文書などから整理してみた。

 学院問題を意図的にクローズアップ

 包括外部監査人・守屋俊晴氏(公認会計士)が監査結果を議会に報告したのは2月23日。都議会定例会の初日の本会議だった。

 例年、執行機関側には最終確認を行うという理由で、本会議での報告より1カ月も早く事前報告会を行っている。今年は1月28日。第1庁舎7階の会議室には石原知事、3副知事(1人欠席)、出納長、教育長、特別秘書、知事本局長、総務局長、財務局長、そして監査対象局の生活文化局長、福祉保健局長、水道局長などが出席していた。

 今回の監査結果をテーマ別にみると、「水道事業の経営管理」(意見39、指摘7)、「社会福祉法人東京都社会福祉事業団の経営管理」(意見20、指摘2)、「民間文化団体への補助金等」(意見5、指摘2)。このうち学院の運営に関する意見は2件しかない。

 石原知事は、この事前報告会の冒頭にあいさつして退席するのが通例だった。今年も「外部監査というのは大事なことなので、しっかりやるように」と叱咤激励し、席を立った。

 出席者の1人である山内隆夫生活文化局長は、「社会福祉総合学院だけではなく、それぞれ各局においても、しっかり対応するよう指示したと受けとめた」と語り、知事のあいさつは監査全体の話と理解した。

 ところが浜渦副知事は違った。「私は知事から、監理団体の担当という冠、前書きがあったので、監理団体について私は精査するように指示を受けたと認識した」「外郭団体を担当している浜渦は何をしてるかということで、3局の局長を調整しながら、時系列によく調べなさいと、こういう指示を受けた」と、知事の指示を学院問題に特化させ、即座に関係3局長に対し、調査を行う意向を明らかにした。

 知事から調査を命じられる“布石”は、その1週間前に打たれていた。

 1月20日、知事執務室。守屋監査人が石原知事に対する事前説明を行ったが、監査人からは、社会福祉総合学院の根本的な見直しについての詳細な報告がなかった。すると、報告書本文をめくっていた浜渦副知事が「社会福祉総合学院は?」と監査人に改めて説明を求め、「問題」を印象づけた。

 この翌日、監査人が補助者の公認会計士を伴って浜渦副知事室を訪問。「時系列についても報告してほしい」という知事のリクエストに応じるため、浜渦氏は監査報告の「補足説明」を提出するよう口頭で依頼。2月2日に「監査報告概要版の補足説明」という書類が届けられた。

 「敬心学園の収益事業に対して都が補助金を出していることにもなる」「土地と建物の財産的価値を考慮に入れた賃貸料で契約できるように交渉し、それができないならば、5年間の賃貸借契約の期間満了をもって、更新せず、全庁的に本件資産の有効活用を図るなど、抜本的な対策を講じる必要がある」と、正式な監査報告よりも一歩踏み出した内容が記されている。

 浜渦副知事が「補助金が正当でないかもしれない疑義が発せられた」と判断した根拠となる重要な資料だ。だが、この補足説明書は外部監査担当の総務局長すら、百条委の記録提出まで、その存在すら知らなかった。

 そして同日、浜渦副知事は総務、財務、福祉保健の3局長を呼び、学院設置運営の経緯、都有財産活用の経緯、受託者決定に至る経緯などについて事実関係を明らかにするよう、調査の指示を出した。幸田昭一福祉保健局長は、その時の様子をこう証言する。

 「3局長が呼ばれた時、副知事はペーパーが入ったクリアホルダーを持ちながら、包括外部監査人、弁護士などからの資料がある旨の話があった」

 この一方の文書こそが、「当時の福祉局長」が独断で事を進めたという誤った情報を前提に、財産運用部の非常勤顧問弁護士が巨額な賠償請求の可能性を警告した「弁護士意見」だ――と議会側はみている。

第2回(2005年5月27日付)
 会見前日に極秘の「知事ブリーフィング」

 2月2日に浜渦副知事が関係3局長へ調査を命じたのと前後し、桜井出納長は「知事から財産管理面を中心に調査せよと、特別な指示を受けた」と百条委で明らかにした。

 知事は会見(4月22日)で、桜井出納長に特別な指示を出したかどうか質問され、「何が?(指示)してませんよ」と一旦は否定したが、3時間後に異例の再会見で「特別な指示かは覚えていないが、出納の立場で(調査を)やってくれと言った」と発言を修正した。

 その時の説明では、「浜渦副知事がアメリカに行っていなかったから」と述べていることから、浜渦氏の出張期間である2月5日から14日までに指示を出したことになる。「突然に知事室に呼ばれた」(桜井氏)となると、平日の知事日程で「終日庁外」とされた日を除けば、8日か10日のいずれかになるはずだが、桜井出納長は証人尋問で「2月上旬だが、具体的な日時は覚えていない」となぜか明言を避けた。

 それから約2週間、桜井出納長は単独で調査を進め、2月24日、午後1時30分、桜井氏は公用車で都道府県会館の東京事務所に向かった。“特別な調査指示”を受けた桜井氏が、「知事に呼ばれ、その時点までに把握できた大枠の事実関係について、報告するためだ」という。共産党が開示した浜渦副知事の公用車運行記録によると、桜井氏と同時刻に都庁を出発し、千代田区に行っている。「浜渦副知事はたまたま、後から来た。私は別だてで(調査を)やってきている。浜渦副知事に報告したこともない」と、2人の一体関係を強く否定したが、同席したことは認めざるを得なかった。

 桜井氏は石原知事に対し、「福祉保健局の資料の中に、念書、それと、特別なケースだというようなことをいっている文書がある。この福祉保健局の資料を使って淡々と事実関係を説明した」(出納長証言)。

 この報告を受けた石原知事は、翌日の定例記者会見でこう発言する。

 「とても大事な問題が出てきて、私もちょっとびっくりしている。都有地を使って、特定の学校法人が学校を設置して運営しているということだが、私は認めた覚えはない。(平成)13年11月に民間に委託するということだけは聞いたが、かなり無理なことをしている感じがする。大体、学校なんて、前後合わせて3カ月でできるもんじゃない。しかも、残っている文書の中に『特例中の特例』だとか、どういう権限で出たかわからない『念書』なるものがあって、とっても大変な問題だと思う。そういう形で運営されていたのは初めて聞いた。正すものは正していかないといけないと思っている。けが人が出るかもしらんね、この問題は」

 この「けが人」会見に関し、百条委の証人尋問で浜渦副知事は、「知事が発言した念書、また、特例中の特例ということについては、私は承知していない。関知もしていない」と証言した。

  ■  ■  ■

 記者会見での知事発言を検証すると、「民間委託だけは聞いたが、特定の学校法人が学校を設置して運営していることは認めた覚えがない」と述べている。

 桜井出納長が知事に調査報告した際に用いた資料の中には、確かに01年11月に福祉改革STEP2を知事に説明し、学院の運営形態見直しも項目の一つとして取り上げられていた。ところが百条委の証言によれば、翌年1月25日に福祉局が知事に対し、運営事業者・借受者の具体名を挙げて説明を行っているのだが、その説明資料が見つかったのは、百条委員会が設置された後のことだった。

 4月22日の百条委で公明党の木内議員は「今回のこの疑惑をつくり出した者は、大きなミスをしている。当時の福祉局が知事ブリーフィングをきちんと行っていたことに気づかず、誤った情報を知事に入れてしまった。その人物は誰か――浜渦副知事か証人のあなた(桜井出納長)か、どちらしかない」と指摘した。

 この事は、「疑惑捏造」の大きな綻びといえるが、百条委での複数証言をクロスチェックして初めて判明する事実だった。

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 庁内に大きな波紋を呼んだ知事の「けが人」会見終了から約30分後、浜渦副知事は民主党の富田政調会長を部屋に呼び、「行動」を起こした。

 「予特で質問をしてほしい。学院の件について、疑問点を並べてくれればいい。知事が『けしからん。担当の副知事から答弁させる』と言う。後はすべて自分が答弁する」

第三回(2005年5月31日付)
 執拗な「疑惑」質問の働きかけ

 3月3日午後3時前。本会議の休憩中に民主党の名取憲彦幹事長が議長室に現れた。

 「わが会派の富田(政調会長)が、浜渦副知事からかなりしつこく、予特で社会福祉総合学院のことで質問するよう、頼まれているので困っている」

 知事が会見で「けが人」発言をした直後、浜渦副知事は富田政調会長に対し、予特質問の働きかけを開始したが、その後も「民主党役員会に伺って直接お願いしたい」と要請したり、都響の話だと富田氏を呼び、「(学院問題を質問するかについて)どうか」と執拗に迫っていた。

 名取幹事長は「質問を行うべきでない」と考えていた。だが、浜渦氏が知事の側近中の側近であり、あまりむげな対応もできない。苦慮した結果、代表質疑でなく、中村議員の一般質問で予定を組んで、質問通告書に「監理団体について」を入れておき、当日は質問しない予定でいく考えだ――内田議長に打ち明けた。

 浜渦副知事の“仕掛け”がどういったものか、「けが人」は誰を指すのか、内田議長はすでにいくつかの情報を入手していた。

 「そんなことを民主党の会派として受けたら大問題にもなるし、議会の中でも孤立する。あなたの会派もバラバラになってしまうのではないか。議会の立場としても見過ごすことはできない。この問題で私は、一切関与していないのだから、議会に手を突っ込むようなことはやめさせた方がいい。質問はやらせない方がいいんじゃないか」

 だが、翌週の11日、議長室を訪問した名取幹事長は、「その後、いろいろの働きかけがあって質問することとなった。自分としては、都政の中で今まで積み上げてきた立場、議会内での議長をはじめとした信頼関係など全部無にすることになるといって頑張ったが、だめだ」と報告する。その間、浜渦副知事と富田政調会長、質問者の中村議員との間で、学院問題の質問と答弁が調整されていき、内部資料の写しも手渡されていた。

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 石原知事は今月20日の記者会見で、「名取幹事長とある席で会った時に、『非常にこれについて関心をもっているので、民主党もこの問題について考えてほしい。詳しくは、監理団体担当の浜渦から聞いてくれ』と言った。その後、彼が呼ばれて説明をしたと思うが、そのとき、質問をやってほしいと依頼はしてないはず」と、議会から偽証と認定された浜渦副知事をかばった。

 同日、民主党も記者会見を開き、包括外部監査結果が本会議で報告された23日の夜、知事との会合の場で、「是非とも注目していただきたい。言われているように人事の問題ではない」と言われたことから、会派として鋭意調査・検討し、予算特別委員会で取り上げたものだと主張。2月25日から浜渦副知事と接触したことは認めたが、「事情を聴取したもので、質問依頼はない」と、「やらせ質問」を否定した。

 そして今月24日付で議会側に提出された浜渦副知事の陳述書でも、「質問依頼や働きかけは一切ない。民主党から要請があれば説明してくれと知事に言われ、今後の対処方針や私の見解を答えただけだ」と弁明している。

 かりに、知事と名取幹事長の会話が起点だとしても、「重大な問題だ」と知事が認識していたからこそ、名取幹事長に関心を喚起したのである。結局は、調査改善委員会の報告が示すように、「問題がない」ことをあたかも疑惑があるかのように知事に刷り込んだのは誰なのか――という振り出しに戻る。それが今となっては明白だ。

 知事もようやく「あとになっていろんな人の意見を聞き合わせてみると、最初に『ある部分の責任者』から私にもたらされた情報なり分析は、ちょっと偏ったところがあった」(27日の記者会見)と認識を改めた。

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 百条委員会はきょう5月31日、山崎孝明委員長から調査報告書案が示される。疑惑捏造によって、都政の混乱と停滞、信用失墜、庁内の相互不信という異常事態を招いた者の責任は、厳しく追及されることになる。


 

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