都政新報
 
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【多摩】走り出した事業仕分け(下)


  国と異なる「自治体版」仕分け

職員の意識改革も期待


 「事業仕分け」を市民参加で行うメリットについて、各市の担当者が口をそろえるのが「行政側にはない、事業の受け手となる市民目線での行政改革」だ。他方、外部の専門家や別の自治体職員らが評価する、いわゆる国の事業仕分け手法には、否定的な見方もある。
 ある市の担当者は「専門家は、事業自体は理解しているだろうが、市民が事業をどう考えているかとは、微妙に違う部分もある」と指摘する。無駄な予算の削減を主眼に置いた国の仕分けと、基礎的自治体が行う仕分けは、目指す効果も異なるというのだ。
 国の事業仕分け手法との違いを強調するのが青梅市だ。事務事業評価に公募市民や学識経験者などが仕分け人となり、廃止も含めて事業を評価する点は国と同じだが、行政管理課の松岡俊夫課長は、「青梅市の場合、『市として事業が必要か』の視点で判断しているが、国の事業仕分け手法では、市の実態を知らない仕分け人が、『基礎的自治体に必要か』の視点で判断する。ニーズは自治体ごとに異なるはずだ」と話す。
 さらに、国の仕分け手法との明確な違いが結論の出し方だ。国は仕分け人の多数決で結論を出すが、青梅市の場合、様々な意見をそれぞれの評価として受け止める。松岡課長は「立場が異なれば評価も違う。9割がいらないと感じても、1割が必要なら事業を行うのが基礎的自治体の役割」と国とのスタンスの違いを示した。
 国の手法については、仕分けを行った行政職員からも戸惑いの声が聞かれる。
 「事業の利用者やサービスの受け手が見えない中、原理原則で判断するのは難しい」。調布市が7月22日に事業仕分けの手法で行った「事務事業側面評価」の仕分け人として参加した武蔵野市企画調整課の齋藤綾冶課長補佐は、仕分けの難しさをこう語った。
 同じ市役所の職員や直接サービスを受ける市民の立場とは異なり、感情移入せずに客観的な判断ができる利点はあるが、その裏返しの難しさも痛感したという。
 国の事業仕分け第2弾の仕分け人にもなった首都大学東京の奥真美教授は、仕分け時の留意点について、「仕分け時は、一つひとつの事務事業しか見られないが、施策は複数の事務事業のパッケージで成り立つ。仕分けによって施策全体のバランスが崩れる可能性もあり、仕分ける側が事前に改革の全体像を勉強する時間を取ることが大切。木と森の両方を見ることが必要」と説明する。
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 「正直言って困惑している」――。今年度の通年予算を審議した4月の臨時議会終了後、東久留米市の馬場一彦市長は、こう漏らした。
 自らの選挙公約に掲げて予算に盛り込んだ事業仕分け関連費216万円について、議会が「専門家を使う必要はない」として修正案を提出し可決。事業費は約6万円に削減された。当初は政策シンクタンク「構想日本」に委託する考えだったが、大幅減に「限られた予算の中、ボランティアだけでどこまで精度を上げられるかが課題」と話す。
 国立市も、事業仕分けの予算158万円を6月補正に計上したが、「12事業を仕分けるのに高額すぎる」など、費用面が一因となって否決された。
 コストに見合う効果が得られなければ、事業仕分け自体が「廃止」の評価を下されかねない。市民の意識向上なども期待される事業仕分けだが、他の事業と同様、費用対効果をはっきりと示すことが求められる。
 例えば八王子市は、07年度から事業仕分けを実施しており、見直しによる削減効果は09年度予算で2・7億円、10年度予算で約6千万円となった。また町田市も、08年に「構想日本」に委託して実施した仕分けでは、次年度予算ベースで約5千万円の削減効果を生んでいる。
 こうした目に見える効果の一方、定量的に測りにくいが、どの自治体も期待するのが職員の意識面の効果だ。7月24日に初の事業仕分けを行った稲城市企画部政策室の杉本副参事は、「行政には事業の説明責任があるが、市民の前で説明する機会はあまりない。公開での事業仕分けを職員の意識改革や能力向上につなげたい」と狙いを語る。
 事業仕分けの目的に、職員の研修を明確に位置づけるのは調布市だ。行政評価の一環として、所管外の職員が第三者的な視点で事業を見直す「事務事業側面評価」を06年度から実施。より市民に近い目線で見るため、当初は入庁1~2年目の職員を評価者としたが、昨年から中堅職員に切り替えた。
 「新人職員では一方的な見方をしてしまうケースが目立った。自分の業務経験に基づいた解決策を導き出しづらいようだ」。調布市行政経営部の宇津木光次朗副参事は、そう反省点を示す。
 例えば、事業を「廃止」としても、行政としては代替え策など、その後の対応策も考えなければならない。中堅職員を評価者に据えた狙いについて、宇津木副参事は「実践を積んでいるので、過去の経験に結び付けた評価ができる。また、職場でも中心として業務を担っており、仕分けする側、される側の視点を職場に持ち帰ることで、組織活性化にもつなげたい」と語った。
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 多くの自治体が事業仕分けに取り組み、職員や市民に浸透した今年は「事業仕分け時代の幕開け」となった。仕分けを実施する、しないにかかわらず、行政を取り巻く環境や市民の目線は、ますます厳しくなったと言える。そうした時代の中で、職員には何が求められるのか。稲城市の事業仕分けを行った「構想日本」の中村卓政策担当ディレクターは、「問題を発見する能力と、それを変えていくマインド」と語る。
 行政の現状について、「市民ニーズに応えようと施策を立案するのが役所で、目の前にある事業を間違いないよう進めるのが職員の仕事の仕方。役所内部では競争原理が働かず、直す部分があってもなかなか変えられない」と指摘。これを外部の視点で検証することで、事業を見直すきっかけにしてもらうのが事業仕分けの役割となる。職員には「日々の仕事の中でも、発見する力を持ってほしい」とコメントした。
 

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