都政新報
 
 >  HOME  >  連載・特集
【多摩】あきる野市 始動! 森林レンジャー 森づくりの最前線で(上)


  青い山、分け入って活動
市民や組織内の橋渡し役も

 あきる野市で、森の現況調査や地域資源の発掘、パトロールなどを行う森林レンジャーが今年5月に始動した。森に関する様々な分野の専門知識や経験を有する4人の精鋭部隊だ。レンジャーは環境省や都などで配置する例があるが、市町村レベルでの本格導入は全国初の取り組みとなる。どのような活動をしているのか、現場をのぞいてみた。

 「この奥に滝があるんですよ」。そう言って、隊長の杉野二郎さん(54)は、ずんずんと山道を進んでいく。梅雨の最中、雨の天気予報を見事に裏切り、雲の合間から青空がのぞく山歩き日和となったが、蒸し暑くてたまらない。先を行くレンジャーたちは皆、大きなリュックを背負った重装備だが、夏草が生い茂る鬱蒼とした森をこともなげに歩いていく。
 しばらくすると、深い谷間の渓流に出て視界が縦方向に開けた。気温も数度下がり、先ほどの蒸し暑さが嘘のようだ。さらに岩をくりぬいた階段を上ると、目の前に落差20㍍程の滝が現れる。八王子市との市境を越えた場所にある「金剛の滝」だ。秘境と思いきや、地元の小学生なら一度は訪れる場所だという。奥深い森が、市民には身近な場所であることに驚く。
    ◆
 あきる野市の森林レンジャーは、市が今年3月に策定した「恵みの森構想」の一環として導入したもの。市の6割を森林が占めるが、木材価格の低迷や林業従事者の減少、ライフスタイルの変化などに伴い、維持管理が難しい状況にある。
 この森を「財産」としてとらえ、将来を見据えた森づくりを進めるために策定したのが同構想だ。「希少動物が住める環境」や「環境・郷土学習の場」「気持ちよく歩ける森」など、森の類型・地域別に森づくりの方向性を示しており、具体化に向けた活動の最前線に森林レンジャーが立つ。
 例えば、今回のように観光資源をめぐり、森林の安全管理や散策路の点検などを行うこともレンジャーの役割の一つ。先日は散策路に倒れかかったモミの大木をチェーンソーで切り倒す処置も行った。
 担当エリアは既存の観光スポットだけではない。かつて寺社への参拝や炭焼きなどで使われ、現在は荒廃した古道を散策路として整備する際の事前調査を行ったり、話には聞くが、状況がはっきりわからない「幻」の沢や滝、鍾乳洞など、資源の掘り起こしも行う。
 「行ったことのない場所が職場になる」と杉野さん。樹木医でもあり、アフリカで砂漠化防止のNGO活動に20年間携わってきた経歴の持ち主で、豊富な経験から隊員の信望も厚い。
 また、ここ数年は西多摩地域で山仕事にも携わり、3年前から市内に住んでいる。杉野さんは「あそこの住民は市役所の職員は嫌いだけど、俺の話なら聞くからね」と笑う。地元市民とともに生活することも、森づくりを進める上での強みとなっているようだ。
 森のほとんどは民有地で、古道の整備などは地元住民との連携・調整がカギとなる。また、市内の森は、ほとんどが人工林のため、高齢化や後継者不足で手入れが行き届かないケースも多い。「ボランティアで森を守るなど、レンジャーが都市住民と地域をつなぐ存在となれれば」と語る。
     ◆
 4人の専門分野は植物学や生物学、地質学、エコツアーなど多岐にわたる。「森づくりを進めるには専門的な知識が必要だが、市の職員では限界もある」。あきる野市環境の森推進室の桜澤裕樹さんは、レンジャー導入の理由をそう説明する。単に山が好きな人ではなく、職員にない専門的な視点で森づくりをできる人を選んだという。自身も植物系統分類学の理学修士で、元環境省のレンジャーの経歴を持ち、レンジャーと共に森を歩く。
 また、市が一丸となって進める森づくりだが、教育委員会や商工観光課、農林課など、所管はバラバラで縦割りの弊害もある。「森づくりにレンジャーをかませることで、役所内でも橋渡し役となり、職員の意識付けにもなっている」と櫻澤さん。実際の活動以上に、その存在意義は大きいようだ。

 

会社概要  会社沿革  事業内容  案内図  広告案内  個人情報保護方針