都政新報
 
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【議会改革】監査委員制度は限界?


  「2年連続でデジカメ」
「役所へのタクシー代」


監査委員制度は限界?

 議会や議員個人の自律性が問われ、議会改革の象徴的なテーマである政務調査費。近年、ずさんな使い方に住民の厳しい批判が相次ぎ、自主ルールの策定などで議会側の取り組みも進んだとされる。しかし、オンブズマン団体などからは「相変わらず市民感覚から逸脱した使い方が続く」と手厳しい批判を浴びる。2010年10月2日に杉並区で開かれた「すぎなみオンブズ」による監査請求の報告会でも、議会や区監査委員の見解と市民側の批判の差が報告され、問題の根深さがあらわになった。

 区民6人が共同代表を務める「すぎなみオンブズ」は、3年前から区議の政務調査費を対象とした監査請求を実施。昨年の請求では、07年度分と支給された政務調査費のうち、364万円を不適切な支出として監査委員に認めさせた。
 08年度分を対象として4月に申し立てた監査請求では、区議1人について約24万円の不適切な支出が認められた。
 前回よりも改善したように見えるが、内容的には、引き続き監査委員が「問題なし」とした支出に一般感覚からは理解しがたい項目がある。報告会では、集まった約50人の区民らに向けて、オンブズのメンバーが各議員の主な支出と問題点を指摘していった。 
オンブズが「問題あり」と指摘した支出例は▽出張先を「杉並区役所」としたタクシー乗車賃▽自分が経営する会社と結んだ「代表者名」と「区議名」が同一の事務所賃貸契約▽ケーブルテレビ(スカパー)視聴料▽前年に政調費で購入した一眼レフ式デジカメと「使い分けるため」に新たに購入したデジカメ購入費==など。ほかにも、1人で200枚以上の宛名のない領収書を添付した区議や配偶者名の領収書を添付した区議がいたことなどが報告されると、会場からしばしば失笑が漏れた。
 いずれも監査委員は「適正」と判断したが、監査報告書を読むと「議員と経営する会社は別人格」「透明性の確保などの観点から問題なしとはしないものの、だからといって、一概に不適切な支出とはいえない」など、苦慮の跡が見られる記述があちこちに並んだ。
 そんな監査委員がさすがに強い懸念を示したのは、交通費用の「パスモ」「スイカ」などの管理のずさんさ。入金(チャージ)時点の記録で政調費を請求している議員が多く、中には複数のカードへ入金しているケースや10万円以上を入金している事例があった。
 監査委員は「買い物にも使え、入金だけでは政調費の使用といえない」と改めて指摘し、乗車記録の出力紙の添付などを求めるべきとの考えを示したが、あくまで今後の対応として08年度分は不問に付し、具体策は「10年度中をめどにする議会側の自主ルール作りに期待する」にとどまった。

自主返還は600万円

 すぎなみオンブズによる監査請求の申請から実施、結果報告までのおよそ2カ月間に、政調費報告書の「誤記」「計算ミス」を理由にした自主返還額は約600万円に及んだ。その中には、刑事告発されかねない深刻な事例もあった。
 ある区議は07年度の政務調査費で164万円分の切手を購入し、その後に全額を自主返還していた。08年度分でも全額(192万円)を切手代として一旦申請。その後に何らかの理由で自主的に全額を返還したことが判明した。
 オンブズのメンバーは「議員も、当初は申請を受理した区側も結局は責任不問。『返せばよい』で済まされない問題だ」と怒りを見せる。
 この日の報告会には、小松久子区議(生活者ネット)、奥山たえこ区議(みどり)、横田政直区議(みんなの党)が出席。区議の1人は、政調費が3カ月ごとに48万円ずつ自動的に振り込まれ、年度末に残額を返還するという支給方法が、不正の温床になっていると指摘した。
 オンブズ側は、11年春の統一地方選に向け、今回の結果などを公開する方針だ。メンバーは「返還させることが目的ではない。政務調査費ゼロの議員もいるが、逆に、研究調査をしないのも困る」と説明し、議員の活動や政治姿勢を知る一助にしたいと意気込む。
 監査委員とオンブズマンには本来、補完・協力関係が望まれるが、実情は敵対的な場合が多い。議員選出に加え、職員OBの委員が自治体の主流で結果的に行政と住民の対決の構図になりがち。杉並区の現在の代表監査委員は元区民生活部長だ。
 すぎなみオンブズも、監査請求とは別にプライバシーの問題で監査委員事務局と対立している。住民監査請求をした場合、請求人の個人名や住所が公開されるため、配慮を講じるように区への勧告を求め、10年3月に日本弁護士連合会に人権救済を申し立てている。
 区側は、請求人名は公益代表者として明らかにする必要があると主張するが、オンブズ側は萎縮させると懸念。区政の公正を目指すのは共通だが、両者の関係の溝は深い。

監査制度改革のヒントに

 特別区では06年に品川、目黒区議会で市民オンブズマンの調査などで政調費の不正請求が相次いで発覚。23区全体で、領収書添付の義務化やマニュアル策定などにつながった。政調費以外にも渋谷、墨田区などの選挙カー燃料費の不正請求、中野区における幹部職員の不正給与問題などの発覚でオンブズマン活動が成果を上げてきた。
 こうした活動を評価する声がある一方、団体によって設立経緯や組織、目的が異なり、実質は1人で運営している団体もあり一くくりにはできないのが実情だ。特定の政党や支援者とのつながりなどで、中立・公平性に関して疑問を持つ声もある。
 国は11年度以降に予定する地方自治法を抜本改正時、監査委員制度をゼロベースで見直酢方針を掲げている。10年6月に公表された基本方針では、現行の監査制度の限界を指摘。外部監査を含め、住民に理解される監査制度の構築を目指すが、具体的な議論は進んでいない。
 新制度に現行のオンブズマン活動を組み込むのは難しい。団体側にも、制度化によって草の根活動の良さが失われることを懸念する声がある。
 ただし、オンブズマンの実績や果たす機能について、行政や議会は冷静に分析し、自己反省や区民参画の手法づくりに生かすことは十分に可能だ。
(河)
 

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