都政新報
 
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【人】『がんを生きる』を出版した 都立駒込病院長・佐々木常雄さん


  

『がんを生きる』を出版した


がん・感染症センター都立駒込病院院長
ささきつねお
佐々木 常雄さん

 新駒込病院が誕生した1975年。日本初の化学療法科も設置され、抗がん剤治療の最前線に立ってきた。
 この30数年で患者への対応は激変した。「医師が患者になった時は二重カルテを作ってまで、がんであることを隠し通してきたのに、今ではこういう治療法があるがどうするかと、専門家でもない患者に責任を持たせる時代になってきました」
 外来も受け持つ院長のこの人のもとには、余命数カ月と告げられた患者がセカンドオピニオンを求めてくる。「知る権利も大事だが、治療法はないと言われて生きる患者さんは大丈夫だろうか」。自身に問い続けた思いが、『がんを生きる』(講談社現代新書)という本に結実した。
 「命は限られていることが分からないの」「何年生きるつもりなの」と言う医者もいる現実。「もっと生きたいと言えない社会は悲しい。宗教も力を持たなくなった今、心の中で辛い思いをして死んでいかなくてはいけない人に何かサポートできないかと、本を漁ったりしてきたんです」
 ある時、余命1カ月と告げられ、暗い表情だった患者が、「生きてるだけでいい」という夫の言葉が励みになり、元気が出たと話してくれた。そんな最期を目前にした患者から教わったエピソードを雑誌『エキスパートナース』に連載し、この本でも下地になった。
 心配は、死ぬという言葉さえ出して欲しくない患者が、病院長が最期の時の話を書くことを、どう思うかということだった。精神科の医者に絶対大丈夫と言われ、駒込病院の乳がんの患者会『こまねっと』の講演でも話してみたという。「心の中の不安は誰にも言えなかったが、先生が私たちの気持ちを考えてくれて、うれしいと言ってもらえた。少し自信が出てきた」と笑う。
 クリニカルパスを「看取りのパス」に使い、医療費が削減できたという病院を、医者や看護師向けの講演で容赦なく糾弾。「大事なのは、患者の気持ちになって寄り添ってあげること。話をすると分かってくれます」
 高齢で合併症を持つがん患者も多い。総合病院だからこそ、そうした患者を受け入れられると自負。「心を大切に」がモットーだ。効率優先で、高齢者にやさしい時代ではなくなっている。「一緒に良い人生をどうやって歩んでいけるかを考えていきたい」 (門)

 山形県生まれ。弘前大医卒。国立がんセンターレジデントから75年駒込病院。副院長を経て、08年4月現職。趣味は花を愛でつつ散歩。一女一男は独立。妻と暮らす。64歳。(随時掲載します)
 

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