都政新報
 
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【都議会】乱気流 検証・与野党逆転から一年(下)


  


a執行機関との距離感

本質外れた議論に翻弄
都知事選で地殻変動も

 「今までと真逆の立場で汗をかかなくてはならなくなる。自公に対しても、共産に対しても。大変だが、覚悟して欲しい」。仮に来春の都知事選で、民主系の知事が誕生したら――。こんな前提の下、民主党の大沢昇幹事長は、会派総会でこう訴えた。

 民主党は7月11日の参院選で、議席数を大幅に減らした。しかし、東京選挙区(定数5)では、蓮舫氏と小川敏夫氏で240万票を叩き出し、自民の100万票を大きく上回っている。直近の長野県知事選でも、自民系候補が有利と言われながら5千票差で競り勝ち、民主系の都知事というのは、あながち絵空事ではない。
 
 民主には、外郭団体や天下りなどで、行政を追及して名を上げてきた議員が少なくない。与党議員として知事を支えるべく「追及」だけでなく「クリエイティブ」な役割を担うよう準備をして欲しい。大沢幹事長の発言には、こんな意味も込められている。

■ガバナビリティー

 参院選の結果により、国政は「ねじれ」の状態に陥ったが、都政ではすでに知事と議会とのねじれを1年余、経験してきた。こうした中で、複数の都幹部が口をそろえるのが、民主党のガバナビリティーの弱さだ。都議会のキーマンが次々に姿を消す中で、都幹部は「誰が民主党をまとめて行くのか」と熱い視線を送る。

 「自民党の場合、重鎮と執行部、選挙区の議員と調整すれば終わる。しかし、民主党には政策の方向性を理解してくれる議員はいても、それが会派の意思になるとは限らない」。総務課長の一人はこう話す。

 その傾向は、今年に入ってから顕著だ。都青少年健全育成条例の改正と東京マラソンの法人化は、いずれも一部都議の反対が会派内に伝播し、執行部一任を取り付けた後も異論が公然と出た。都幹部の一人は「執行部が腹をくくっていたとしても、それが党内の世論に集約されるのか読めない」と表現する。

 しかし、民主党の大沢昇幹事長は「それは、執行機関の言い訳だ」と反論する。「我々は、決算の不認定など、けが人が出ないところから『都議会の意思決定は変わった』というシグナルを送ってきた。でも、一向に相談に来ない。それで民主党の責任にされても片腹痛い。上だけを説得すれば通るのであれば、議会は必要ない」。

 端的な例として、都立小児病院の統廃合を挙げる。「身近なところで住民説明会をやって理解を得て、方向性を決めるのが普通。医師会やトップだけを説得して終わりとするのは、考えられない」。

 都は2010年度の復活予算200億円で、民主党の独自要望に対して7千万円を措置した。従来は自民、公明両党の要望だけに満額回答してきたが、民主党にも一定の配慮を見せた形だ。それでも、執行機関と民主党の距離感には、なお隔たりがある。

■回らぬ歯車

 では、都政はこの間、前に進んだのか。

 「厳しい政治・経済環境の中で、都政こそが前に向かって歯車を回さなくてはならないのに、そうならない。議員の一人として責任を感じる」。公明党の中嶋義雄幹事長は、与野党逆転の1年をこう振り返る。

 「築地移転と青少年健全育成条例の問題で混乱した。それが都政を象徴している」。築地移転問題は、新市場の機能ではなく、豊洲の土壌汚染が議論の中心になった。「土壌汚染は完璧に処理しなくてはならない。本来、新市場の規模や機能、食の文化をどう発信するかに議論を収斂させるべきなのだが…」と中嶋氏。

 都政運営は与野党間の駆け引きに時間を割かれることが多く、民主幹部もこの点について、「今までは不慣れな部分があり、議論の入り口論で時間がかかった」と認める。「それは短縮できるし、本質的な議論には時間をかけたい」という。

■積み重ねの中で

 知事選まで半年を切り、執行機関と議会の双方から推進力が働きにくい状況で、各党は当面、知事選に向けた政策づくりと、候補者選びを本格化させることになる。

 民主系の知事が誕生すれば、議案を通そうと民主から自公に接近し、自ずと「民自公」の議会運営になると見る向きは多い。逆に、自公が知事の座を死守すれば、民主は第1党ながら引き続き野党ということになり、現在のねじれ状態は2013年の都議選まで続く可能性が高い。

 局長級幹部の一人はこう話す。「言い方が極端かもしれないが、民主は我々を『敵』『相手』と思うのかもしれない。そうでない関係を互いに築かないといけないし、執行機関にも努力が必要だ。自民党と築いてきたように、『何かが実った』という経験の積み重ねの中で、関係ができるのかも知れない」。

 次の都知事を握るのは、民主か自民か。あるいは第3の勢力から知事が生まれ、都議会はオール野党から仕切り直すのか。来春の都知事選は、都議会が地殻変動を起こす引き金になるのだろうか。(終わり)


 

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