都政新報
 
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【都議会】乱気流 検証・与野党逆転から一年(上)


▲民主党の田中良・都議会議長は杉並区長選に転出。都議選での自民党幹部の落選に続き、またキーマンが去った。
  


a与野党の綱引き 
協調か決別か、路線選択迫る

 昨年7月の都議会議員選挙で、与野党が逆転してから1年余が経過した。自民、公明両党が第一党の民主党に「路線選択」を迫った昨年8月の都議会臨時会の流会に始まり、与野党は駆け引きを繰り返してきた。都青少年健全育成条例の改正案のように、与党に数で押し切られることなく、民主が攻勢に転じた例も。この1年で議席数の差は改選当初の5から僅か2に縮まり、与野党の勢力はますます拮抗している。庁内には、「これまでの議会回しは通用しない」との声も漏れる。都議会はどう変わったのか。与野党逆転の1年を検証する。



 「誘いに乗る方も乗る方だ」。前都議会議長の田中良氏(民主)が辞任を表明し、杉並区長選に出馬することが日刊紙で報じられた直後、自民党の重鎮が民主党の中村明彦氏(台東区)に会談を持ちかけていた――。この話を聞いた民主党幹部は後日、呆れた表情でこう語った。

 議長選では、自民党から中村氏の「ご指名」があったと言われる。民主党内には「名前が出るから、議長になれなかった」と見る向きすらある。

 翌週の民主党の会派総会では、中村氏は議長就任に対する意欲を同僚議員らの前でアピールしたが、大勢は和田宗春氏(北区)で固まっていた。大沢昇幹事長は、和田氏が田中前議長の残任期間を務め、後半の2年間に中村氏が就くという「セット人事」で着地を図った。新銀行や築地市場移転といった対立軸を抱える中、新議長に自公に距離を置く和田氏が就いたことは、与党との調和重視ではなく、対抗勢力としてのスタンスを踏襲したものと言える。

■都議会の「かたち」

 都議会は昨年の改選で、民主など非自公が66、石原与党の自民、公明が61で、野党側から3人の造反が出たら議決結果が逆転するという微妙な力関係が出来た。

 しかも、自公の結束が出来ているのに対し、野党側の64には共産党8が含まれるなど、いわば「砂上の楼閣」。民主党と共産党が、自公のように政策協議して行動することがあり得ず、ここに与党側は、付け入る隙を見いだしている。

 この流れの源は昨年8月、新議長をはじめ、4年間の議会構成を形作った都議会臨時会の流会にある。自民党の重鎮は、「4年間、議会として執行機関と対峙するわけだから、2チームに分けたのではダメ」と語った。また、特別顧問の高島直樹氏も流会について、自身のブログで「スタート時のつまづきです。しかし、この空白が4年間の東京の発展に寄与される大きな力になるかもしれません」とつづっている。

 要するに、民主党が共産党などと組んで野党の色彩を強めるのか、従来通り自・公・民での協調路線で行くのか、「踏み絵」を踏ませた。こうした中で、民主党幹部が唯々諾々と与党側のアプローチを受け入れなかった結果が、前代未聞の流会という形で現れたのだった。

 臨時会の流会を経て、議長ポストは民主党が握った。それでも、都政の重要案件で主導権を握るため、自民党は老獪さを見せつけた。

 当時の与野党の議席数の差は5。この制約条件の中、自民、公明両党は経済・港湾委や厚生委で与野党を7対7とし、委員長を民主党から出させることによって、過半数を握る「実」を取った。その裏返しで、総務委での都青少年健全育成条例改正案の否決や、公営企業委での八ッ場ダム反対派が出した水需要予測の実施を求める請願の趣旨採択は、数で抗えなかった。築地移転や都立小児病院の統廃合などは、都の方向性のまま通してきている。

■試金石になるか

 乱気流の中で航海を続ける「石原丸」の任期も残り半年余り。大きな案件を決着させる上で、都幹部が与党の最高幹部に頼る部分は今なお大きい。

 特に焦点になった10年度予算案を巡る攻防の中で存在感を発揮したのは、昨年の都議選で落選した内田茂、高島直樹の両特別顧問と、民主の田中良前議長だった。「議会としての方向性は、場外で決まる」。当時、民主幹部が自民党の執行部に不信感を募らせ、執行機関も前都議を頼ったことから、こう表現された。

 そして今、自民の重鎮に続き、田中良氏も杉並区長選に転出。実質的な与野党の差は2議席となり、都政の行方はますます混沌としてきた。民主党は都議の離反がない限り、少なくとも2013年夏までは第一党の座に君臨する。執行機関が辛酸を舐めるケースは引き続き、出て来ると見られる。

 こうした中、第3回定例会では築地市場の移転・再整備を巡り、再び与野党がぶつかる。8月下旬以降の審議では、民主が提示した現在地再整備の叩き台を基に、都が豊洲移転と比べられる案に練り上げる作業が行われる。

 キーマンが次々と消える中で、築地市場の移転問題に見られるような会派間の協議は、今後の都議会の合意形成過程の一つの試金石になるのだろうか。


 

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