都政新報
 
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都議選 ゲームチェンジャー 第2部~激戦区を行く(3)/野党共闘の行方/定数1でも戦線に食い込み


  4月下旬の早朝、JR日野駅前に緑の旗を抱えたスーツ姿の男性2人が現れた。一人は都民ファの現職、菅原直志(53)。もう一人は、直近で行われた市議補選で当選した森久保夏樹で、通勤客らに選挙後の謝辞を述べていた。
 市議補選は欠員3に対して4人が立候補し、自民と共産が順当に議席を確保。菅原の支援を受けた無所属の森久保が1万3千票で3位に滑り込んだ。菅原は前回選挙で民進から公認を受けたものの、直前の4月に都民ファにくら替えしてトップ当選。同市は日野自動車やコニカミノルタ、富士電機などの工場が立ち並び、労働組合の組織票が強いとされる地域で、民主系の票を取りまとめ、「小池旋風」に乗って勝利した。
 ただ、今回は風は吹いておらず、市議補選でも3位と都議選の「定数2」には届いていない。4年前には旧民進時代の「恩師」の長島昭久衆院議員の協力も得たが、長島は自民に転じ、選挙区も移ったことから、選挙協力は望めない。市議時代から積み上げてきた地元での自力が試される選挙となる。
 一方、自民は現職の西野正人(61)が立ち、組織力を生かして堅実な地上戦を展開する構え。ただ、西野は昨年の補選で当選したばかりで、今も地盤固めの最中にある。
 党総支部の幹部によると、前任の古賀俊昭は企業や団体の組織票の取りまとめを中心とした「王道」の選挙よりも「個人」の顔で当選を重ねてきた。そのため、支持基盤が弱い面もあるという。昨年の補選では、菅義偉官房長官(当時)の応援も受ける総力戦だった。
 また、市長選は都民ファと自公が「相乗り」で推薦した現職が勝利したものの、汚職で逮捕された元副市長の任命責任を問われて苦戦。対立候補とは1千票の僅差(きんさ)で、白票を投じた有権者も多かったという。
 都民ファと自民がそろって警戒感を口にするのが「野党共闘」だ。共産が公認した清水登志子(58)は昨年の都議補選で西野に1万票差を付けられて涙をのんだものの、約3万5千票を集めて善戦。同市では1973年から97年まで森田喜美男市長による革新系の市政が続いたため、高齢者層で革新系の支持が根強く残るとされる。
 共産は2005年の選挙を最後に議席を獲得できていないが、近年では安保法制反対の市民運動を草の根レベルから積み上げ、市議補選でも1万6千票を獲得している。今回の都議選では「野党共闘」で立民との選挙協力の調整も進め、地元の大河原雅子衆院議員の応援を受けて若年層を中心に浮動票の掘り起こしを模索する。
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 現職が「野党共闘」に危機感を抱く構図は、武蔵野市(定数1)も似ている。 
 同市はもともと、リベラルが強い選挙区で、過去の結果を見ても、05年、09年は旧民主の松下玲子(現武蔵野市長)が制し、自民が全勝した13年ですら松下は約2万1千票余りを獲得。共産と競合したにもかかわらず自民とは1千票弱にまで迫った。 
 同市での選挙戦は、都民ファ現職の鈴木邦和(32)と、自民新人の土屋ゆう子(51)、立民の五十嵐衣里(37)の3人が軸になるとみられている。鈴木は前回、小池旋風の下、公明の支援を受けて2万7千票超で松下を破った。鈴木は2カ月に1回のペースでチラシをまく「物量作戦」を展開し、認知度を高めつつある。 
 これに対し、土屋は市議団の支援を受けながら活動量を増やしている。元武蔵野市長の父・正忠の秘書も経験しただけあって、「地元」を前面に押し出して支持の拡大を訴える。
 今回、自公は選挙協力を結んでおり、友党の協力も得たい考え。ただ、同市の基礎票を見ると自民系は1万4千余、公明は4千余で、当選ラインに乗るには浮動票の取り込みも欠かせない。また、小池知事の出方次第では公明票がどう動くかは読みにくい部分もある。 
 こうした中、存在感を出しているのが立民の五十嵐だ。中卒で飲食店勤務やトラック運転手を経験し、夜間大学に通って弁護士資格を取った異色の経歴を持つ。
 地元出身でないとはいえ、松下玲子市長や元首相の菅直人衆院議員とも駅頭に立ち、将来的に「菅の後継になるのでは」との見方も。小池都政について聞くと、「行き当たりばったりでコロナ対策を決定しないでほしい」と批判し、現在の感染状況下での五輪の延期・中止を訴えた。 
 共産は候補を出しておらず、対応を検討中としているが、五十嵐にその基礎票が乗れば、より優位に立つことから、他陣営の警戒感は強い。共産や立民が定数1~2の選挙区で着実に議席を増やせるかは、国政での選挙を視野に連携を重ねる両党の試金石になる。
 

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