都政新報
 
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■東京都予算案特集/2021年度東京都予算案の概要


  東京都の2021年度予算案が1月29日に発表され、2月17日に開会する第1回定例都議会に提出される。21年度予算案は「厳しい財政環境の中にあっても、都民の命を守ることを再優先としながら、東京の経済を支え、その先の未来を見据えて、都政に課せられた使命を確実に果たしていく予算」と位置付け、編成された。一般会計の予算規模は、過去最大となった令和元年度に次ぐ約7兆4250億円となり、コロナ禍により大きな影響を受けた社会・経済の早期回復に向けた取り組みや、東京の未来を切り拓く羅針盤となる長期戦略で掲げる政策に重点的に予算配分した。都税収入が減少する中にあっても、現下の課題と未来に向けた施策に重点的に予算を振り向けるため、16年ぶりとなるマイナスシーリングや、終期を迎える事業の事後検証の徹底などによる財源確保、基金や都債の積極的な活用など持続可能な財政基盤を堅持しながら、メリハリを効かせた予算となっている。予算案の概要を財務局が発表した資料をもとに特集する。

◆予算編成の基本的考え方
○予算編成方針
 「厳しい財政環境の中にあっても、都民の命を守ることを最優先としながら、東京の経済を支え、その先の未来を見据えて、都政に課せられた使命を確実に果たしていく予算」と位置付け、次の点を基本に編成した。
1 将来にわたって成長し続ける都市・東京の実現に向けて戦略的な取り組みを果敢に進めていく、加えて、新型コロナウイルス感染症対策にしっかりと取り組むとともに、この間、浮き彫りとなった課題に的確に対処していくこと

2 社会変革に適応したデジタル化による都民サービスの向上など、都政の構造改革を進めるとともに、ワイズ・スペンディングの視点により無駄を一層無くし、持続可能な財政運営に努めること

3 東京2020大会を都民・国民の理解を得られる安全かつ持続可能な大会として実施し、次世代へレガシーを継承していくこと

◆財政規模
 財政規模(表1)のうち、一般会計の予算規模は、前年度比1・0%増の7兆4250億円、うち政策的経費である一般歳出は、前年度比1・4%増の5兆6122億円、特別会計及び公営企業会計を含めた全会計の合計は、前年度比1・9%減の15兆1579億円となった。
 歳出面では、東京の未来を切り拓くための戦略的な取り組みや、コロナ禍により大きな影響を受けた社会・経済の早期回復に向けた取り組みなどに、重点的に財源を振り向けた。

○歳入の状況(表2)
▽都税収入
 都税収入は前年度比7・3%減の5兆450億円となった。
○歳出の状況(表3)
▽経常経費
 経常経費は前年度比4・2%増の4兆6719億円であり、うち給与関係費は前年度比0・1%減の1兆6299億円となった。給与改定に伴う減などにより、前年度に比べて14億円の減となった。
▽投資的経費
 投資的経費は前年度比10・4%減の9403億円となった。豪雨対策や震災対策などの災害に強いまちづくりを推進するなど、高い効果が得られる事業に財源を重点的に配分した。
▽目的別内訳(表4)
 構成比が最も高い分野は福祉と保健(23・1%)、次いで教育と文化(20・8%)、警察と消防(16・1%)の順となる。
 限られた財源を重点的・効率的に配分し、都民生活の質の向上に努めている。

◆財政運営
○予算のポイント
 予算のポイントは、大きく次の3点。
1 都民の命を守り、東京の経済を支え、その先の東京の未来を創る
 人口減少や更なる少子高齢化への対応、豪雨対策などの災害への備え、安全安心な東京2020大会の開催に向けた準備などの取り組みを着実に推進するとともに、「世界一オープンで、強い経済・金融都市」や「ゼロエミッション東京」の実現、「新しい日常」への対応など、SDGsやサステナブル・リカバリー(持続可能な回復)の視点も踏まえ、東京の持続的成長につながる取り組みを積極的に事業化している。
 加えて、感染症対策や緊急雇用対策、感染防止と経済活動の両立を図るための多面的な対策を事業化している。
 さらにAI、IoT、5Gなどの技術革新をいち早く取り込むことでデジタル化を加速させ、都民生活の豊かさや生産性を向上させるとともに、コロナ禍を乗り越えたその先を見据えた東京の構造改革を進めるなど、新しい社会を創り上げていくための取り組みを推進していく。
 なお、医療提供体制や感染症対策などについては、直近の感染状況を踏まえ、補正予算編成等により実効性のある対策を迅速に講じることとし、2月中旬を目途に追加補正予算を編成する。
 21年度の施策体系は次の通りである。
◇「人」が輝く、誰もがいきいきと活躍できる都市
◇世界一安全・安心、便利で快適な都市
◇日本の発展を牽引(けんいん)し、将来にわたって世界をリードする東京
◇美しく、魅力あふれる都市
◇「スマート東京」の実現
◇東京2020大会の開催とレガシーの創出
◇多摩・島しょの振興

2 東京版ニューディール~TVA作戦~
 コロナ禍の状況を踏まえた雇用対策を重点的に事業化し、2万人を超える雇用を創出する大胆なプロジェクトを展開していく。
 加えて、デジタル技術の利活用、ZEVや充電設備の導入促進、林業振興等をはじめとする環境分野への投資、無電柱化の加速など、グリーン・サステナブルな都市、安全安心な都市の実現に向けた投資を集中的に行うことで、新たな需要を喚起していく。

3 東京の構造改革の推進に向けた取り組み
 都政のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進をてことし、都政のQOS(クオリティー・オブ・サービス)を飛躍的に向上させ、都民の期待を上回る価値を提供していくことを目的とし、「都政の構造改革」を展開していく。
○持続可能な財政運営
 都税収入は景気動向に左右されやすい不安定な構造にあり、新型コロナウイルス感染症の影響による景気動向は依然として不透明な情勢のため、今後も厳しい財政環境が続くことが想定される。
 これまで培ってきた財政の対応力に更に磨きをかけるとともに、成長が財源を生み、生み出された財源を活用して更なる政策へとつながる好循環をつくり出すことで、持続可能な財政基盤を堅持していくことが必要となる。
○施策のPDCAサイクルの更なる強化
 都は17年度予算編成から全ての事業に終期を設定し、終期が到来する事業の事後検証を徹底することで見直し・再構築につなげるなど、事業評価の深化に取り組んできた。
 また、各局が自律的に施策の見直しを行う取り組みとして、19年度から政策評価を実施しているが、21年度から、政策評価と事業評価、それぞれの強みを生かして統合し、一体的に評価を実施するとともに、KPI(重要業績評価指標)の達成状況を踏まえた評価を実施するなど、より一層実効性・効率性の高い施策・事業の構築に向けて取り組んでいく。
○基金の活用(表5)
 安全安心な東京2020大会の開催に向けた準備や、福祉先進都市の実現、防災街づくりなどに必要な財源として、基金を8290億円取り崩して活用し、21年度末における基金残高は、7611億円となる見込みとなっている。
 新型コロナウイルス感染症の影響等、景気動向は依然として不透明な情勢にあり、厳しい財政状況が想定されるが、引き続き、税収や財政需要の動向などをしっかりと見極めながら、中長期的な視点に立ち、戦略的な基金の活用を図っていく。
○都債の活用
 21年度予算では、これまで培ってきた発行余力を生かし、充当可能な事業に対して、都債を積極的に活用している。
 また、東京グリーンボンドの発行額を100億円増額し、合計400億円に拡大するとともに、ソーシャルボンドを600億円程度発行し、合計で1千億円程度のESG債の発行を目指す。
 起債依存度は7・9%と、前年度比5・1%増加したが、国や地方全体と比べて引き続き低い水準を維持している。

◆事業評価の取り組み
 限られた財源の中で都政の諸課題に的確に対応していくため、都は予算編成の一環として事業評価を実施し、一つひとつの事業の効率性・実効性を向上させる継続的な取り組み(マネジメントサイクル)を行っている。
 これまで、関係部局と連携した専門的視点からのチェック、新たな公会計手法の活用や終期を迎える事業に対する事後検証の徹底などを通じ、予算編成の過程で多面的な検証を行う取り組みとして着実にその実績を積み重ねてきた。
 今年度は、対面からオンラインサービスへの移行など「新しい日常」に対応するための事業見直しや、成果指標の達成状況の分析などを行う政策評価の取り組みと連携した事業評価の充実など、これまで以上に創意工夫を凝らして事業評価に取り組んだ。
 こうした取り組みにより、今年度は1360件の評価結果を公表するとともに、施策の新陳代謝を促進することで1115件の見直し・再構築を行い、評価の結果を通じて、約1110億円の財源確保、430件の新規事業の構築へとつなげた。
○事業評価の種類
▽事後検証による評価
▽自律的経費評価
▽デジタル関係評価
▽政策連携団体への支出評価
▽執行体制の見直しを伴う事業評価
▽複数年度契約の活用を図る事業評価
▽エビデンス・ベース(客観的指標)による評価
○事業評価の実施例
▽事後検証による評価
・働き方改革推進事業(取り組み成果を踏まえたスクラップ・アンド・ビルド)
〔現状の取り組み状況〕
 「TOKYO働き方改革宣言企業」制度により、働き方改革に取り組む企業に対する奨励金を支給することで、機運醸成や具体的な企業の行動へとつなげてきた。
〔更なる課題への対応〕
 宣言企業の約9割が、長時間労働の削減や休暇の取得促進に向けた取り組みを実現しており、都内企業の働き方や休み方の改善に一定の効果が得られたため、奨励金の支給は終了とする。
 2021年度予算では、より多くの企業に対し、業務フローの改善やデジタル化といった生産性向上など、更なる働き方改革の実現に向けた支援に財源を振り向けている。
▽事後検証による評価
・待機児童解消区市町村支援事業(事業進捗(しんちょく)を踏まえた補助要件等の見直し)
〔現状の取り組み状況〕
 「待機児童ゼロ」達成に向け、保育サービスの拡充など様々な取り組みを実施してきた成果により、待機児童数は17年度からの3年間で約6千人減少しており、大規模な施設整備の需要は減少傾向にある。
〔更なる課題への対応〕
 待機児童数が大幅に減少し、保育施設整備もピークを越えていることを踏まえ、大規模な施設整備を前提としたこれまでの補助要件を見直す一方で、中小規模の保育施設整備や、需要が増えている駅前での整備促進など、地域のきめ細かなニーズを踏まえた補助要件の再設定を行うことで、待機児童解消や今後の保育ニーズの増加に適切に対応していく。
▽執行体制の見直しを伴う事業評価
・預貯金照会電子化サービス(業務効率化に伴う人員体制の見直し)
〔現状の取り組みにおける課題〕
都税事務所の滞納者の財産調査のうち、年間11万件を超える金融機関等への預貯金等取引状況の調査は、紙の書類による郵送で行っており、業務負担が大きくなっている。
〔課題への対応〕
 手入力や文書の印刷・郵送など、照会から回答までの一連の業務をデジタル化した、預貯金照会電子化サービスを新たに導入することで、都・金(4面から続く)
融機関双方の業務負担の軽減を図る。
 また、電子化による業務の効率化やペーパーレス化により、文書の印刷・郵送コストの縮減を図るとともに、執行体制を見直し、職員18人分の人員を別の業務へとシフトさせていく。

◆主要な施策
 七つの柱で整理された施策の概要は以下の通り(具体的な施策例、予算案は、表6参照)。

1. 「人」が輝く、誰もがいきいきと活躍できる都市
 子供の笑顔と子供を産み育てたい人であふれる東京、全ての子供・若者が将来への希望を持って自ら伸び、育つ東京、高齢者が元気に活躍する東京、誰もが希望に応じた生き方を選択し、自分らしく輝ける東京、様々な人が共に暮らし、多様性に富んだ東京、居場所やコミュニティーが地域の至る所に存在する東京の実現に向けた施策を展開。
(1)子供の笑顔や子供を産み育てたい人であふれる社会の実現
 結婚・妊娠・出産から子育てまでの切れ目ない支援や多様な保育サービスの充実に向けた取り組み、児童養護等の充実を図る。
(2)新しい時代を切り拓く人材の育成
 子供を伸ばす教育の推進、教育機会の格差解消に向けた支援を行うほか、特別支援教育の推進や世界を舞台に活躍する人材の育成を図る。
(3)世界に誇る長寿社会の実現
 高齢者の社会参加の促進や高齢者の暮らしへの支援、介護サービスの充実を図る。
(4)誰もが自分らしい生き方を選択し、活躍できる社会の実現
 女性の活躍推進や多様なニーズに応じた雇用対策・就業支援を行うほか、社会構造の変化に適応した働き方改革や様々な悩みに対するサポート体制の強化を図る。
(5)ダイバーシティ・共生社会の実現
 障害者がいきいきと暮らせる社会の実現や、誰もが集える居場所やコミュニティーづくりの推進を図る。

2. 世界一安全・安心、便利で快適な都市
 災害や犯罪、事故、火災、病気など、様々な脅威から都民を守り、暮らしの安心が守られた東京、高度な都市機能や最高の交通ネットワークが構築された、人が集い、憩う東京、便利で快適な東京の実現に向けた施策を展開。
(1)暮らしの安全・安心の確保
 感染症対策の実施や救急活動体制の充実に取り組むほか、がん対策等の実施、医療体制の充実、災害医療対策の強化、まちの安全・安心の確保を図る。
(2)災害の脅威から都民を守る都市づくり
 豪雨災害対策等や無電柱化の推進を行うほか、震災に強いまちづくり、災害対応力の強化を図る。
(3)高度な都市機能を備え、便利で快適な東京の実現
 国際競争力を備えた魅力的な拠点の形成や身近で快適な道路ネットワークの形成を行うほか、公共交通の更なる充実等、港湾・物流機能の強化、バリアフリー化の推進を図る。

3. 日本の発展を牽引(けんいん)し、将来にわたって世界をリードする東京
 世界中からヒト・モノ・カネ・情報が集まる、世界一オープンな東京、次々と新しい産業が生まれる、世界一のスタートアップ都市・東京、高い生産性を実現した、世界経済を牽引する東京の実現に向けた施策を展開。
(1)世界経済を牽引する都市の実現
 国際金融都市の実現・外国企業誘致の推進や起業・創業の促進を図る。(2)中小企業・地域産業の支援
 中小企業の稼ぐ力の支援や経営安定化支援等を行うほか、商店街の活性化支援、農林水産業の振興を図る。

4. 美しく、魅力あふれる都市
 2050年CО2実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」の実現を目指すとともに、水と緑を一層豊かにし、ゆとりと潤いのある東京の実現に向けた施策を展開。
(1)ゼロエミッション東京の実現
 ゼロエミッション・ビークル(ZEV)の普及促進や省エネルギー対策を推進するほか、再生可能エネルギーの導入拡大、照明のLED化推進、プラスチック対策等を行う。
(2)水と緑あふれる都市環境の形成
 貴重な緑を守り、あらゆる場所に新たな緑を創出することで、快適な都市空間を形成するとともに、持続可能で魅力ある都市づくりを推進。
(3)世界を引きつける観光都市の実現
 旅行客の誘客と受け入れ環境の構築・発信や観光関連事業者の経営力強化を図る。

5. 「スマート東京」の実現
 「スマート東京」(東京版Society 5・0)の実現に向け、鍵を握る5G、AI、IoT、ビッグデータなどのICTを行政サービスへ実装するとともに、都庁の組織を横串で動かす体制を強化するなど、産官学でオープンにスピーディーな取り組みを推進。
(1)「電波の道」で「つながる東京」
 21世紀の基幹インフラである「電波の道」(TOKYO Data Highway)の整備に向けて、5GやWiFiなどの通信環境整備の推進を民間と東京都の強力なタッグで行い、いつでも、どこでも、誰でも、何があっても「つながる東京」の実現を目指す。
(2)公共施設や都民サービスのデジタルシフト
 デジタルデバイドの是正や官民連携データプラットフォーム(DPF)の構築に向けて取り組むほか、都市の3Dマップ化に向けた基礎調査、西新宿5G戦略検討調査を実施するなど、都民のQOL向上を図る。
(3)行政のデジタルシフト
 未来型オフィスの実現や、区市町村の自立的なDXを促進するためのモデル事業を実施。

6. 東京2020大会の開催とレガシーの創出
 安全・安心な東京2020大会の開催に向け、万全の準備を進めていくとともに、次世代に引き継ぐ大いなるレガシーを創り上げるための取り組みを着実に推進。
(1)東京2020大会の開催とレガシーの創出
 大会に向けた着実な準備・運営等、大会成功に向けた機運醸成・盛り上げを行うほか、暑さ対策、文化の祭典、スポーツレガシー、オリンピック・パラリンピック教育のレガシー、ボランティアレガシーの創出を推進。

Ⅶ 多摩・島しょの振興
 多摩・島しょ地域の更なる魅力と活力の向上、持続的発展に向けて、地域が持つ特性や課題に対応した効果的・重層的な取り組みを推進。
(1)持続可能な暮らしやすいまちづくり
 成熟社会に対応した行政サービスの展開、活力と魅力を高めるまちづくりを推進するとともに、地域を支える都市インフラの整備、地域の特性を踏まえた防災対策に取り組む。
(2)豊かな資源を生かした地域の活性化
 産業の振興や豊かな自然環境の保全、教育・スポーツの振興に取り組む。
(3)島しょにおける個性と魅力あふれる地域づくり
 魅力の向上・発信に取り組むほか、更なる活性化に向けた利便性を高める環境整備等を行う。

 

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