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都政新報 創刊70周年記念座談会/「アフターコロナ」の東京の課題


   「オリンピック・イヤー」となり、東京が世界に注目されるはずだった2020年。世界は「新型コロナウイルス」に大きく揺れた。私たちの生活は「新しい日常」に移行することが求められ、行政の現場でもアフターコロナに向けた体制整備が急務となっている。こうした中、今年創刊70周年を迎えた本紙の記念座談会として、有識者3人にアフターコロナに向けた東京の課題を探ってもらった。

◆20世紀からの積み残し課題
 司会 本日は「アフターコロナの都政の行方」をテーマにご議論をいただければと存じます。最近も感染者数が増大する中でアフターコロナという状況ではありませんが、新しい生活様式で私たちの生活も変わってきますし、行政に求められるニーズや取り組みも変革が迫られます。都もデジタルトランスフォーメーション(DX)を始めとする都政改革に着手し、住民に身近な区市町村も構造改革によるサービス向上が求められています。今後、行政へのニーズも変わってくることが見込まれますが、まず、行政にはどのような変革が求められるかを伺いたいと思います。
 青山 コロナ禍の対策として、保健所の強化・充実に加え、まちづくりであれば屋外のレストラン・カフェを開設するための規制緩和など、各分野で転換が求められている。ただ誤解してならないのは、これまでのサービスの本質的な部分、例えば都市基盤整備やまちづくり、経済対策、世界との交流など、都に求められてきた政策は中・長期的な視点は、むしろ促進すべきで、今後もきちんと進めなければならない。コロナ禍で住宅がいらなくなるとか、移動が少なくなるという議論は全く逆。ニーズは変化するが、元々あったニーズの多様化がコロナ禍で加速したと見るべきだ。
 もう一つは生活困難や格差の拡大がコロナ禍で顕在化・深刻化した部分があり、福祉政策は充実していかねばならない。都区政の役割が減少したのではなく、質的に変化して高度化していると認識することが重要だ。
 大杉 ここまでのコロナ禍での行政対応は三つに分けられる。一つは感染予防・拡大をどう制御するかという医学・疫学的な対策と、それに付随する公衆衛生医療政策、それとコロナ禍で大きなダメージを受けた事業者や経済的格差に対する支援。加えて、そうした狭義のコロナ対策だけではなく、行政が普段から行ってきた業務をいかに位置付け、発展させていくかが重要で、その意味で行政にとっての「新しい日常」を構築する必要がある。昨今言われているデジタル改革も新しいというより、既にやっていなければならないものを先延ばししてきた側面が大きい。こうした積み残されてきた課題をきちんと一掃する。そのために、これまでの行動の検証と中間的な総括が必要だ。感染拡大地としての東京は、自治体としての新しい日常をしっかりと確立し、都民・国民に示していくことがミッションとしてある。
 谷 今、行政のデジタル化と言われ始めたが、やっとそれが始まるという印象だ。思えば、そうした働き方改革の足を引っ張ってきたのが行政手続きだった。経済界はコロナ以前から行政手続きの煩雑さ、例えば自治体ごとに申請書類の様式が違うとか、データの形式が違うことへの不満が根強かった。20世紀の終わりごろに、アメリカで州政府やシティの取り組みを取材したが、その時点でビジネス免許の申請から納税まで全てオンラインでの電子署名や電子認証が始まっていた。行政はもはや建物ではなく、ウェブサイト上に存在するもので、日本もそうなると思っていたが、ならなかったのがこの20年。都庁もいろいろな取り組みをしてきたが、組織が大きい分、それが徹底できなかった。宮坂(学)さんが副知事になってDX系の取り組みを挽回しようとしている印象はある。都がコロナ対策で作ったウェブサイトはかなり評判が良い。データも使いやすい。
 あとコロナで感じたのは、保健所などが典型だが、都と区市町村、この連携の在り方だ。これは役割分担ではなく指揮命令系統の問題だと思うが、例えば公衆衛生や住民の健康管理、これは基礎的な自治体である区の仕事で、コロナ対応は広域性を求められるので都が強い権限を持っている。では保健所の職員はどこを見て仕事をしているかというと、もちろん住民と接しているのだが、(都ではなく)厚労省の指示をベースに動いており、そうした中で情報が届かないといった問題が出た。だからこそ東京版CDCを作るのだと思うが、こうした危機対応も含めた国と都道府県、市町村のありよう、役割分担というよりも指揮命令系統のありようが問われているように感じた。
 司会 そうした縦割りのような旧態依然とした行政の在り方は、コロナ禍によって、またDXの推進によって変わるでしょうか。
 大杉 DXでできること、できないことは当然ある。まずは現在行われている業務をチェック・分析できているかが問題だ。かつてのOA化は、これまで人がやってきた手順をそのまま自動化していた。それで効率化できた部分もあるが、イノベーションは期待できない。今、求められているのは効率化以上に、業務そのものの意味や在り方を変えていく発想だ。それで言うと、先ほど出た都庁のコロナ感染者数などの情報サイトは、これまでそもそもきちんと出せていなかったデータを分かりやすく示しただけでなく、オープンソースで対応したため、同様の取り組みを全国に広められた。既存の事業をそのまま置き換えていく発想だとデジタル技術は生きてこない。都庁でデジタル人材を採用するのは素晴らしいが、その次のステップがどこまでできるかが今後ますます問われる。
 青山 私は今回、行政改革という手垢のついた言葉を使わずに都政の構造改革という言葉を使ったのはとても良いと思っている。求められている改革は、都政が20世紀から変えなければならないと議論されていたこと。21世紀になって20年も経つが、まだ変わっていない。ここが今の日本の経済と社会、政治と行政もそうだが、最大の問題点だ。

◆インクルーシブな都政へ
 司会 今後、東京が目指すべき姿の一つとしてグローバル都市がありますが、どのような取り組みが必要でしょうか。
 青山 その点で言えば、都は法人税を安くして海外の企業を誘致しようとしているが、税金が安いから来るのはろくな企業ではない。日本の発展に欠けているのは、海外企業や外国人に対するインクルーシブな精神や風土だ。そもそも都庁自体が非常にエクスクルーシブ(排他的)だ。外国人をどれだけ雇っているのか。これは20世紀に未解決だった部分。私たちは都庁で1995年に東京プラン、97年に生活都市東京プランを策定した。そのとき原案には外国人の地方参政権を盛り込んでいたが、都議会に持って行く前に都庁内で理解が得られなかった。原案を大幅に削られた。そのときの日本の人の意識がそうだったと思う。
 谷 ちょうど川崎市が「外国人市民代表者会議」をやっていた時期ですね。
 青山 そうです。あの頃は議論が盛んだったんです。要するに都庁でも政策決定には関われないが、専門職の常勤職員はいる。外国の企業が日本に拠点を置いてビジネスをやろうとする場合には、そこの社会が外国企業に開かれているかが大切なので、法人税が高いかどうかではない。それが誘致の主要政策というのは、都の政策が国際的ではないと思う。これから日本が海外の企業を誘致するには、まず東京をインクルーシブな都市にしなければならない。それにはまず都庁自体がインクルーシブにならなければならない。しかし、日本人のピアプレッシャー(同調圧力)は、今回のコロナ禍対策ではマスクやうがい・手洗いでは非常に力を発揮して国際的に評価されたが、海外とやろうという場合、異なった宗教や生活習慣、思考、働き方の人々とお互いに交流し合うところから文化や経済が発展していくので、そこに脱皮していくのが最大の課題だと思う。
 谷 私はよく東京の話を書くときに、「東京には経済都市としての顔と生活都市の顔がある」という書き出しから始めている。経済都市の面で言えば、東京は成長率が高い都市ではない。過去10年くらいの東京の成長率と日本全体のGDPの伸びを比較すると、2007年度以降で東京が全国を上回ったのは3回しかない。12年度以降は連続して東京の方が低い。要するに、生産性を低くする要素が温存されているのが東京だ。成長率が低い東京に若年層を中心に人が流入し、今年の5月には人口が1400万人になった。生産性が低いものはサービス業。ここはなかなか実証しにくいが、東京では比較的安い賃金で雇用できてしまう。非正規化もそう。本来は生産性を上げなければならないところだが、それなりに人が採用できてしまうからこそ温存されてしまっている。それを今、働き方改革もそうだが、変えるべきなのだと思う。生産性の向上という視点から取り組む必要がある。
 大杉 先ほど、青山先生が言われたインクルーシブについては、環境、ダイバーシティー、性の多様性などを見てもわかるが、日本の場合は国際標準に合わせなければという一種の同調圧力によって実現されてきた側面が強いように思う。普遍的な価値としての包摂性を日本ではまだ受け止め切れていないのではないか。例えば世界的には、2021年1月の世界経済フォーラムのテーマでも、グレートリセット(経済社会秩序の幅広い根本的な変革)という形で、人間の尊厳をきちんと中心において経済と社会のシステム構築を進めていこうとしている。こうした発想をとる世界ときちんと付き合える東京でなければならない。都政でも、SDGsでいう、誰一人取り残さないという価値をきちんと受け止めていける体制作りを、知事を初めとして意識的に始めないとなかなかできない。逆にコロナ禍だからこそチャンスだと思っている。
 青山 それから英語は話せた方が良いけれど、それも決め手ではない。なぜなら英語を話す人はアメリカ人とイギリス人とアジアのビジネスマンしかいない。ヨーロッパでの国際会議で英語を話す人はごく一部。英語は話せた方が良いが、それで都市が国際化することは全くない。ニューヨークの良いところは、他民族で都市が構成されていて、アメリカの連邦政府の政策が移民を制限すると言っても、ニューヨーク市はそれに従わない。これは海外の企業が進出する動機付けになっている。ロンドンも同じ。インフラは日本の都市の方が整っているが、我々が負けているのはインクルージョン、多様性。

◆「適疎適密」社会の実現
 谷 青山さんの話を聞いていて、やはり都庁の中から変えなければならないと感じた。組織が変われば議論も変わってくる。民間企業もそう。これは全てが良い例というわけではないが、トップが外国人になれば、ルールは必然的に変わるところがある。実際の都庁は分からないところもあるが、印象で言えば都庁マンというのは自己主張しない人の方が多い印象がある。青山さんは非常に特異だったが(笑)。
 青山 そこです。都庁を変えるという意味では。構造改革はそれです。職員が意見を出すこと。
 谷 私は取材していて好きな職員は自分の意見を言ってくれる人だった。『俺はこう思う』と。組織決定はあると思うが、立場ではなく、そういう職員は好きだったが、何を聞いてもリスクを取らないことしか言わない人、いますよね。
 青山 都庁からピアプレッシャーを無くさなければならない。そうしないと良い構造改革にはならない。まずは意見を言わせることです。政策的な意見の対立がないのがおかしいので、都庁の中で表に出して議論すべきだと思う。そうすることで議会や都民、政治家である知事にとっても、こういう意見が対立しているのだなと議論が進展するのだと思う。今、谷さんがおっしゃったので言うと、意見を持たない人は幹部になるべきではない。その意見は都庁の多数意見とは違っていいんです。ある意味、少数説を唱え、それにみんなが反応することによって議論が進展していく。
 谷 そうですね。ついでに言うと、都庁の良くないのは知事の答弁を作る過程で色々そげ落として丸くなっていく。それを考えないといけない。
 大杉 ニューヨークのことは青山先生が詳しいが、以前、SOHOのコミュニティーボード(ニューヨーク市の五つの行政区域内の各コミュニティー地区を代表する任命されたメンバーによる諮問委員会)を視察した縁でその後も活動状況を見守っている。今はズームを使ったオンライン会合が中心のようだ。時々のぞいてみると、そこでは様々な人種・年齢・性別の人で構成され、地域の日常的な課題、例えば、地域にあるミュージアムの運営をコロナ禍でどうするか、子どもの教育についてはどうかなどをテーマに取り上げて頻繁にディスカッションしている。DXの重要さとともに、そうした技術を活用してインクルーシブに多様な人々を受け入れ地域をつくり上げる、アメリカ社会の強さを感じる。
 私は最近「適疎適密」という言葉を使っている。これは「過疎過密」の反対概念ですが、人口増加時代、高度経済成長期には東京に人口集中が進み、農山村部からは人が流出して人口流出が進む、それが人口減少・少子高齢化時代では東京一極集中、東京問題と一種のバッシングが起きた。これからは、ある程度の距離感を置くという意味では「適疎」であり、社会的なつながりを維持・発展させるという点では「適密」というのをどう作っていくか。特に大都市東京の在り方を考えるとき、非常に重要なポイントだ。都市空間の在り方として、「適疎適密」をどう実現していくのか。田舎ならば豊かな自然があって、ワーケーションには最適ですよ、と適疎適密は進めやすい。では、大都市東京ではどうか。緻(ち)密(みつ)な政策判断が必須だ。こうした問題意識を軸とした都市づくりを今後考えていくことが重要ではないか。
 司会 冒頭に青山さんからコロナにより生活困窮などの問題が顕在化したという話がありました。東京の格差社会についてはどう考えますか。
 青山 先日、都民情報センターで『東京の土地』の最新版を購入し、目についたのが分譲住宅購入の年収倍率の経年変化だ。家族向けの65平方メートルくらいの分譲マンションを購入する際の平均価格と購入者の平均年収の推移が過去40年分くらい載っていて、20~30年前は6~7倍だったが、今は11倍を超えている。これがなぜ社会問題にならないのか。これには様々な問題をはらんでいる。平成の30年間に都内で住んでいる人は16%増えたが、世帯数は47%近く増え、世帯の細分化が進んでいる。東京都の今後の世帯数の予測では、あと数年で単身世帯が半分以上になる。これは大変な社会で、家族福祉や家族による社会保障がなくなっていくので、公的な社会保障ニーズはとても高まる。
 もう一つは単身世帯が過半数となり、切実に社会福祉が求められる。さらにさっきの年収倍率で、何の問題にもなっていないのは、分譲マンションを買う層と諦めている層が分離されているということ。これもまた由々しき問題。社会福祉政策としての住宅政策はますます求められていく。
 社会構造で自治体サービスを求める階層が増えているのは20世紀の負の遺産。自己責任でやっていく考えは一面では必要だと思うが、21世紀に入ってから傾きすぎている。特に非正規雇用が一気に増えた。これが経済の安全弁になっていて、全否定はできないが、バランスの問題から言うと労働者の権利や保護を弱めていくのが行き過ぎている。今、最低賃金を上げていく努力はしているが、コロナ禍の影響で深刻化のスピードは高まっていくので、これまでの社会保証や社会福祉政策で良いのか、ここも構造改革が要求されていると思う。
大杉 確かに、コロナに直撃された単身層の問題は深刻だ。若くて健康で十分な収入もある人はよいが、高齢単身の経済的困窮層は多い。ひとり親の貧困家庭も同様だ。NPOなど関係団体と連携しつつ、コロナ禍であっても、こうした層に適切にアウトリーチをかけていけるかが行政の一番重要な課題だ。特に基礎的自治体が果たすべき非常に重要な役割だ。
 それから先ほど、谷さんが指摘された指揮命令系統の問題に加えて、そもそも保健所がオーバーフローになってしまったのが問題で、90年代以来の保健所の相次ぐ改革が主因だ。コロナ下の医療提供体制に関して、ある県で司令塔の役割を果たす職員の話を聞く機会があった。元々スポーツ関連の部署の職員で、その縁もあって医療関係者と普段から密接にコミュニケーションを取っていたおかげで、そのネットワークをコロナ対策に生かせたとのこと。ここから得られる教訓は、日頃からのネットワークやつながり、ある意味でデジタル化以前の、前近代的な人的関係性を決して軽視してはいけないということだ。組織規模が大きな東京でもそうしたつながりをいかに確保していくかが課題。仕組みとして指揮命令系統をしっかりさせ、デジタル化を進めることはもちろん必須だが、それだけではうまく動かない。デジタルとアナログの両面から最適にワークする体制を日頃からどう構築していくか、この機会に再度考え直す必要がある。
 谷 青山さんの話を聞いてそうだなと思ったのが、社会福祉の重要性。単身世帯化し、それも高齢単身世帯が増えていく。超高齢化を越した高齢化。将来の東京像を考えるとき、その受け皿として東京だけで、やり切れるのかという思いがある。現実、特養ホームなどは東京を出て入居している。政府の地方制度調査会がこの6月に答申を出し、大都市圏での連携に触れて医療や介護、震災対応などの広域連携が必要と言っている。東京はこれまでは民間の力を使いながら自前で対応できていたが、爆発的に高齢の方が多くなる。首都圏は9都県市首脳会議のような連携の場はあるが、調整力は弱い。関西には関西広域連合という行政の垣根を越えた組織があるが、首都圏も人が自由に移動している中で、そういう枠組みも考えなければならないと思う。
 もう一つ、東京はインフラ更新も含めて恒常的に都市開発をしていかねばならない都市だが、問題意識を持っているのが、極めて老朽化した分譲マンションの増加だ。私は「マンションは誰のものか」というタイトルの連載記事で取材したことがあるが、一定の年限を過ぎて管理費の滞納が始まって修繕が進まなくなると一気に老朽化が加速する。管理組合も機能しない。分譲マンションは住民自治で合意形成しなければならず、最低5分の4の合意がないと何もできず、行き詰まり始めている。その意味では、厄介な時代になってきたという思いがする。
 青山 40年以上が経過した都内の高経年化マンションは、2013年に12万5千戸だったが、それが5年後の18年には25万戸と倍増している。管理が行き届いていないものが急速にスラム化していく。都心なら建て替えても他の床を売れるが、環七沿道や周辺部のマンションはその後、高さ制限を各区が課したので、造り変えると容積率が落ちる。建て替え自体が民間だけではできにくい。これは政策的に対応しないとどうにもならない。
 谷 もともと民民の問題だったが、民間任せだと進まない。
 青山 そうですね。これは公共政策です。重大な問題だと思います。
 司会 谷さんから出た広域連携の問題について、青山先生のご意見は。
 青山 これも谷さんが言ったように、東京の生活や経済は基本的に東京大都市圏で、よく1都3県というが、茨城や、更に言うと栃木と群馬の南部と山梨の東部もそう。通勤している所は東京大都市圏。その中心部は圏央道が直径100キロあって、今コロナ禍で3割くらい物流が増えており、かつて圏央道沿道には100カ所くらい広域物流センターがあったが、圏央道が9割完成になったので、今は300カ所くらいに増えつつある。20世紀に言っていたように高度情報化社会になると人と物の移動は飛躍的に増えるという理論通りにきているケース。そういう中で東京の正式の都市構造図面は1枚しかないのだが、関東平野の地図が都市構造図面になっている。それくらい、1都3県、4県なんです。その間の個別の協力関係は別として、政治的な知事連合などを進めていくのは大事な課題だと思う。
 司会 現時点では進んでいないという認識ですか。
 青山 今は民間ベースとか、人々の生活ベース、物流ベースでそういう大都市圏が形成されているだけなんです。でもいろいろな問題点があり、20年前のディーゼル規制などは、そういう観点でやらなければということで協力してやったわけだが、そういうテーマはまだたくさんある。先ほどの国際化のテーマや、工業と農業、サービス業のバランスの問題など。今は民間の原理だけで動いているが、政策的な議論とそれに伴う都市基盤整備も必要。5Gもそもそもそうですが、そうした議論を関東の自治体レベルで先駆的に先に進んでやっていくことをしないと。これまでは圏央道を整備することでうまくいっていたが、次の時代は政治家同士、行政同士で連携してもらわないといけない。
 大杉 かつて東京の計画は都内で完結するような、今から見ればいびつな構造で描かれていたが、メガロポリス構想は社会経済状況に見合った圏央道エリアの1都3県、4県で描き出したのは画期的だった。たとえば国際的には、東京の人口とは、都の人口ではなく、1都3県の3千万人と考えられている。東京大都市圏の人口を指すのであって、日本人にはその意識は乏しいのでは。先ほど関西経済連合の話があったが、ドクターヘリや、東日本大震災や熊本などの様々な災害時の対口支援という形で示したのは有意義だった。これに対して、東京圏ではディーゼル車規制や青少年健全育成くらいの連携でとどまっており、もったいない話。今は否応なくコロナの対応があるはずだが、東京圏の広域連携はこれからの大きな課題。
 もう一つは、同じ連携であっても離れた自治体・地域との遠隔型連携。これは特別区がかなり進めてきたが、全国各地と多様な政策連携を進めることは全国的な視点で相互理解を進める上でも重要だ。私は自治体経営の「三つのオープン」と言っているが、オープンガバナンス、オープンイノベーション(共創)、オープンダイアログ(対話)。特に開かれた対話は個人や地域レベルから自治体を超えたレベルまで、様々な次元で重層化していくことが必要だと考える。広域連携についても、これら「三つのオープン」の観点を意識して取り組んでいく必要がある。

◆自治体は国に注文付けるべき
 司会 谷さんからも、行政のテーマは東京にとどまらずという話がありましたが、今回、東京が進めていくDXと自治体間連携や広域連携について、どう考えますか。
 谷 ここが難しいところで、今、政府がデジタル庁を作って推進するといっているが、国レベルでやってしまえば自治体の枠を超えてやれてしまう。先ほどデジタル化の対応について民間が批判しているという話をしたが、それは自治体がそれぞれでやっていた部分に対してであり、基幹的な部分について、政府の下で統一していこうとなっている。一方で福祉などの各分野は、それぞれの自治体が自前のシステムを抱えている。自治体ごとに違いがあると使えないので、データの形式は一緒にするなどの取り組みは必要だが、全部統一でよいのかというと疑問がある。つまりそれぞれがそれぞれでやっていい部分があるので、そこのすみわけは何だろうと。
 青山 問題はそこですよね。
 谷 みんなが同じなら差異が出てこなくなるところも無きにしもあらずだ。
 大杉 たとえば同じ市役所でも総合窓口を作ろうとすると、同じ役所内の隣同士の担当間ですら、申請書のちょっとした書式が違うとか、書類の記載欄がずれているのでデジタル化が難しいのが実情だ。その意味では国全体の地方行政のデジタル化とその前提となる標準化、共通化は取り組むべき課題であるが、大変な困難を伴う問題でもあるという覚悟が必要だ。
 それぞれの自治体では個々の着地点としてデジタルをどう生かしていくかを自覚的に考え抜くことが大切だ。オープンイノベーションということで共創型の政策展開を促すことが優先課題ということ。共創を促進する標準化、共通化ならばともかく、共創の可能性の芽を摘み、多様な地域性を抑え込むような施策がデジタル庁を作ってまでして行われてしまうようでは困るわけです。自治体も相当に意識しないと、デジタル化礼賛の流れに流されてしまう可能性があるので要注意だ。
 青山 自治体にとっての問題点というと、まずマイナンバーというのは理念的には極めて優れたシステムだが、自治体的に言うと、やたらと人手がかかるシステム。それからマイナンバーの手続きに、5年たってパスワードの登録をもう一回しなければならない。まったく同じパスワードでよいのに。
 谷 私も先日更新してわざわざ出向きました。
 青山 そこで区役所で2時間待たされる。つまり、マイナンバーのシステムは、末端ではとても使い勝手の悪いシステムなんです。そういうことを自治体側がなぜ発言しないのかと。毎日、マイナンバーカードで行列ができていて、自治体が被害を受けているのに、なぜ問題が表面化しないのか。自治体は国に注文を付けるべきだ。
 コロナ禍で10万円を給付したときに全国自治会や区長会、市長会から制度設計について発言がなかったのか。もちろん当時はコロナ対応で大変だったのだが、例えば[e―tax(イータックス)」は預金通帳と完全にひもづけされているので、取得している12%の人はe―taxで給付すれば何の手続きもせずに給付を受けられ、区役所も書類の検査をしなくてよかった。その種のことについて、自治体がどんどん発言していかないといかない。
 今回のコロナ禍では全国知事会は機能しなかった。唯一記憶に残っているのは、とんでもない悪いタイミングで、9月入学の実現を言ったということだけだ。あれで9月入学の実現は大幅に遅れることとなった。だから谷さんのおっしゃる通り、全国では問題点や課題が違うので、関東圏とか近畿圏となどでやっていく方に重点を置いたほうが良い。全国知事会だとどうしても制度的な問題になってしまうが、地方自治は制度の問題ではない。地域ごとに独自の政策ができるかの問題。全国知事会などはなしにして、広域的連合的な形で自主的にやっていくことを考えたほうが良い。全国知事会は20世紀の遺物だ。全国市長会もそう。
 司会 行政の現場もそうだが、知事会や広域連合も構造改革が必要なようですね。
 青山 必要だと思います。自治体連合のやり方も20世紀とは違うやり方を創造していくべきだ。大阪都構想は、いいとは思わないが、大都市の制度をどう活用するかの議論は必要。

◆「削る改革」ではなく「構造改革」を
 司会 そろそろまとめに入りたいと思います。コロナ禍という点で見た行政の在り方ということで言えば、これまでの話では格差の話、国際化に向けての取り組みや広域化、働き方改革ということもある。そうした中で、最後にそれぞれ総括的なご意見をいただければと思います。
 大杉 昨年末に策定された長期ビジョンの中でも、アジャイル(機敏に対応する)という言葉が使われているが、私も非常に大切な概念だと考える。どう実質化していくかが問われる。もちろんデジタルについてもそうだし、もっとアナログな世界でも機敏に対応できるところはあるはず。在宅勤務の浸透もあって、例えば多摩ニュータウンエリアでは若年層が中心になって地域に根差した活動が急速に展開している。高齢者層や子育て世帯の若い人たちが交流する場が徐々に作られつつある。こういう活動をきちんと受け止め、支えていけるような、インクルーシブに捉えていける都政であってほしい。
 谷 都政で見ると、財政が急速に悪化しており、コロナ対策で1兆8千億円くらい支出している。年度当初で9300億円くらいあった財調基金が、一時は500億円を切った。きょう青山さんに会ったので思い出したが、これはまさに青島知事時代、青山さんが計画部長とか政策企画室理事とかされていた頃で、私も都庁の記者クラブで1回目のキャップをしていたころで、98年の秋に都が財政危機宣言をした。今後は税収が落ちる状況の中、往々に流れやすいのはまた行革になってしまうということ。要は削る一方。青島都政の最後から石原都政の最初の頃は財政制約が強い部分があった。それを単に削るということではなく、きちんと構造改革につながるような方向性を堅持できるか。そうでないと、コロナ後の新しい日常に対応できないので。単なる行革ではない構造改革が進められるのかが重要になる。
 青山 今の財政の問題では法人税を今年度と来年度、9千億円を政府が持っていくという偏在是正措置を政治的にどうパワーを発揮して取り返すことができるかが一つの課題。もう一つは税源対策で、基礎自治体の区市町村にとっては固定資産税と住民税が基幹財源になるが、その中で大杉先生は怒るかもしれないが、大学は固定資産税、都市計画税が無税でよいのかという問題がある。法改正すれば課税できる。無税というのは結局、サービスにただ乗りしていることで、これでいいのかという議論を時々はしないといけない。農地でさえ、自給率が三十数%でこれから食糧危機が叫ばれる中、軽減されているが、課税されている。財政問題で論点にすべきだと。
 それからDXについていうと、全国の都道府県と区市町村は国の各種のシステムを自分の区市町村でカスタマイズしている。今回、国が一斉に行う場合、そういうことができるのかという問題
と、抜本的に変える場合は区市町村ももう一度カスタマイズする必要があるのかという問題がある。システムにもよるが23区共通でカスタマイズするとか、都道府県連合でカスタマイズすることも必要という整理が必要だ。莫大なコストも必要になる。
 それと区市町村の場合はDX化してもほとんどが対面サービスなんです。そもそも対面でやっても伝わらなくてアウトリーチしており、手当一つとってもご理解いただくのは難しい。DXはどんどん進めるべきだが、アウトリーチや対面説明などはなくならないという厳しい現実を知りながらやらないと、なにかDXで経費節減が図れるというのは全くの誤解だと思う。
 大杉 私はむしろそこは絶対的に増やすべきだと考えている。DXで浮いた経費があるならその部分をアウトリーチなど人手が必要な労働集約的な局面に積極的に回せるようにすべきだと思う。
 谷 金融機関も同じようにやっている。
 大杉 まだまだ足りていないですから。現状で。
 青山 これを現場の実態を知らない人が使っているのは極めて危険。ニューヨーク市役所がDXをやっているといったって、あらゆる言語に対応できる職員を採用するとか、その種のことはブルームバーグ市長の時代からやっている。そういうことも合わせて議論することが必要。DXは単なる手段に過ぎないということを政治家はきちんと視野に入れて議論しなければならない。今は理解が間違っているのではないか。
 司会 大変貴重なお話をいただいていますが、時間がきてしまいました。お話を聞いてきて、アフターコロナに向けて行政が変えていかねばならない部分はDXや働き方にとどまらず、インクルーシブな意識改革や広域行政といった幅広い視点での行政運営など、多岐にわたると実感しました。一方で、変わらずに取り組まねばならないもの、今の取り組みをさらに強化しなければならないものも多々あると感じました。行政としての役割を再認識しながら取り組むことが大事だと改めて感じました。ありがとうございました。

 あおやま・やすし=1943年東京生まれ。67年東京都経済局に入る。中央市場、都市計画局、生活文化局などを経て高齢福祉部長、計画部長、政策報道室理事等を歴任。1999年から2003年まで石原慎太郎知事のもとで東京都副知事(危機管理、防災、都市構造、財政等を担当)。著書に『石原都政副知事ノート』(平凡社新書)『自治体の政策創造』『都市のガバナンス』(ともに三省堂)、近著に『東京都知事列伝』(時事通信社)など。

 たに・たかのり=1961年東京生まれ。早大政経卒、86年日本経済新聞社に入社。大阪経済部、岡山支局、金融部、地方部を経て、2005年から地方部編集委員。06年から13年間、論説委員を兼務。現在は編集局編集委員。総務省、国土交通省、都庁などを担当し、地方行財政全般のほか、地方分権、公共事業、都市政策などを取材。日本自治学会理事も務める。共著に『列島破産』『さらば東京』『行政サービスここが一番』(ともに日本経済新聞社)など。

   おおすぎ・さとる=1964年横浜市生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、博士(学術)。東京都立大法学部助教授、首都大学東京社会科学研究科教授などを経て現職。研究分野は行政学、都市行政論。また、内閣官房官民データ活用推進基本計画実行委員会オープンデータワーキンググループ構成員、(公財)特別区協議会特別区制度懇談会委員などを務める。著書に「これからの地方自治の教科書」(第一法規)など多数。

 

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