都政新報
 
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都2020年度予算案/戦略ビジョン反映で大型に/新規事業、過去最多の420件/「備えよ、常に」具現化


  都は24日、2020年度予算案を発表した。昨年末に策定した「戦略ビジョン」を反映した初めての予算編成で、子育て支援や高齢社会対策、次世代通信規格「5G」の環境整備などを予算化し、新規事業件数は過去最多の420件となった。一般会計は前年度比1070億円(1・4%)減の7兆3540億円と、前年度に次ぐ過去2番目の大型予算となった。小池知事は同日の記者会見で、「東京大会の成功と、成長と成熟が両立した、輝ける『未来の東京』を創る予算」と意欲を示した。

■歳 入
 都税収入は、地方法人課税の見直しの影響で法人2税が前年度比12・5%減の1兆7996億円となった影響で、全体では同1・1%減の5兆4446億円となった。また地方譲与税も、国の「偏在是正」による地方法人課税の見直しの影響を受けて同2379億円(81・8%)減の529億円の大幅減額となった。財務局主計部は「今後の税収動向を見極めながら、適切な財政運営に努めていく」との認識を示す。
 基金は、小池知事が就任以来掲げてきた「3つのシティ」推進に積極的な活用を図り、7332億円を取り崩す。一方、都債の発行額は抑制する方針で、前年度比0・6%減の2084億円。起債依存度は2・8%で前年度と同水準を維持した。
■歳 出
 政策的経費を示す一般歳出は5兆5332億円で、同647億円(1・2%)減となった。東京大会の開催に向けた恒久施設の新設や体育施設の大規模改修などがピークを過ぎ、投資的経費が同2777億円(20・9%)減の1兆493億円となったことなどが主な要因。
 東京大会に向けては、恒久施設の整備が前年度と比較して1193億円減の一方、本番を直前に控え、輸送経費が134億円増となるなど、ソフト面が増えているのが特徴。なお、東京大会に関する都負担分は「大会関連経費」と合わせて1兆3700億円に固まった。大会関連経費は東京体育館などの改修や選手村の基盤整備、都市のバリアフリー対策のほか、無電柱化や遮熱性舗装、観光振興などを盛り込んでおり、20年度までの合計で7766億円。経費の精査などにより、当初の見込みの8100億円から抑える形に仕上げた。恒久施設の整備や輸送、セキュリティーといった「大会経費」は5975億円。
 一般歳出のうち経常経費は2130億円(5・0%)増の4兆4839億円。少子高齢社会対策や台風・集中豪雨など災害対策が大きい。
 なお、給与関係費は、退職手当が減となる一方、会計年度任用職員制度の導入に伴い、期末手当を新たに支給することから、同209億円(1・3%)増の1兆6312億円となった。
 公債費は都債の償還を引き続き進め、178億円(4・9%)減の3490億円となった。
■戦略ビジョン
 戦略ビジョンで掲げた都市像の実現を目指し、新年度予算は過去最多の420件の新規事業を盛り込んだのが特徴。ビジョンの中核に位置づける子育て支援や、高齢者対策、地域コミュニティー活性化に重点配分する。
 既存の「とうきょうママパパ応援事業」を拡充し、支援の空白期間となっていた1歳児での育児支援の情報提供や実態把握、多子・多胎児世帯の支援を拡充する。高齢者支援では、都営住宅を活用した交流拠点などの地域の居場所づくりに力を入れる。
 ソサエティー5・0社会の到来を見据えた関係施策は、各局から事業提案を募り、予算総額は158億円となった。ただ、具体的な事業段階ではなく、次世代通信規格「5G」の活用に向けた調査や検討が中心で、「都民のQOLの向上」という最終目標を達成するための着実なかじ取りが求められている。
 小池知事が就任以来、力を入れている環境の分野では、戦略ビジョンと同時に発表した「ゼロエミッション東京戦略」に基づく気候変動対策や、ZEV普及などの予算を確保。所管する環境局の予算が前年度比42%の大幅増になっている。
 7月には都知事選が行われ、小池知事が再選出馬すれば、戦略ビジョンは事実上の「公約集」となる。具体の成果として挙げられると見込まれる事業にも着手する構えで、多摩・島しょ振興では知事査定で多摩都市モノレールの延伸事業を盛り込んだ。また、女性の再就職やひとり親を支援する拠点を開設するなど、居住環境を向上させる新規事業にも予算配分する。
■最終補正で基金創設
 同日に公表された19年度最終補正予算案の一般会計総額は2460億円で、ソサエティー5・0の社会実装やゼロエミッション東京戦略の推進などに向けた3基金を新設し、6基金に計4500億円を積み立てる。また、昨年の台風被害を受けた農業用施設の災害復旧支援に48億円を充当する。補正により、一般会計総額は7兆7214億円となった。


◆「備えよ、常に」具現化
 【解説】 「人を中心に考え、東京の持続可能な成長と成熟につなげる設計思想を持って進めた」。小池知事は24日の記者会見で予算編成についてこう説明した。昨年末に策定した戦略ビジョンの政策を早くも芽出しした格好で、新規事業を見ると小粒さは否めないが、過去最多の420件を積み上げている。
 「人」に重きを置いたという思想は、額面上も表れている。一般会計予算を都民1人当たりの額で見ると、「福祉と保健」が前年度比で倍増し9万1737円に、「都市の整備」は10万7166円から6万2234円に大幅に下落した。少子高齢化の進行で社会保障費が膨らんでいるとは言え、成果が出るまでに長期間を要するハード事業はやや抑えられた印象だ。
 そうした中、多摩都市モノレールの延伸に向けた調査に入る方針を打ち出したのは、ひときわ目立つ。小池知事は「環境が整いつつあり、一歩を踏み出している」と説明する一方、他の優先整備路線については「成熟度や課題を残しているところもある。関係者との協議・調整が必要」と明言を避け、あえて「出来ない理由」を挙げた。他路線としては後塵(こうじん)を拝した形で、関係者の思いは複雑だ。
 他方、来年度予算案は「備えよ、常に」という思想を具現化したと捉えることもできる。例えば、人口減少社会に備えて多子・多胎児世帯支援を強化するほか、昨秋の台風被害を受けて速やかに豪雨災害対策を予算化した。国際的な都市間競争を控え、デジタルシフトにも重点投資する。
 併せて、公明党が要望していた私立学校の無償化拡充は「満額回答」となった。来るべき都知事選に向けた「備え」も万全にした形だ。 (一)
 

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