都政新報
 
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小池都政 虚像と実像~第3部 有識者が見る1期4年(4)/「ビヨンド・コロナ」の危機管理を/明治大学公共政策大学院専任教授小林清氏


  前任の2知事が任期を全うしておらず、直近の比較対象は石原都政になるが、財政状況が大きく異なる。石原知事の1期目は財政再建をせざるを得ず、例えば福祉改革で給付型からサービス型に転換するなど、大きな見直しに踏み切った。これに対し、小池知事は少なくとも今までは非常に恵まれていて、各種団体や議会の要望をどんどん取り入れることで政策展開できた。待機児童対策もその一つだ。
 1期目を振り返ると、試行錯誤もあったが、総じて「よくやっている」というのが一般的な評価だろう。しかし、ここにきて新型コロナウイルス感染症対策という想定外の重大危機が発生し、直面する対応は、都道府県知事のリーダーシップに大きく左右される事態になった。最も成果が問われるはずだった五輪は来年に延期され、今後は都財政の急落をはじめ、これまでの生活様式や行動様式からの変革を伴うビヨンド・コロナ社会の在り方とも向き合わなければならない。都民に信頼感を与える東京都知事としての真の力量は、本来こうした局面で試されるのではないだろうか。
 都政運営の手法は前半・後半で完全に変わった。前半は顧問と呼ばれた外部人材を登用したが、結果的には、五輪の会場変更による混乱や市場移転と環状2号線の遅れを招いた。幹部の更迭は都職員にとって、今まで経験したことがないショッキングな出来事だった。
 一方、後半になると手法がガラッと変わり、顧問団を退かせて職員を重視するようになった。それはいいが、これが国の「官邸官僚」のような一部の職員集団による都政運営につながっていないか危惧される。本来の職層構造を重視し、そろそろ補佐官制度も見直すべき時期ではないか。
 都知事はいわゆる劇場型の選挙で選ばれるパターンが定着している。政策面で大きな実績が生まれるのは、国に先んじて政策形成を行う都庁の行政実務と、知事の強い発信力や行動力が結びついたときだ。かつてのディーゼル車規制や認証保育所がいい事例である。その点で、1期目で評価できるのは受動喫煙防止条例だろう。東京の飲食店の実態に合わない面積を基準とする国のやり方に対して、都が従業員の有無に着目して実効性のある条例を制定した。ここには、高い専門性を生かした政策形成とともに、現場を担う保健所を所管する区との協議、東京都医師会との強い連携といった調整作業を合わせて、都がやるべき行政実務が凝縮されている。
 長期ビジョンを策定したこともよかった。知事は都庁の経営的なトップで、全庁を目標に引き連れていく仕掛けが必要だからだ。内容は、バックキャスティング手法を取り入れるなど一見挑戦的だが、全体的には「手堅いな」という印象だ。都庁内部だけで作る計画には限界がある。例えば、都市整備局が策定した「都市づくりのグランドデザイン」には東京圏が目指すべき都市構造がきちんと示されている。ビジョンの中でも、3環状道路やTXなどが完成した東京圏(関東平野)が、この圏域はもとより日本全体にどのような新しい価値をもたらすのか、新線建設や空港機能のレベルアップの必要性をどう描いていくのか、都という行政区域を超えたダイナミックな展開がほしかった。東京圏が有する人口と経済規模は世界の主要大都市圏の中で抜きんでている。この優位性を生かさない手はない。グローバル競争はこうしたメガリージョンが舞台になっている。さらに、リニア中央新幹線が完成すれば国内各地間の移動時間は短くなる。東京圏の成長が全国にどのような効果をもたらすのか、未来の戦略にはそうした視点があっていい。
 都知事選で問われるのは「ビヨンド・コロナ」の対応だろう。地震や豪雨に加えて新たに感染症に直面し、自治体の危機管理をどうするかビジョンを示すことが大事になっている。例えば、保健所が疲弊している現状を見れば、公衆衛生を重視する行政の復活が求められるのではないか。あるいは「3密」を避ける避難所運営も喫緊のテーマだ。社会の在り方も相当変わる。もちろんテレワークの加速はその一つだろう。フィジカルディスタンス(物理的距離)の確保を常に意識していくことになるが、孤立化・孤独化の中で社会とのつながりを失ってはいけない。ソーシャルキャピタルとソーシャルインクルージョンを危機管理の重要な要素とし、社会構造の中にどう組み込んでいくか。都にはぜひリーダーシップを発揮してもらいたい。   =おわり
 

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