都政新報
 
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小池都政 虚像と実像~第3部 有識者が見る1期4年(3)/〝都性〟が生んだ「遊興」の系譜/東京大学大学院教授金井利之氏


  小池知事の一つ目の業績は1期目の4年目を迎えられたことである。猪瀬、舛添両知事が短命だったのに対して、小池都政は一定の安定性を確保したかに見える。テレビ劇場は実務を変えないように、実務的に無為無策ゆえに、現実世界を変えないがゆえに、知事職を継続できた。
 本来の都政が重視すべき課題は環境問題であり、貧困問題である。クールビズの提唱者でもある小池知事は環境対策に注力しているかの印象は強いが、環境激変についていけていない。暴風雨・酷暑が毎年のように起きているにもかかわらず、ピンボケである。五輪のマラソン・競歩の会場移転騒動で「日本は夏には屋外運動ができない」と世界的に認定を受けたが、「打ち水」「浴衣」「濡れタオル」「遮熱性舗装」のような見せかけの対策しか出てこない。これを機会にマラソンに耐えうる環境対策を推し進めるべきだった。
 また、表面的な一極集中の「好景気」は、個人事業主・フリーランス・非正規雇用・派遣・外国人の労働に支えられた経済であり、単身世帯・無縁社会のなかで、生活保障は極めて脆( ぜい)弱な(じゃく )ままであった。大々的に都政の課題として掲げた「3つのシティ」のうち、生活保障の視点なき「セーフ・シティ」も、的外れな目標であった。
 結局、ニュース・キャスター臭が抜けない小池氏は、いかにテレビに映るかのみが課題であり、都政の課題も話題づくりだけである。元々〝都性〟は遊興を旨とし、都民も視聴者として、都知事に劇場を期待する性向がある。その意味で「意地悪ばあさん」の青島幸男氏、石原軍団の作家・石原慎太郎氏、評論家・作家からテレビコメンテーターを経て道路民営化騒動の「審議会おじさん」の猪瀬直樹氏、テレビ評論家から政治家となった舛添要一氏、いずれもテレビ時代の遊興芸人である。小池氏もその系譜であるので、小池氏の我欲というよりは、都民の役割期待に応えているだけとも言える。小池知事は都性が生み出したものである。
 就任当初は、築地市場移転問題でワイドショーの「小池劇場」を開演したが、結局は移転を遅延させただけであった。「都議会のドン」を仮想敵に首長政党「都民ファーストの会」を立ち上げ、ポピュリストとして遊興都民から集票した。さらに、その勢いを国政に活用すべく「希望の党」を創ってカゼを起こしたが、「排除します」発言によって勝手に終息した(新型コロナ感染症もこのように終息してほしいものである)。そこで、党に絶望して無関係を装って都政に退避した。当時の都政には2020年五輪という遊興イベントが控えていた。
 五輪関連では受動喫煙防止・差別防止などは進めた。しかし、建設費削減・会場変更問題などでもマスコミをあおったが、無為に終わった。マラソン会場を札幌に上納されるときに、何の対策も打てず、同様に新型コロナウイルス感染症に伴う延期・中止問題でも、IOCに全権を奪われて何もできなかった。それどころか、東京五輪の予定通りの開催に固執してきたがゆえに、感染症対策の初動は圧倒的に出遅れた。
 バッハIOC会長と安倍首相の1年延期決断のおかげで、小池知事はようやく新型コロナ対策に乗り出せた。遊興都性と電波芸人の本領が発揮できるようになり、日々、テレビに映ることに邁進(まいしん)している。もちろん、東京は日本国内の最大の蔓(まん)延(えん)地である。実態は〈東京コロナ〉を呈しており、47都道府県のなかでは完全に失敗である。しかし、感染者数も死者数も院内感染もテレビの話題でしかなく、むしろ多い方が注目を浴びる。「ロックダウン(都市封鎖)」「ステイホーム(家に居ろ!)」などと言葉をあおる好機となる。毎日、記者会見を繰り返し、穴の空いたレースのマスクで飛(ひ)沫(まつ)を跳ばす。こうして、小池知事はテレビに出演し、テレビ視聴者である都民は芸人知事の活躍を視聴して満足する。記者会見だけでは飽き足らず、テレビCMや街頭ビジョンの画面いっぱいに自ら出張る。7月の都知事選挙や、さらには来るべき国政選挙に向けた、選挙活動に余念がない。コロナとの「闘い」ごっこに、元防衛相の本懐はご満悦である。本当の戦争をするよりは良いが。
 そして、〈コロナ戦場(扇情)〉によって都民にサーカス(遊興)は与えられたが、〈コロナが通れば道理が引っ込む〉。都庁や区役所の職員は、記者会見や会議に随行させられ、コロコロな方針転換に伴う対策を検討・実行するなど、小池劇場に付き合わされて心身ともに疲弊する。追いつめられた経済破(は)綻(たん)によって、都民のパンは失われる。この間、上記のようにセーフティーネット整備に無為無策だったため、経済・生活すなわち貧困問題が喫緊の課題として浮上する。しかし、そのときには、大災害をもたらす台風のように、恐らく小池知事は都庁にはいないだろうし、それが小池知事の二つ目の業績となろう。都民は自らの性向の帰結を自ら甘受することになる。しかし、都性の呪縛にある都民は、また似たような選択をしてしまうだろう。
 

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