都政新報
 
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小池都政 虚像と実像~第3部 有識者が見る1期4年(2)/何がしたい?都民に明示を/信州大学特任准教授 山口真由氏


  新型コロナウイルスの対応では「3密」という標語をはじめ、都民へのコミュニケーションのうまさが光っていると思う。3月下旬の3連休の緩みを止められないまま感染を拡大させてしまったことなど批判できるところはあるのかもしれないが、未曽有の事態に直面し、心身共に疲弊しながらも、おおむね正しい方向に都を導いていく姿勢は尊敬に値する。
 ただし、私は「休業要請と補償がセット」というスローガンには、必ずしも賛同しない。まずは休業要請、その後に、特定の個人に生じた過度の負担を補償する。公衆衛生の前に、個人の経済的権利はときとして道を譲るというのが憲法原理ではないか。オバマ米大統領の第1回就任演説は、それまでの「チェンジ」という軽やかな掛け声から一転、重厚なトーンで、一人ひとりの米国人に「困難な仕事に立ち向かう」覚悟を問うた。都民に厳しい選択を求め、怨(えん)嗟(さ)の声を引き受ける胆力もリーダーの資質ではないか。
 小池知事は次期都知事選に出馬するものと目されており、コロナ対策によって評価が決せられそうな今、平時の政策を振り返っておくことは極めて重要である。複数期努めることで成し遂げられる政策転換もあるので、1期目での短期的な評価は難しいが、政策の方向性が間違っているとは思わない。小池知事が最も重視しているのは成長戦略だろう。舛添前知事は地方創生の流れをくんでいたが、小池知事は「東京一極集中」を全くいとわない形で、国際的な金融都市を目指していると理解している。世界の資本を呼び込んで、特にアジアの中でシンガポールや香港に追いつき、追い越したいのではないか。外資系の企業に聞いても、アジアの拠点は東京ではなくなっていて、「アジアで1番」を維持できなくなるとカネの集まり方が全く変わって来る。長期的には日本の停滞につながるから、特区のような大胆な発想で、東京だけでも規制緩和する考えは賛成できる。
 ただ、政策の方向性を都民に誠実にコミュニケーションしているかどうかは、必ずしも明らかでない。「待機児童ゼロ」のキャッチフレーズから、福祉の知事というイメージがあるとすれば、本人にとってラッキーな意味で誤解を受けているように思う。「ダイバーシティ」と言っても、美濃部元知事のような左派的な政策とは全く異なる。「LGBTQ」など海外のリベラルな志向を、誤解を恐れずに言えば、やや「ファッション」的に取り入れているという印象を受ける。アベノミクスと足並みをそろえる経済的な新自由主義的政策が、彼女の主軸であることを見誤るべきではないだろう。
 大事なことは、小池都政の方向性を都民に明確に伝えることだ。例えば「基本的には新自由主義な考えの下、都市の競争力を強化する」と。それが最終的に、高齢福祉施策に結びつくということでもいい。ちゃんとしたコミュニケーションをしておかないと、2~3期目に入ったときに、言っていたこととやっていたことが違うのでは?という話になってしまう。
 初の女性都知事としても注目を集めたが、個人的には「女性」を過剰に出す必要はないと思っている。最後に問われるのは政治家の「器」。例えば、田中真紀子さんは父の角栄さんに比べてもなお、巧みなコミュニケーション力を誇りながら、この国をどうしたいのかという明確なビジョンを提示できなかった。ある程度の怨嗟を引き受けながら、新自由主義的な政策をやり抜くという信念があるのか、政策は自己顕示の一つの表れにすぎないのか。彼女の核にあるものがビジョンなのか「私」なのかは、私たち都民が見極めるべき重要な問いだろう。
 都庁は巨大な行政機構で、国ほどメディアの目が入りにくいから、ある意味では国よりも権力が大きかったり、職員一人ひとりができることが多く、都庁官僚が支えている特殊な組織。「伏魔殿」と言われた時期もあった。だからこそ、知事と官僚との橋渡しができないとうまく回らない。その意味では、小池知事のやりたいことが組織で理解されているかは疑問だ。特に都知事は大統領制に近く、絶対権力者になりやすい。官僚とのパイプが細くなると、「おっしゃる通りです」(という忖度(そんたく))になる。職員の声を上げやすい雰囲気にしないといけないし、官僚を信頼して任せるところは任せて、「こういう東京にしたい」というイメージを共有した方がいい。小池さんは都政の情報公開を掲げていたが、ここは都政の課題。誰がどう意思決定をしたか残しておかないといけない。
 自民党との関係で言えば、小池知事はマスメディアのことをよく分かっていて(政治手法として)敵を作るのがうまい。「おじさんたちにいじめられているけれど頑張ります」と。ただ、そのやり方だと短期的には成功しても、必ず禍根を残す。これまでの遍歴を見ても、小池知事は上の人に引き上げられてきたタイプ。都庁という巨大組織でリーダーシップを発揮できるかはこれからだ。都庁を少しずつ、自分の考えている方向に持っていけるかだと思う。
 

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