都政新報
 
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小池都政 虚像と実像~第3部・有識者が見る1期4年(1)/職員に政策の納得感与えよ/早稲田大学名誉教授北川正恭氏


  新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない中、都政の命運を決める都知事選が2カ月余りに迫ってきた。現職の小池知事はこれまで進退を明らかにしていないが、再選出馬が確実視されている状況にある。来期は新型コロナ感染症の終息と経済の立て直し、五輪延期問題の対応など難題が山積する。シリーズ「第3部」では有識者に小池都政1期目の総括と課題、展望を聞く。

 新型コロナウイルス感染症対策を巡って、小池知事が他府県に先駆けて店舗への休業要請と協力金給付を実施した点は評価している。他県が事業者への経営支援の財源を確保できないことを理由に、当初は休業要請に後ろ向きな姿勢を示していた中で道を切り開いた。
 国は7日に新型コロナ特措法に基づく基本的対処方針を改定し、国との事前協議などを盛り込んで都道府県知事の権限を縮小した一方で、16日に緊急事態宣言を全都道府県に発令するという地方自治を軽視した対応をとっている。今こそ、全国の知事が力を合わせて、国に意見しながら新型コロナ感染症を乗り越えるべき時だ。都知事には筆頭に立ってほしい。
 小池都政1期目を振り返ると、2016年の都知事選を通じて、小池知事が都政の課題をオープンにした点も評価している。具体例の一つが200億円の政党復活予算の廃止だ。執行機関が特定の会派に予算を渡すというのは、外部の人間から見れば信じ難い暴挙。知事与党、野党などという表現はやめて執行部と都議会が成熟した関係を構築すべきだ。
 一方で、革命的な改革を起こしたら既存勢力から圧力がかかるもの。都庁の職員や議会とのあつれきもあったと思うが、議会が執行部の議案を否決するといった騒ぎになっていないことは、(革命が)停滞しているのではないかと大きな不安感がある。
 小池知事が昨年末に 発表した「戦略ビジョン」で採用されたバックキャストという手法は、私が三重県知事時代に実践したマニフェストを設定するための考え方。行政は予算主義のためフォアキャスト(過去のデータや実績に基づく予測)で政策を立案しているが、目標の達成期限、財源、手段を選挙前に明確に提示するのがマニフェスト。戦略ビジョンで2040年代までの理想の姿を示している点は進歩といえる。行政も政治もマニフェストのPDCAサイクルを回していくことが求められている。
 都庁職員としては、政治家が都民のために出した目標をどのように達成するかを考えるのが仕事だ。都民より自分たちを優先している発想ではいけない。内部から意識を改める必要がある。莫大(ばくだい)な13兆円もの予算があり、縦割りだけで決めることが地方創生時代に許されるのか。政治判断が正しいか、役人の考えが正しいかは議論すればいい。
 戦略ビジョンに対して職員から反論が出ているとすれば、都庁内で情報がオープンになっておらず、組織が統一されていないからとも考えられる。「目標値の設定に無理がある」と批判を受けたら、職員に納得を求め、行動を意識づけるマネジメントが必要だ。(バックキャストで)パラダイムをひっくり返す政策を立案しているからこそ、行政の長としては憎まれ口をたたかれても、職員に政策に対する納得感を与え、心からやってみようと思わせる仕掛けが大事だ。
 私が三重県知事を務めていた時は、職員に政策に関する疑問や不明点を率直に尋ね、朝から晩まで庁内での「対話」に時間を費した。ディベートで相手の意見をたたき潰して予算を獲得するのが役人の習性だったが、対等な関係で全庁と対話することに重きを置いた。小池知事も徹底的に職員と対話した方がいい。 
 7月には都知事選が行われる。選挙はポピュリズムにあおられることが多いが、本来はマニフェスト型で議論を呼ぶ機会だ。都知事選では新型コロナ感染症対策や今後想定される首都直下型地震などを経た後の東京をどう描くか、変化を良い方向へと導く重要な行政課題がある。知名度頼みの人気投票では、地方政治の向上につながらない。
 これからの都知事には、地方の声を聞き、国への代弁者となることを期待している。地方の問題は国との戦いもさることながら、他方では「東京対地方」の戦いだった。不交付団体の都は都道府県の中でも立場が強い。東京の人口と財政基盤は、地方からの収奪で補完されたものだ。都知事には、富める者が貧しい者に分け与えるという倫理観と公正な視点を持ち合わせてほしい。
 

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