都政新報
 
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小池都政 虚像と実像~第2部 組織・政策の研究(下)/都庁文化/組織に「思考停止」の危機感


  ヘルメットをかぶった小池知事は地下に降り立つと、満足そうに担当者の説明に耳を傾けた。16日、環状7号線地下の広域調節池(中野区)。二つの調節池を延長5・4キロのトンネルで貫く工事現場の視察だ。完了すれば洪水を貯留する機能を融通でき、時間100ミリの局地的豪雨にも効果を発揮する。
■成果までの時間
 豪雨対策に対する知事の関心は強い。2017年10月、パリ。「希望の党」を立ち上げて国政進出を試みた直後、小池知事は公務で海外出張していた。環境対策を話し合う「C40」会議に出席するためだったが、滞在中に絶えず気にかけていたのが、降雨状況を色分けで表示するウェブサイト「東京アメッシュ」だ。折しも首都圏に大型の台風が近づいており、国政進出に対する逆風の中、知事不在の合間に被害が出れば、批判が強まるのは目に見えていた。
 この時は幸い、地下調節池が効果を発揮し、東京は難を逃れる。以降、調整池に対する信頼感が増したのか、翌年の民放のバラエティー番組には自ら出演して環7調節池を案内してみせるほど。昨秋には台風被害が発生し、調節池がまたも実力を発揮。新たな事業化にも乗り出している。
 ただ、小池都政において、調節池はあくまで例外的なインフラ事業だ。インフラはいったん完成すれば大きな効果を発揮するものの、完成までに長期間を要するため、プロジェクトを華々しく打ち上げて都民に訴求するソフト事業と比べると、存在感は薄い。調節池も小池知事の就任前から着実に整備してきた成果が出ているのが実態だ。
 小池知事は選挙公約に「満員電車の解消」をぶち上げたが、鉄道の複々線化を始めとする輸送能力の強化には事業者の協力の下、長い年月を要することから、通勤時間の混雑緩和を図る「時差ビズ」などソフト面の対処が先行している。
 また、臨海部の人口増加と交通能力を踏まえれば、本来、地下鉄8号線を始めとする鉄道網の構築は優先的に着手していい時期だ。ただ、新年度予算案を見ても、目玉は多摩都市モノレールの延伸くらい。石原都政で外郭環状道路の整備や羽田空港の拡張に手をつけたのと比べると出足は鈍い。
 技術系のある幹部の脳裏には、「知事はインフラ整備にどれだけの思いを思っているのだろう」とクエスチョンマークが払(ふっ)拭で(しょく )きないでいる。
■熟考よりスピード
 細部や見映えにこだわる点も、小池都政の特徴と言える。
 職員が常に気を回すのが懇談会・審議会やプロジェクトの立ち上げだ。委員の背後の人脈が知事側とぶつからないか、ネーミングは知事の感性に合うかを吟味し、知事側から降りてきた指示通りに作業を修正する。ある本庁部長は「課長レベルの仕事まで知事ブリーフィングでお伺いを立てることが増えた」と自嘲気味に話す。
 象牙の取引規制やプラスチック対策、次世代通信規格「5G」網の構築など、世界の潮流となる難題に果敢に挑むのも小池都政ならではだが、会議体の立ち上げ当初は生煮えの状態で、着地点が見えているわけではない。
 「常に目立つ話題で動いて、地道な積み上げは役に立たないと思っているのではないか。職員も『熟考よりもスピード感が重要』の考え方にシフトしている」。前出の幹部はこう認めた上で、「知事側が言うから取りあえず実現可能性を探り、後から理屈を付ける文化になりつつある」と仕事の変容ぶりを嘆く。
 こうした状況に、現役・OBを問わず、都庁関係者の危機感は強い。「最も怖いのが、下から積み上げる文化が消えること。議論せず、知事側の指示そのままにこなすようになる」とOBは将来的な不安を口にする。特に懸念されるのが中堅以下の「思考停止」といい、「失敗したら粛清されるというのを目の当たりにしている。ネット検索やウィキペディアの引用でことが済む若い世代はなおさら、『考えずに従う方が合理的』と感じてしまうかも知れない」。
 官僚はあくまで「補助機関」であり、意思決定を行う権限は知事にある。ただ、現場を動かしているのは一人ひとりの職員だ。意のままに縛り上げる窮屈な状態が続けば組織の活力は削がれる。職員の主体性と多様性をいかに引き出すか、早急な立て直しが求められている。
 =「第2部」終わり。「第3部」では、有識者に小池都政を分析・提言してもらいます。
 

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