都政新報
 
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小池都政 虚像と実像~第2部 組織・政策の研究(中)/全方位外交/八方美人だけでは済まぬ


   「熱い思いはしっかりと受け止めさせていただく」。2017年2月、都庁で行われた市町村長との意見交換。小池知事は多摩都市モノレールの延伸について、「悲願」とする藤野勝武蔵村山市長に対しこう語った。
 結果、20年度予算案では多摩モノの箱根ケ崎方面の延伸に向けた調査費を初めて計上。同線は国の交通政策審議会答申に位置づけられており、都が整備基金を積み上げている6路線の一つだ。都市整備局は他路線に先駆けて予算化した理由を、地元市との延伸後のまちづくりに関する協議や事業用地買収の進展を受け、「整備に向けた熟度が最も高い」と説明する。
 「多摩格差ゼロ」を選挙公約で掲げた小池知事は、都庁から離れた多摩地域にこれまで、視察や式典に足しげく訪れてきた。就任から約半年後には、予算編成に向けて意見聴取するため、市町村長と1対1で意見交換する場を設定。市町村からの要望が強かった「総合交付金」も過去最大となった今年度の560億円から更新し、来年度は580億円と見積もった。増額を要望してきた公明党も「まさか実現するとは」(幹部)と驚く大盤振る舞いとなっている。
 都の「戦略ビジョン」でも多摩・島しょ振興は柱の一つに掲げている。多摩地域を30年までに「世界有数のイノベーション先進エリア」に成長させ、都庁内に各市町村からの要請に応じた「オーダーメイドの支援策」をワンストップで受け付ける新たな組織を設置する予定だ。小池知事が就任以来、市町村に足を運ぶ姿勢は、多摩地域に関心が薄かった石原、舛添知事との比較とも相まって、地元から評価する声が上がる。
 一方で、特別区に対しても「戦略ビジョン」の策定に向けて、昨年9~10月に区長との1対1の個別ヒアリングを実施。ある区幹部は「特別区長会全体でのヒアリングよりも、区が抱える個別課題について話しやすい」と歓迎する。
 基礎自治体の関係構築では、公式ヒアリングを前に特別秘書が事務方と共に要望を聞いて回り、周到に準備してきた経緯がある。都幹部の一人は「自民党に近い首長との関係を改善する狙いもあるはず。『御用聞き』は明らかに選挙を意識している」と見る。
 支援団体への配慮も怠らない。公明党が要望していた私学助成の拡大では来年度、対象世帯を一気に910万円未満の世帯に拡充。東京都医師会が求める受動喫煙防止対策や連合東京が要請する「ソーシャルファーム」の創設についても、今年度の都議会で条例制定にこぎ着けている。
■事前調整に難
 全方位外交で目配りする小池知事だが、半面、政治判断が先行する意思決定では、事前調整や情報共有の難を訴える声は少なくない。
 例えば、市場移転と築地跡地の開発では、豊洲市場(江東区)の開場の延期とともに、江東区と約束していた「千客万来施設」の整備が遅延し、説明も後手に回った。江東区議会は一時期、特別委員会で都との協議を打ち切るなど反発を強め、副知事が謝罪しても事態が収まらず、小池知事自ら出向くこととなった。
 また、4月に本格施行となる受動喫煙防止条例では、特別区が各店舗への指導・勧告などの実務を担うため、区によって規制の仕方にばらつきが出ないよう情報共有を図る必要があるが、特別区からは「現場に説明が全くない中で突然、都議会で表明された」(杉並区)との批判が上がった。実務が滞れば「スモークフリー」は掛け声倒れに終わりかねない。
 私学助成や市町村総合交付金、多摩モノ延伸のように、予算をつければ済んだり、都だけで意思決定できる政策は、知事判断で容易に突破できる。一方、市場移転や受動喫煙防止など、実務的に周到な根回しが必要なものについては、地元や関係機関との調整が後手に回る傾向が見られる。
 都政は今後、受動喫煙防止の実務や児童相談体制の強化、災害対策など基礎自治体との連携なしには実現しない難題が増えていく。財源が潤沢なうちは順風だが、「八方美人」では前に進まない交渉事に今後、いかに斬り込めるかは、真の意味での突破力を問うている。
 

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