都政新報
 
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小池都政 虚像と実像~第2部 組織・政策の研究(上)/意思決定/権限凝縮、指揮系統にゆがみ/外部の顧問団は退場したが…


  知事日程は、過去の都政では想定できないほどギッシリ組まれている。週末も現場の視察や面会、式典といった行事が目白押しだ。2月に予定していた訪米は、新型コロナウイルスの対応で延期した。昨秋の台風被害に伴う中止に続いて再度のキャンセル。危機管理にも抜かりはない。
 週2回の登庁が批判された石原知事や、外遊が辞任の発端となった舛添知事─小池都政はこうした過去の失敗を教訓として生かしているように見える。
■補佐官と「V0」
 その夜の小池知事は、とにかく愛想が良かったという。会場の都庁職員食堂にやや遅れて姿を見せてからテーブルを回り、ほろ酔いの管理職らの日々の業務の話に耳を傾けた。総務局から各局に通知された「懇親会」。職員との距離を縮めるためにセットされたとの見方がもっぱらだった。
 「最初は職員を信頼していなかった小池知事だったが、本人なりに組織を取り込もうとする姿勢はあった」。ある幹部はこう指摘する。人気絶頂の滑り出しから2017年の衆院選で国政進出を狙ったものの、世論の風向きが反転し、支持が急落してからのことだ。
 就任当初、都庁に乗り込んだ小池知事が頼ったのは外部の顧問団。大阪府・市の改革で名をはせた上山信一慶大教授や、環境相時代の部下だった小島敏郎元審議官らが名を連ねた。
 当時は知事ブリーフィングの場で事務方が説明してもすぐには決裁を得られず、「知事預かり」になることが多かった。自身では判断が付かないからか、週末の顧問らとの協議で意思決定がなされ、それが週明けに降りてくる。市場移転の延期を筆頭に、入札契約制度改革や競技会場の見直しなど、現実を無視した提言が繰り返され、その度に官僚は後始末に追われた。
 今、顧問団は去った。ただ、一握りの側近と意思決定する構造は変わっていない。
 キーパーソンの一人が副知事まで務めた村山寛司特別秘書だ。緻(ち)密(みつ)な仕事に定評があり、「戦略ビジョン」の策定でも力を発揮。プロパーの3副知事はいずれも過去、村山氏に仕えた経歴があることから、同氏は都庁内で「大副知事」とも、副知事を表す「V1~3」より上位の「V0」とも称される。3人の副知事まで説明を通した案件が覆されるケースもあるといい、OBの間では期待された「ブレーキ役」になっていないとの見方が強い。
 知事補佐担当では局を分担する部長級とは別に、「第二主計部」とも呼ばれるグループがいる。
 都では舛添知事時代、「リエゾン」と称して知事の意向を各局に反映させる補佐官制度を創設。その仕組みが引き継がれ、知事の思いを具現化させるために力を注いできた。ただ、小池都政の下では、その存在感はかつてなく大きい。たたき上げの部長級を中心に知事のサポートを担当し、村山氏の元部下だった経歴から意思疎通にも漏れはない。知事との接点が多いことから、副知事が補佐官に知事の意向を尋ねたり、補佐官が局長に指示を出すというのは、今までの都政では考えられなかった現象だ。
 関係者の一人は「歯車から抜けられない状態。『自分のため』に知事に取り入るというよりは、純粋に仕事好き。頼りにされて意気に感じている部分もあるかも知れない」と評し、「かつてなく権限が凝縮している意思決定システムは、知事にとっては便利だろう。一言で全部、仕上げてくれるのだから」と分析する。
 小池知事は過去の知事と比べても、政務を支えるブレーンの不足がかねて指摘され、その役割を都庁官僚に頼る。ただ、この統治機構について、複数の幹部が口をそろえて指摘するのが指揮命令系統のゆがみだ。
■インナー
 小池都政ではかねて、市場移転の延期と「築地は守る、豊洲を生かす」とする基本方針など、政治判断を伴う意思決定が「ブラックボックス」との批判を浴びてきた。しかし後半に入っても、東京データハイウェイ構想や都立・公社病院の独立行政法人化といった政策が直前まで局側に知らされぬまま「インナー」で検討し、外にアナウンスするケースが出ている。
 かつての都政で知事本局長を務めた元幹部は、次のように指摘する。「知事の椅子に座ると、『都政を目の前の少数で動かしている』と勘違いしてしまう。本当は下に何万人もの職員がいて、局長が組織をどう動かすかが肝。しかし、歴代の知事を見ても、そういう発想には立たず、ブレーンだけで決めることは多い」
 小池都政では外部の顧問を追い出した末に頼ったのが都庁官僚であり、それ自体は都政の正常化に向けた一歩になるはずだった。ただ、一部の元副知事を除いて、首脳がトップに直言できず、コミュニケーションが一方通行になる状態は続いている。
 都幹部の一人は「小池知事は他人をたたくことでのし上がってきた政治家。敵か味方かで判断し、他人を信用していないから、任せられないのかも知れない」と評し、「少人数で決めて『こうなった』と知事室の外に伝わる─それが小池スタイルだ」と解説する。
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 シリーズ「第2部」では1期目の組織・政策を通して小池都政の本質を探ります。
 

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