都政新報
 
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東京の未来像~有識者に聞く都の長期戦略(8)/ICT教育劇的な環境変化受け入れよ/デジタルハリウッド大学大学院教授佐藤昌宏氏


  ─2040年代にかけて教育はどのように変化していくでしょうか。
 教室での授業とオンライン学習を融合させた「ハイブリッド型」が新たな学びの形として定着するだろう。オンライン学習やICTなどを導入すると、学習の履歴をログとして残せるため、教科学習は個人の得意・不得意分野に集中させるなど効率的に学べるようになる。加えて、論理的思考を伸ばす学習を採り入れるなど学びの多様化にもつながる。隠れ不登校の問題などが顕在化し、教室に通わなければ学習できない環境には限界が来ている。ソサエティー5・0の到来やデジタルトランスフォーメーションなどのテクノロジーによって、教育現場は劇的に変わることになる。
 ─これからの教育に求められることは。
 日本は世界に先んじて少子高齢化に突入する課題先進国。正答のない社会課題の解決に向けて試行錯誤することになり、失敗は避けられない時代を迎える。その時に必要な能力が、失敗をマネジメントしながら試行錯誤する力と、新しいものを生み出す創造力だ。ICT化によって、教科学習を効率化すれば、こうした力を身に付けるために、学校以外で学習する時間や、自分と対話する時間などを生み出すことができる。
 ─都がすべきことは何ですか。
 国は2030年までに教育ICT技術のインフラを整備し、教育ビックデータを活用した個別最適化や、問題解決能力を育む「STEAM教育」を進めていく考えを示している。私は、このうちのインフラ化には3~5年程度でロールモデルができると考えている。都の長期戦略ビジョンの論点整理は、ほぼ国と同じ方向性を向いていると思われるため、改革のスピードを更に早め、率先してモデルケースを作り上げてほしい。
 ─ ICT化で社会性を身に付けにくくなる弊害はありませんか。
 テクノロジーは、場所や時間の拘束をなくす。既に大学では、海外との共同研究をテレビ電話やネット上でのやりとりなどで行っている。対面でのコミュニケーションも重要だが、メールや電話などICTを使った関わりが増える社会に変わっている。技術が進歩すると、デジタルコミュニケーションが不可欠な能力になる。
 ─教員の仕事にどのような影響が出ますか。
 単純な知識習得においては、先生に教わるよりもネット検索の方が便利になっている中、教員の役割は、授業で教えることよりも学習のサポートが中心になっていくだろう。教員はティーチングの仕事にアイデンティティーがあるので、役割が変わることへの抵抗感は根強い。だが、学習意欲の喚起など教員にしかできない大きな役割は更に増す。なぜなら、ネット検索は学習意欲のスイッチが入った子どもの要求には応えてくれるが、現実には意欲が高い子どもばかりではないからだ。
 ─ ICT教育を前進させる上での留意点は。
 ICTはツールでしかない。教育の本質である「学習者のために何が大事か」を判断するには道徳的判断や教育哲学が重要になってくる。都には資金や人材などが集中しているので、新たな教育の体系づくりに率先して取り組んでほしい。それを今後50年、100年かけてでも邁進(まいしん)することが社会に課せられている宿題だ。
 

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