都政新報
 
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東京の未来像~有識者に聞く都の長期戦略(6)/少子化優先順位つけ予算配分を/名城大学都市情報学部准教授宮本由紀氏


  
 ─長期戦略ビジョンの論点整理の印象は。
 まず、都が現在直面している問題・課題が多岐にわたって丁寧に整理されており、現状分析は十分になされているように思った。一方で、「何を達成したいか」が羅列されており、「何から取り組むべきか」についての議論が不足しているように思われた。出産・子育て環境が目に見える形で変化しない限りは、現状の少子化を食い止めることは難しいだろう。多岐にわたる課題に優先順位をつけ、重要と思われるものに思い切った予算配分をした方が、結果的に良い結果につながるのではないか。
 ─都が目標に掲げる「出生率2・07」は達成可能でしょうか。
 少なくとも2040年までにこの水準を達成することは不可能だと思われる。そもそも、データが入手可能な1960年以降、都の合計特殊出生率が2・07を上回ったことは一度もなく、2・0を超えたのも60年(2・0)と71年(2・02)のみ。21世紀に入ってから都の合計特殊出生率は緩やかな上昇傾向にはあるものの、今後20年の間に劇的な上昇があるとは考えにくい。日本の現状を考えると、40年までに達成するには、移民の大量受け入れなど、かなり思い切った政策が必要になると思われるが、このような政策を都単体で推進するのは難しく、また、都民・国民のコンセンサスの形成にもそれなりに長い時間がかかる。まずはできることを着実に行いながら、中・長期的な議論を継続することが肝要だ。
 ─出生率2・07の達成に向けて注力すべき施策や事業は。
 足下の政策として、やはり保育所の拡充が最優先だと感じる。都では待機児童数が徐々に減少しているが、そもそも待機児童がゼロになればそれで良いというわけではない。現状では保育所に子どもを入れられるものの、自宅や職場から遠く離れた場所の保育所しか利用できず、仕事と子育ての両立に疲弊している人たちが数多くいる。このような状況では、たくさんの子どもを産み育てようという人は増えない。待機児童ゼロの目標を超えて、全ての子育て世帯が便利に利用できる保育所サービスを安定的に供給できるようにすることが、東京都の出生率を向上させる上で最優先になる。 
 ─40年代に向けた子育て世帯の経済負担の潮流は。
 子育て世帯の経済負担は近年増加傾向にある。特に3歳未満の子どもを育てる世帯の負担増加は著しく、若年世帯が出産に踏み切れない要因の一つになっていると分析している。一方で、近年は幼児教育・保育の無償化や改正育児休業法の施行、待機児童解消への取り組みなどが進み、子育て世帯の経済負担が低減する兆しも見られる。若年世帯のライフスタイルや子育て環境が大きく変化する中、今後20年が正念場と言える。
 ─少子化を見据えた予算配分の考え方は。
 長期的には今まで以上に子育て、教育に予算を多く配分する必要がある。一時的なものでは効果がなく、手厚い予算配分を長期的に継続することが必要だ。少子化対策に思い切った予算配分を行うには、少子化対策が都、ひいては日本国全体の最重要課題の一つで、その解決によってどのような社会的便益が得られるのかを、都民に丁寧に説明する必要がある。
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