都政新報
 
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攻めと守りと~都2018年度予算案(6)/超高齢社会/介護人材確保待ったなし


  興味深いデータがある。小池知事が定例都議会の所信表明や施政方針で「高齢」と発言した回数だ。2016年8月の知事就任以降、昨年6月までの全4回の定例会では1~6回で、「高齢化」や障害者とセットで触れるなどにとどまり、高齢者をテーマに取り上げることはなかった。
 だが、就任2年目に変化が起こる。同9月以降の全3回の定例会での発言数は12~13回と急増。小池都政の主軸だった待機児童を差し置き、最重要政策に超高齢社会対策が浮上した。
 こうした傾向は来年度予算案でも同じだ。都財務局が「待機児童対策の一方で、高齢者対策にも力を入れた」と説明するように、予算の2本柱の一つに躍り出た。前年度比123億円増の841億円を高齢者施策に振り分け、更には社会参加の促進メニューにも高齢者を対象とする事業を多数盛り込んだ。
 知事は先月21日の第1回定例都議会の施政方針で、「人生100年時代を迎えようとする今、高齢者の意欲や経験は、東京の大きな財産だ」と力強く語った。
 超高齢社会に関しては、知事肝煎りで発足した有識者懇談会が昨年11月にスタートし、議論途中ながら計13億円を計上。いずれも新規事業で、認知症ケアの新モデルの普及(2億円)に加え、シニア向けセミナー農園整備(10億円)や空き家の多世代交流への活用策(包括補助メニューに追加)など、国が提唱する「地域共生社会」を視野にメニューを並べた。
 都幹部の一人は「若干遅い感すらある。今すぐに対策を講じないと手遅れになる」と焦りをにじませるが、同懇談会が今夏に提言する超高齢社会に関する複数の「地域モデル」を受け、19年度予算ではさらに施策が強化される見通しだ。
 一方、高齢者対策の本丸は介護施策だ。予算案では▽介護人材の確保・定着(38億円)▽地域居住支援(344億円)▽介護施設整備(460億円)─の三つを柱に据えた。
 「喫緊の課題は人材だ」。都福祉保健局高齢社会対策部はこう述べる。
 都は団塊の世代全てが75歳以上になる25年度に約3万6千人の介護職員が不足すると推計。次期高齢者保健福祉計画改定に合わせて再推計中だが、介護現場の焦りは強く、ある区の介護保険課長は「介護サービスの提供量の不足は、絶対に避けなければならない」と危機感を募らせる。
 だが、課題は山積みだ。都内の有効求人倍率が1・54とただでさえ人出不足が全業種で広がる中、介護職は4・94(15年)と飛び抜けて高い。「きつい」「汚い」「給料が安い」など、いわゆる「3K職場」のイメージが浸透し、求職者が敬遠。最近では新卒者の親が介護職への就職に反対する例もあるといい、都社会福祉協議会の担当者は「ネガティブな印象が先行し過ぎている」とこぼす。
 都はこうした中、若年層の開拓策として、新卒者の奨学金相当額を事業者に補助する制度を新設。1億円を予算化し、働き手の報酬と併せ、事業者の経営を側面支援する。
 また、新しい介護機器の導入(0・5億円)など人材定着策にも新メニューを並べた。離職理由の上位は「職場の人間関係」や「施設運営への不満」などが占め、福祉保健局は「事業者の規模が小さいことが主因。規模が大きくなるよう職場環境の改善策を講じていきたい」と背景を説く。
 施設整備では、特別養護老人ホームの整備目標を2千人引き上げ、25年度までに定員を6万2千人分新設すると実行プランで示した。ただ、ある区の担当者が「待機児童対策の手厚さに比べたらまだまだ」と指摘するように、さらに強化する余地は残る。
 高齢者保健福祉計画、地域福祉支援計画、保健医療計画、医療費適正化計画など、来年度同時に改定・策定となった都の高齢者政策。来るべき全団塊世代が75歳以上となる「2025年問題」を見据え、新ステージに突入する。
 

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