都政新報
 
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攻めと守りと~都2018年度予算案(5)/待機児童対策/「小池バズーカ」の威力は


  
 「待機児童の解消は働く女性、母親が鍵になる」。1月5日の知事査定後の報道陣への取材で小池知事は高齢者対策や受動喫煙防止対策など全体の説明に約17分間費やしたうち、待機児童対策に8分近くを割いた。同対策費は前年度比195億円増の1576億円で、過去最高額を更新する査定結果となり、待機児童解消に向けた知事の意欲がうかがえる。
 知事が「働く母親」をキーワードに掲げたのは、0歳、1歳の待機児童が都内で増加傾向にあるからだ。母親が保育所の入園を優先して復職するため、育児休暇を早期に切り上げるケースもあり、知事は「無理をしてでも0歳児クラスに入ろうとするので、母体にとってもリスクになる」と懸念を示した。その上で、「1歳児まで安心して育休が取れる施策が必要」と判断し、1歳児保育を増やす「緊急1歳児受け入れ事業」(8億円)と「ベビーシッター利用支援事業」(50億円)を新たに始める。
 小池知事の就任当初からアクセル全開で取り組む待機児童対策では、保育所整備、保育士の確保支援などに取り組んでいるが、1歳児に着目したのは初めて。区市町村レベルで同様の取り組みは練馬区などで実施しているが、都道府県では「聞いたことがない」(福祉保健局)と明かす。これら2事業は母体保護という女性知事ならではの視点に加え、施設整備により保育の潜在的需要が掘り起こされる中、待機児童対策の新機軸と言えそうだ。
 緊急1歳児受け入れ事業は、開設後3年以内の認可保育所を対象に、1歳児を緊急的に受け入れた場合、運営費などを補助する仕組み。開設当初の保育所では、3歳児以上の定員割れが生じやすい傾向にあり、その空きスペースの活用、保育士の確保などにより、暫定的に1歳児の定員増が可能となる。都福祉保健局は「区部には土地が少ない中で、無駄なくスペースを使っていく発想から生まれた」と説明する。
 一方、ベビーシッター利用支援事業は、1年間の育休取得後に復職した保護者などを対象に月額32万円かかるとされるベビーシッター利用料のうち、28万円を上限に補助する。利用者負担の4万円は、認可保育所の平均保育料と同一だ。
 こうした手厚い支援に区からは歓迎の声が上がるが、事業の執行にはベビーシッターの確保などが課題となる。都のベビーシッター利用支援事業を活用する予定の区の課長は「シッターの争奪戦が起きており、どの程度確保できるのか分からない」と顔を曇らせた。シッターは、都が研修を実施して育成し、質と量の充実を図る考え。
 また、ベビーシッターの利用者数に関して、区担当者は「現時点では利用者の価値観の問題で読み切れない部分はある。保育所に預けたい保護者の方が多いと思う」と打ち明ける。
 だが、区部では土地を確保して保育所を整備する従来の手法に行き詰まり感もある中、ベビーシッターの活用は待機児童解消の切り札となる可能性も秘める。別の区の課長級は「(利用者が殺到した場合、選定の)公平性をどう担保できるか悩んでいる」と期待交じりに漏らした。
 緊急1歳児受け入れ事業とベビーシッター利用支援事業の利用者数はそれぞれ580人と1500人の計2080人を想定している。昨年4月時点の都内待機児童数は8586人で、1歳児は全体の半数以上の4498人に上る。単純に1歳児の保育サービス利用者数が2080人増え、母親が出産後から保育所を探す「保活」を先送りすれば、保育の必要な0歳児が入園しやすくなる。
 手厚い都の待機児童対策は、日銀の異次元金融緩和策「黒田バズーカ」ならぬ「小池バズーカ」と言えそうだが、解消に向けては受け皿確保の一方、民間企業の育休への理解促進も課題となる。中には企業側から、育休を切り上げて職場復帰を求められるケースもあり、産業労働局は仕事と育児の両立支援などを行った企業を対象に奨励金を引き続き支給する。待機児童解消の取り組みは、労働環境の整備などパッケージで効果を出せるかが問われる。
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