都政新報
 
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攻めと守りと~都2018年度予算案(4)/市町村総合交付金/「50億円」に広がる波紋


   年明け間もない1月12日午前、新宿の京王プラザホテル。公明党都本部の賀詞交歓会が盛大に催され、登壇した小池知事がこうあいさつした。「(都議会公明党から)市町村総合交付金を積み増してほしいという強い要望をいただいている。夕方にも皆様にお知らせできると思う。要望にしっかり応え、皆様方と手を取りながら(都政を)進めていきたい」
 同日夕方、小池知事は来年度予算案の知事査定後、報道陣に対し、同交付金が前年度比50億円増の550億円になったと報告。交付金総額、増加幅ともに過去最高を更新した。知事は「多摩の振興プランを後押しする意味で50億円積み増した」と強調。「各会派の要望に、中身的には十分適うものになったのではないか」と語った。
 昨年12月に都議会公明党が予算要望したのは100億円の増額。要求額の半額での決着となったが、同党の東村邦浩幹事長は来年度予算案が公表された先月26日に「多摩・島しょ地域のさらなる発展を考え、高く評価する」とコメントした。
 同交付金を巡っては、都議会他会派からも「増額を歓迎する」との評価が大勢を占めるが、一方で知事が交付金を政治利用したことに非難の声も高まる。
 昨年の総選挙で知事が希望の党を設立。公明は都政をないがしろにする知事を強烈に批判し、両者の関係はこじれた。そのため、関係修復の一手に今回の「予算回答」があったとの見方がもっぱらだ。自民都議の一人は「公明党へのご機嫌取りだ」と吐き捨てる。
 同交付金が創設されたのは2006年度。創設から3年間は、前年度比30億円~45億円増だったが、4年目以降は同10億円前後で推移してきた。こうした経緯での「50億円」という数字が、憶測や波紋を呼ぶ。
 他方で同交付金の制度面にも新たな動きがあった。都の政策との連動性を深めるために「政策連携枠」を新設し、50億円のうち20億円を振り分けた。都総務局は「具体的な制度設計はこれから」(市町村課)と説明するが、現在のところ少なくとも▽待機児童対策▽消防団活動▽電気自動車(EV)─の3施策を対象として、配分の条件とする見込みだ。
 「ひも付きの分、地元の評判は良くない」。政策連携枠に対し、多摩・島しょ選出都議の一部からはこうした声が漏れる。
 市町村総合交付金は、財政力や行財政改革の状況、公共施設整備などをもとに需要を算定し、市町村の一般財源として使途は原則限定しない仕組み。そのため施策の限定は財源の自由度を狭めることにつながる。
 ただ、都にも思惑がある。財務局によると、待機児童対策については、都が昨年に新設した民有地を保育所整備に活用した際の資産課税減免措置への利用を想定している。減免対象の固定資産税と都市計画税は市町村税のため、一方的な都の判断に市長会が反発。同交付金の中で別枠として財政支援するよう要請しており、都が応じた格好だ。また、消防団については、東京消防庁の財政支援が厚い23区に対する「多摩格差是正」の意味合いがある。
 一方、EVには疑問の声も上がる。「ゼロエミッション」を掲げる都がEVを環境施策の柱とする反面、市町村での取り組みはまばらだ。現況との取り組み実態の差に、ある市の財政担当者は「EVに力点を置く自治体は限定的だ」と疑義を呈する。
 障害者医療費や子供食堂運営費、LINEを活用した自殺相談への支援など、与野党問わず各会派に目配りした来年度都予算案。しかし、政治力学が作用するため予算の減額が困難な同交付金の大幅増額は、中長期的に都の懐を締め付ける要因となる。さらには、都の財源に照準を合わせる国が、「都はまだ財源に余裕があるのか」と解釈する恐れも否定できない。
 市町村は23区に比べて財政力が弱く、同交付金を毎年増額する背景には「多摩格差是正」という視点もある。様々な思惑の結節点としての市町村総合交付金。財務局の幹部職員は来年度以降を見据え、こう述べた。「国の動向や23区との財政力の差などを考慮し、今後もバランスを見極めていく」
 

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