都政新報
 
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攻めと守りと~都2018年度予算案(2)/基金活用/五輪後も「体力」温存


   「(有楽町線延伸の)経済効果、費用などについてもいろんな知見を重ね、これから何ができるのか改めて精査していきたい」。昨年12月、小池知事が江東区の山崎孝明区長を訪問した後、報道陣の取材に延伸に前向きとも取れる発言をした。
 今年度の最終補正予算案に盛り込まれたのが、鉄道の新線や延伸に特化した「鉄道新線建設等準備基金」だ。インフラ整備などに充てる社会資本等整備基金から切り分けて創設し、国の交通政策審議会が2016年4月に事業化へ向けて検討すべきとした多摩都市モノレール、地下鉄8号線(有楽町線)など6路線の新線や延伸事業などに活用する財源だ。
 都都市整備局は「来年度から事業者など関係者と6路線の検討を深めていくに当たり、財源の裏打ちが必要。財務局との話し合いの中で鉄道新線などの基金を独立させることを決めた」と経緯を述べる。
 財源は、東京メトロ株の配当金を積み上げてきた約620億円を充てるが、今後の検討状況に応じて配当金以外も充当する考え。ただ、基金は創設するものの、現時点で使い道や取り崩す時期などは未定だ。財務局は「6路線で優先的に整備すべき路線が決まっていない段階で、どの路線に基金を充てるかは言えない」と説明する。
 だが、都庁内では「有楽町線の延伸が優先されるのではないか」とささやかれている。江東区が豊洲新市場の受け入れ条件の一つに掲げた路線であるからだ。
 都職員の一人は「江東区や区議会の協力を得ながら円滑な豊洲移転を進めるには、(有楽町線の)優先度は必然的に高くなるだろう」と分析する。
 一方で、来年度予算案での一般会計の基金の取り崩し額は、「三つのシティ」の政策や東京五輪関連など前年度比560億円増の3954億円に上り、積極活用した点がポイントと言える。五輪の準備が本格化するのに伴い、取り崩し額が増えた。
 基金の積極活用は、五輪経費などの負担を将来世代に残さない考えの一方、国や地方など対外的に基金が大幅に減ったことを今まで以上に打ち出すことで「東京富裕論」を牽制(けんせい)する意味合いもうかがえる。
 都の予算案発表前に示された18年度税制改正大綱では、「地方交付税の不交付団体では、財源超過額が拡大し、基金残高も大きく増加している」と暗に都を名指しした上で、19年度税制改正に向けて地方法人課税の見直しの検討に触れている。
 基金の積極活用という攻めは、東京狙い撃ちをかわそうとする守りとなるのか。自民党や公明党の国会議員への働きかけも必要になるが、都の財源収奪に強い危機感を抱く都議会公明党幹部は「(地方出身の国会議員が多い中)都が基金を取り崩した結果、こんなにお金があるのかと短絡的に見る議員もいるかもしれない」と顔を曇らせ、積極的な基金活用が裏目に出かねないとの懸念を示した。
 一方、都は来年度にとどまらず、20年度の予算編成まで基金の積極活用を行う考え。16~20年度の5年間で基金を1兆4335億円取り崩し、20年度末の残高は1兆5340億円の見通しだ。
 20年度までの基金活用の見通しは、裏を返せば、都が対外的に五輪、防災など膨大な財政需要があることを示した形だ。実行プランの取り組みや五輪に集中的に取り崩しているが、同プランの取り組みが主に終了する20年度以降の対応として、引き続き、事業評価による更なる財源確保、基金の3千億円積み増しを行う方針。
 ただ、基金を活用しすぎると、五輪後に不況に陥った場合、財源確保が困難になりかねない。都財務局は「オリパラ後も都民福祉に影響が出ないように体力は蓄えており、安定的な財政運営が可能だ」と話すが、今後も基金を活用する「メリ」と積み上げる「ハリ」とのバランスが求められることは間違いない。
 

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