都政新報
 
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攻めと守りと~都2018年度予算案(1)/事業評価/好調時こそ財源捻出


   2年ぶりに一般会計が7兆円超となった都の来年度予算案。堅調な景気動向を受け、都税収入は今年度を上回る見込みだが、一方で都の財政体質は国の標的になり、2019年度税制改正では法人課税の見直しが既に予告され、財源が奪われるのは避けられない状況だ。都はこうした事態に、基金の活用方針や、社会保障費など大都市特有の財政需要を予算案で強く押し出し、都財政の実情を広く訴えかける戦略を示す。都財政は好調だが、予算案をひも解くと「攻めと守り」の両面がにじみ出ている。

 財源確保額は870億円、対象事業件数は1086件─。都が来年度予算案の編成に際し、事業評価による見直しで捻出した財源額だ。いずれも過去最高の数値で、都の全5千事業のうち、676事業を見直した。
 都はこれまでも予算編成の際に、事後検証や管理団体への支出などの事業評価を実施してきたが、過去最高の財源確保額につながったのは、前回の予算編成時に全事業に終期を設定したことが大きい。都の約5千ある事務事業全てに終期を設定し、5年に1度は全事業の評価を実施するとしている。
 来年度予算編成では、今年度で終期を迎える事業を中心に見直しを行い、事後検証によって評価した事業数は、対象事業の約55%に当たる594件に上った。
 財務局は「社会情勢の変化によって、見直すべきは見直す必要がある。財政の硬直化を防ぐためにも地道なチェックは重要」(事業評価担当)と意義を語る。
 また、今回の予算編成で新たに導入した手法が、客観的指標に基づく評価だ。先行事例や類似事例の事業経費や単価などを明示。時系列的な事業評価に加え、「横の比較」を導入することで、事業の妥当性やコスト意識を厳格化した。新規事業を含め、多面的な検証を強化した。
 例えば主税局の老朽化した大田都税事務所の改築では、他県の合同庁舎との比較や、財務諸表を用いた資産分析などを定量的に示した上で、近隣の区立施設と合築する方針を打ち出した。同局は「計画段階での(定量的な)証明が求められる。他県と比べコスト面で遜色ないと分かった」(経理課)と話す。同事務所は来年度に基本設計に着手し、23年度の竣工を目指す。
 事業評価は財源確保や定期的な見直しだけが目的ではない。同局は「事業評価を行うことでノウハウが蓄積する」(同)と言い、財政危機を未然に防ぐ効果も挙げる。事業を見直す機会をあらかじめ設定することで、財政の硬直化を回避できると強調する。
 他方で、事業評価には「屋上屋を架すことになる」との批判が根強い。各局は通常の予算編成過程で既に事業ごとに精査・検証を図っているからだ。
 事業局幹部の一人は「一般的な予算編成や決算サイクルでチェック済みとの印象が強い」と述べ、「評価の対象になれば、事務負担まで増える」と強調する。事業評価では、事業の成果や課題、歳出額の状況などを記載する一覧表の提出が義務付けられ、併せて補足資料も求められる。
 終期設定や客観的指標にも、事業局の経理担当者は「予算編成時に事業のエビデンス(根拠)を提示するのは当然。終期を設定しようがしまいが、あまり変わらない」と疑義を呈する。
 ただ、こうした意見に対し、財務局は事業評価の考えが根付いていることの裏返しとの立場だ。事業評価は元々、政策企画局の前身の知事本局で所管していたが、予算に直結できない欠陥を抱えていた。こうした中、財務局に所管が移ったのが06年度。10年以上が経過し、予算との連動が定着してきた側面は否定できない。さらに、庁内では「予算編成時の暗黙知が見える化された」(事業局幹部)との声もある。
 東京五輪後、襲来する恐れのある景気低迷にどう備えるか。これは法人税収の影響を色濃く受ける都財政の宿命だ。官房局のある幹部は、「『まだやるの』と言われるくらいのしつこさが事業評価には大切だ」と強調した。財政状況が堅調の今だからこそ、事業評価を徹底し、危機感を保つことが求められる。
 

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