都政新報
 
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2年遅れの移転~築地から豊洲へ 山積する課題(6)/風評被害/愚直な発信が最大の近道


   「豊洲の風評被害がなくなるよう早期解決を願う」「風評被害に遭う区民がいる。都知事へ厳重に抗議してほしい」─。豊洲新市場の主要施設下に盛り土が未整備だった問題が発覚以降、地元江東区にはこうした区民の声が多数寄せられた。
 新市場の土壌汚染が大々的にメディアに報じられ、「豊洲」という地名が独り歩きした結果、市場部分の土壌だけでなく、豊洲地区全域が汚染されているとの誤解が全国に広がってしまった。北海道の親戚から、「汚染されているというが大丈夫か」と心配される豊洲住民までいたという。
 しかし時が過ぎ、風評被害の実態は見えにくくなった。江東区によると、最近は風評被害に関する区民の声は寄せられていない。市場移転日が決定し、市場問題や小池知事のメディア露出も減少した影響との見方が強い。ただ、区担当者は「今も不安な区民は多いはず」と冷静に分析する。
 都も同様の認識だ。「豊洲市場のイメージが当時で止まってしまっているのが最も恐い」と、都中央卸売市場の担当者は顔を曇らせる。
 都は昨年9月、臨時都議会で成立した補正予算に風評被害対策を盛り込んだ。都民・地元住民向け見学会や、イベントでのPRなどが柱で1億円を計上。26日発表の来年度予算案でも同規模を投じた。
 「実際に市場を見てもらうのが第一」。都担当者は話す。都は昨年6月以降、都民向け公募見学会を12回実施。並行して地元住民向け見学会も3回行うなど、都民への働き掛けを強める。見学者からは「実物を見て安心した」との感想が多い。都は来年度も見学会を随時開く予定だ。
 ただ、風評被害を受けたのは近隣住民だけでなく市場関係者も同様だ。
 「豊洲に移転したら出荷しない」「豊洲には買い出しに行かない」。土壌問題を受け、こうした生産者や買い出し人の声が市場関係者に寄せられた。水産仲卸業者で構成する東京魚市場卸協同組合(東卸)は「今のところ実害は出ていないが、移転後に影響が出ることを危惧している」と不安を抱える。
 食材の中間流通を担う都は、川上から川下までの対策が必須だ。そのためには、市場を見てもらうとともに、都自らが出張PRする取り組みも求められ、中央卸売市場は「産地のイベントや、卸売業者との商談会への出張も一案」(渉外調整担当)と述べる。
 土壌汚染に関する専門家会議の意見などを受け、都は対策工事の真っただ中にある。環境基準値を超える地下水汚染の影響を食い止め、地上部は科学的に安全であることをどう広く周知するかはまだ途上だ。
 だが一方で、追加対策工事に加え、小池知事が農林水産相の移転認可後に何らかの形で安全宣言を行う意向を示したことに、地元住民や関係者は肯定的な受け止めを示す。地元商店で構成する豊洲商友会協同組合の渡辺哲三理事長は「都の対応が重なり、風評被害は収まってきた」と語る。
 風評は事実が曲解され、誤った印象が流布することで広がる厄介な問題だ。そのため、追加工事の成果や地下水の汚染状況など科学的な根拠を愚直に発信し続けるとともに、新市場の魅力を都民や関係者に届かせる他に近道はない。その先に風評払拭と(ふっしょく )信頼回復があるはずだ。   =おわり
 

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