都政新報
 
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宙に浮く移転~豊洲市場の開場延期(6)/補償の行方/廃業回避の支援策も

 
   「この夏は何とか乗り切ることができた」。築地東京青果物商業協同組合の泉未紀夫理事長は、そう胸をなでおろした。築地市場の青果仲卸売場の空調が耐用年数をすでに2~3年超えており、今夏は奇跡的に壊れなかったと受け止める。
 業者らは今年11月の市場移転を受け、空調を始めとした設備の更新を見送ってきた。豊洲市場の開場延期に伴い、空調のメンテナンス業者は来年夏まで使用し続けるのは極めて厳しいとの見方を示しているという。
 空調は早ければ、4月の気温が高い日から動かしている。築地市場の移転時期が来年5月以降にずれ込むと不安は現実のものとなり、死活問題に直結する。
 空調は、都ではなく、仲卸の業界団体の所有物であり、各業者が投資している。更新費は何億円にも上り、移転延期が決まったとはいえ、築地市場の老朽化した設備に多額の投資を行うのは現実的ではない。
 また、私有財産である設備に、都が税金を投入するのも難しい状況だ。築地市場青果連合事業協会の田中英雄専務理事は「空調がダウンすれば野菜は腐り、廃業する業者が出てくるかもしれない。これは誰の責任になるのか」と怒りをあらわにし、空調機能を維持するよう都に求めている。本紙の取材に対し、松田健次築地市場長は「業者から移転に伴う影響を吸い上げた上で、都として適切な対応を検討したい」と答えた。
■基準作り
 市場の移転延期は現場で綱渡りを強いられている。築地市場青果連合事業協会は、都から借りている冷蔵庫の温度管理や監視などを行う人材確保が課題となった。移転で現在の従業員4人は全員退職する予定だったが、移転延期で冷蔵庫の管理業務が引き続き必要となり、同協会は3人を慰留、8月に辞めた職員が急きょ復帰することが決まった。同協会の田中専務理事は「今回は偶然、人員が確保できた。豊洲新市場に移転後、業務拡大で人を雇用した業者は当然、首を切ることはできない。反対に移転後に事業縮小で人を減らす業者は雇い直さないといけない。補償金として計算できない影響はどうするのか」と問題提起した。
 仲卸・卸業者らで構成する築地市場協会は、豊洲新市場内に固定電話や携帯電話など通信機器を接続するLANを設置したが、11月からは移転延期で業者から使用料を徴収できない事態となる。LANを設置するため、都が利子を払う支援スキームを活用し、金融機関から30億円の融資を受けたが、今年12月から返済が始まる予定だった。
 これに関しては、市場協会の伊藤裕康会長に4日、都から返済の新たな支援策が提示された。返済時期は1年間遅らせるといった措置を講じ、市場協会の返済は来年12月に猶予される。協会は都の提案を受け入れる考えだ。
 一方、豊洲新市場で冷蔵庫などリース契約を締結した業者もある。市場協会は、移転延期に伴う青果の一部と水産の業者が被る影響額は3カ月間で何十億円に上ると試算。協会の幹部は13日に都への補償請求に向けた方針を議論する予定だ。
 また、豊洲新市場で水道管がさびないよう定期的に水道水を出す維持管理などは誰が行い、仮に業者が実施する場合、誰が交通費を負担するのかといった細かい課題が山積している。泉理事長は「都の瑕(か)疵(し)で起こった事案だから、都が顛末(てんまつ)を考えないといけない」と指摘した。
 

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