都政新報
 
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成果と焦りと~舛添知事就任から1年(3)/停滞ムード払拭できるか/協調路線

 
   昨年4月24日、舛添知事が出張先の北京に到着すると、携帯電話を手に取った。相手は都議会自民党の幹部。「到着しました」との連絡だ。帰国後も同じように電話を入れており、周囲もそのマメさに苦笑する。
■都議会への配慮
 定例記者会見では「都議会、特に自民党と公明党、与党の皆さん方とは一緒に食事をしたり、しょっちゅう会う機会がある」と発言。猪瀬前知事が自民党との関係を悪化させ、都政が停滞したのとは対照的に、コミュニケーションという意味では十分すぎるほどの配慮を見せている。「どの政党が自分にとって与党とか野党という意識を持ったことはない」と公言した石原元知事とも一線を画している。
 「五輪招致の時点で作成した会場計画が、都民の理解を得て実現できるよう、知事として改めて自らの視点で内容を再検討していく」
 舛添知事は昨年6月、都議会第2回定例会の所信表明の最後にこう発言し、五輪競技会場の見直しに臨む考えを初めて明らかにした。
 発言の原稿は急きょ、ペラ1枚が開会直前に差し込まれる形となったが、落ち着き払う議場の自民、公明両党。むしろ議会主導で見直しに着手したと言われ、知事も歩調を合わせている。
 長期ビジョンや15年度予算案にも都議会からの批判はほとんど見当たらない。与党の要求を相当、のみ込んだと見られている。
 ただ、「二元代表制」という視点では、舛添知事の問題意識は強い。昨年、就任半年の本紙インタビューでは「みんなが議会を頼り、議会が指揮命令を下すいびつな形になっている」と指摘。長期ビジョン中間報告発表前の局長を集めた会議では、自民党にばかりおもねる必要はないという趣旨で発言しており、「制度的には大統領制なのに、実際には国政以上に議院内閣制だ」という認識がある。
 知事発言について、局長級幹部の一人は「二元代表制では議会の反対があってもやるということ」と解説した上で、「多くの局長は真に受けていないだろうが」と話す。
 一方の自民党。都市外交の優先順位や中国漁船のサンゴ密漁の対応を巡って批判を強めたが、都幹部の一人は「ジャブ程度の苦言。本気で舛添さんをどうにかしようとは思っていない」と見る。別の幹部も「自民党も全員が批判的なわけではない。そもそも知事と議会は常に『力比べ』をする関係でもある。間に立つ職員は大変だが」と冷静な受け止めだ。
■国と手を携えて
 国との関係でも、協調する姿勢は変わらない。
 石原元知事は「東京から国を変える」と宣言し、「国は鈍くて遅い」と批判。法人事業税の一部国税化を受けて、「福田(康夫)バカ内閣の時に、バカ財務省が」と罵倒した。猪瀬前知事は東京電力や東京メトロをたたくパフォーマンスを重ねた。
 他方、舛添知事は年明け、官邸に安倍首相を訪ね、わざわざ長期ビジョンや予算案を説明。「国と手を携えて」と呼び掛けている。「官邸側は相手にしていない」との見方が支配的だが、あえて国を敵に仕立てて、対立を演出することはない。
■傍観者的態度
 幅広いステークホルダーの顔をうかがい、配慮を見せる都政は、今のところ不毛な対立を招かず、一見、順風に見える。半面、都庁官僚からは「知事の描く方向がボヤッとしか分からない。霧の中にいる感じ」と戸惑いも付いて回る。
 石原都政は後半、知事側近の介入や新銀行東京、尖閣諸島など惨憺たる出来だったが、1期目の評価は高かった。財政再建に取り組み、ディーゼル車排ガス規制や認証保育所の創設といった新たなプランも練り上げられた。
 都幹部は「当時の部課長級には『国に対してものを言ってやろう』という気概が芽生えつつあった」と振り返り、「石原さんがやったように、政治力で突破すべき場面で、舛添さんがどこまでやってくれるのか」と漏らす。
 無論、官僚のモチベーションが低下した背景には、石原都政以降の弊害もある。「側近政治」で、明らかに職員の間に停滞ムードが漂った。都庁内には「石原・猪瀬時代に加速した都議会への依存体質は、後遺症として残ったまま」「各局で仕事を押し付け合う、霞が関とは逆方向の縄張り争いは依然ある」との指摘がある。
 舛添知事は新年のあいさつで、遅滞する五輪準備に触れながら、「自分の局の仕事ではないという傍観者的態度は絶対に許されない」と厳しく戒めた。「組織の壁を越え、オール東京都の力を発揮してほしい」。五輪も含め、不安は多いという。
 舛添都政は2年目に入り、東京五輪まではわずか5年。人口減少社会の到来も目前に迫る。「知事だけでなく、問われるべきは知事を支える職員側の政策立案能力だ」との声も強い。組織の体質を改善できるか、都庁全体で壁を越える突破力が求められている。
       =おわり
 

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