都政新報
 
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脱・お役所仕事へ~公共サービス研究会の青写真(下)/官民の役割、再考の契機に

 
   「日本公共サービス研究会」では、国民健康保険や戸籍、会計・出納など、これまで委託が難しかった「専門定型業務」をいかに委託できるかを検討している。その「プレーヤー」として、同研究会は民間の人材派遣会社などとの連携も想定する。
 極端に言えば、全国にある約1700余の自治体が全て、市場になる可能性を秘めている。同研究会の事務局を務める足立区の定野司総務部長は「市場が広がればコスト削減が見込めるだけでなく、スキルの標準化や移転をスピードアップできる」と期待する。
 派遣会社の中には、特別区で12年間、出張所の窓口事務や受付、納税課の申告受付を担当した人材や、地方都市で15年間、年金・戸籍事務を担当した主事・主任クラスの人材を抱えている例もある。
 一方、これまでの行革と一線を画しているのが、雇用政策の視点だ。
 現行の議会や図書館の受付・案内業務などの外部化を見ると、「官製ワーキングプア」と指摘されるケースも少なくない。日本公共サービス研究会は、業務の受け皿となるプラットフォームで若年者を正規職員として採用することも視野に入れている。
技能を可視化
 このスキームを構築する上でポイントになる
のが、「専門定型業務」のスキル(技能)をどう維持するかだ。同研究会は業務スキルを可視化
するため、検定制度を創設することも検討して
いる。具体的には、「戸籍業務1級」「国保業務2級」のようなアイデアだ。
 例えば、金融機関では行員の能力を可視化するため、財務・税務・法務など22系統・35種目に及ぶ検定項目を設定。一般社団法人などが試験を実施している。
 ハローワークには1千種類以上の登録資格があるのに対し、自治体の「専門定型業務」に対応する資格は存在しない。
 どの程度のボリュームの仕事を何年間委託すれば、資格取得に必要な教育コストが回収できるのか─。具体的な制度設計はこれからだが、同研究会では関連事業者に運営経費などの試算を求めている状況だ。
 実際に外部化を進めるとなると、当初は公務員を派遣し、教育・研修体系を整備する必要があるため、当初はそれほどの経費削減効果が見込めないが、業務の担い手が増えることで競争原理が働く可能性がある。
 また、複数の人材派遣会社や法制度に対する理解が深いシステム開発事業者などが組むことで、「専門定型業務」を請け負う子会社を作ることも考えられる。
 「例えば、会計管理者の業務は金融機関に委託し、行政はマネジメントを行う役割分担が出来ないだろうか」。こうイメージを語るのは、同研究会に参画する国分寺市の内藤達也政策部長。
 「(民間委託は)電話交換や公用車の運転から図書館の運営や学校給食まで来たが、行政が当たり前のようにやっている事務も、本当はもっと開放できるのでは。民間に丸投げということではなく、どうマネジメントし、一緒にやれないかということ」と説明する。
行政の補完機能
 自治体業務の外部化を巡っては、06年に「公共サービス改革法」(市場化テスト法)が成立。官民が対等な立場で競争入札に参加し、質・価格両面で優れた者がサービス提供を担う仕組みが作られた。
 これを受け、足立区は区民事務所の全21業務の民間委託を試みたが、当時の国の見解に沿って一部の事務を抽出しても思うように人員削減が出来ず、「分割損」が発生。「偽装請負」に至る恐れも出たため、中止することになった。その意味
で、同研究会の発足は「外部化の再出発」とも言える。
 これまで公務員が「独占」してきた領域にメスを入れようというのだから当然、組合側には抵抗感もある。一方で、低廉な労働力に依存した「従来型の行革」のひずみが随所に表れているのも事実だ。
 今後、生産年齢人口が減少し、生活保護受給者数が増える中、いかに税金を使わずに住民サービスを提供していくのか。同研究会の議論は、改めて官民の役割を問い直している。
 

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