都政新報
 
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都議選 ゲームチェンジャー 第2部~激戦区を行く(2)/身内同士の暗闘/狭き門、友党にも影響


  3月末、目黒区民センター。例年なら自民党目黒区総支部の大会が行われる時期だが、コロナ禍とあって規模を縮小した総務会が開かれた。議題の一つは、今夏の都議選。候補を一本化した経緯が説明されたほか、併催された決起大会では公認が決定した元職の鈴木隆道(70)が女性部からタスキを贈呈され、必勝を誓った。
 しかし、これで落着とはならなかった。党都連は4月に入り、栗山芳士(51)を2人目の追加候補として発表したのだ。
 同区は定数3。自民に追い風が吹いた2013年に自公で独占したものの、前回は都民ファ躍進のあおりで議席を失い、本来なら手堅く1議席を取りにいくのがセオリーだ。しかし党都連の決定は2人。区議の一人は「安全パイで1人を立て、公明にも勝ってもらえればよかったが、厳しくなった。全員が横一線だ」と焦りを隠さない。
 同支部は昨秋、予備選で「唯一の公認候補」を鈴木に決めていた。このプロセスは栗山も了承していたという。
 区議団10人のうち、7人は鈴木の支援に回り、本人も「2人と決まった以上は正々堂々と戦う」と言うものの、同陣営の区議は「前回の落選者の不満を払拭(ふっしょく)するために人数を制限しなかったのだろうが、落としても仕方がない選挙だ」と不満を隠さない。
 同区からはこの自民の元職2人のほか、都民ファの伊藤悠(44)と公明の齋藤泰宏(58)、共産の星見定子(63)と現職3人が出馬する予定。さらに立民と維新の新人も立候補する見通しで、定数3を主要政党の7人が争う最激戦区の一つだ。
 自民が2人を立てた余波は、公明の齋藤にも及んでいる。公明は本来、手堅い選挙に定評があり、事前に「危ない」と言っていても最終的には上位当選するケースが多い。ただ、同区で自民2人が競り合うことで、公明の支持者らが友人に投票を呼び掛ける「フレンド票」の掘り起こしが難しくなるからだ。齋藤は「3期の実績をアピールしながらどこまで保守層に食い込めるかだ」と話す。
 自民が身内同士で暗闘を展開する一方、都民ファの伊藤と立民の西崎翔(37)の立ち位置も微妙に重なる。二人は立民都連の手塚仁雄幹事長の秘書出身という「同門」の間柄。ともに連合東京が支援する候補だ。立民が全力で臨めば共産との競合は避けられず、同区の「野党共闘」に支障を来す可能性もある。
 このほか、維新は衆院選も見越して党勢拡大を図っており、元北海道議の鳥越良孝(64)が出馬するとみられている。
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 定数3で自民2人が競り合う構図は、墨田区も同じだ。
 大型連休明け、都心部のスタジオで、自民の川松真一朗(40)が缶ビールを片手にパソコンと向き合っていた。自身の動画配信チャンネルで企画した「オンライン飲み会」の一コマで、約1時間の「酒宴」には都内外の15人が出席。話題は都の緊急事態措置から墨田区のコロナ対策など多岐に及んだ。
 「緊急事態措置で影響を受ける酒屋を支援したい」と川松。動画の視聴者は区民だけではないが、「自分は空中戦だから。選挙が近くなって候補者を検索した時、判断材料にしてほしい」と話す。
 同区では前回、自民は川松と都議2期の櫻井浩之(55)の2人を公認した。櫻井は都議を8期務めた父・武から地盤を引き継ぎ、当選が有力視されていたが、ふたを開ければ103票差で競り負けた。
 櫻井は当時、豊洲市場の地下空洞問題を調査する百条委員会委員長を務め、武は「前回は『落ちるはずがない』という油断があった。大して選挙に強くもないのに委員長をやったことも敗因だ」と分析する。
 櫻井は今回、地盤とする区南部を中心に支援者らを回るほか、宣伝カーには武が同乗してポスターをくまなく張り出し、地道な「地上戦」で挽回(ばんかい)を図る。それでも、コロナ禍で決起大会は2回延期に。従来型の集会で支援を呼び掛けられないもどかしさもにじむ。
 同区では自民2人のほか、都民ファの成清梨沙子(31)と公明の加藤雅之(56)が立候補を表明し、それぞれの支持の拡大に躍起だ。また、共産が新人の伊藤大気(42)を公認し、立民との協調で票の上積みを図りたい考えを示す。さらに国民民主は旧民主で幹事長を務めた大澤昇(56)を公認した。
 前回、多数の落選者を出した自民。元職らは口々に「油断していた」と反省を込め、地元活動で巻き返しを図る。ただ、3人区で同一会派が2人を公認というのは、誰が見ても「狭き門」だ。自民に今、追い風は吹いていない(文中敬称略)。
 

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