都政新報
 
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2021都議選 ゲームチェンジャー 第1部・新旧交代の帰趨(4)/第3党の存在感/政策要望で都側押し切り


  都の「出産応援」事業は、2021年度予算の目玉の一つだ。子育て世帯を経済的に支援するため、子ども一人当たり10万円の子育てサービスや育児用品を提供する内容で、昨年末に都民ファーストの会と公明党が要望し、知事査定を経て盛り込まれた。
 ただ、それでは終わらなかった。当初案では4月1日以降に生まれた子どもを持つ家庭を対象としていたが、公明は更に申し入れを行い、「同時補正」では対象を1月1日以降に拡大した。
 補正で組んだ最大30%のプレミアム(割増)付きの商品券も、議会側が求めたものだ。1万円の商品券で1万3千円分の買い物ができる内容で、コロナ禍で影響を受けた地域経済の活性化につなげるのが狙い。
 元々のコンセプトはデジタルを活用し、区市町村によるキャッシュレスによるポイント還元などを支援するものだったが、同党が1定で「都民にはデジタルを活用できない方もいる」として紙の商品券を発行するよう提案すると、小池知事は条件付きながらデジタルと紙の併用を認めた。
 私学授業料の実質無償化も、小池知事が同党の求めに応じたものだ。都は昨年4月、「年収約760万円未満」から「年収約910万円未満」まで拡大。多摩地域の関心が強い市町村総合交付金も増額している。 
 通底するのは、小池知事が「いい顔」をし、都側が押し切られている点だ。今年度予算で盛った肺炎球菌ワクチンの接種支援のように、同党が一部、不満を示す内容もあるが、多くは「満額回答」。同党は過去、自民の「弟分」を自認していたが、今期については他党から「我が世の春だろう。以前に戻りたくないのではないか」との声も漏れる。 同党は今、新たに「3つの無償化」を目指している。第2子の保育料と高3までの医療費、そして肺炎球菌ワクチン接種費用だ。ただ、財政環境も悪化しており、都幹部の表情は「いくら応えても求められる。歯止めが効かなくなっている」と険しい。
■復 縁
 公明は前回の選挙で、自民党ではなく都民ファを支援し、前半は「知事与党」としての立場を鮮明にした。小池知事が17年に「希望の党」を立ち上げて国政進出を狙ってからはやや距離を置いたが、与党的なポジションはキープし、影響力は衰えていない。
 過去の都政を振り返っても、同党のスタンスは一貫している。「(革新の)美濃部都政の時、公明党はどうしたんですか」─党幹部が重鎮・藤井富雄元都議に尋ねたことがある。当初は社会党と共産党が支える体制だったが、途中から共産が知事側から離れると、公明が一定の距離を保ちながらも「知事与党」に加わった。藤井氏は「都政が混乱すると都民が不幸になる」と説明したという。
 この幹部は「都政を混乱させてはいけないというのが一番大きな命題。その上で、都民の声をどう実現させるかだ」と強調する。
 知事との関係を維持する一方、都議選に向けては、都民ファと離別し、自民と「復縁」する道を選んだ。国政で自公連立政権を組む中、党としては都議会での「ねじれ」が好ましくないとの判断があった。
 具体的な調整には時間を要し、昨秋来、会合がキャンセルされる場面もあった。課題の一つが、衆院東京12区(北区など)での選挙協力だ。太田昭宏元代表が引退し、岡本光成衆院議員が国替えする予定だが、「(岡本氏は)浸透していないのが目下の悩み」(公明党関係者)。同選挙区は自民党の高木啓衆院議員(比例)の地元でもあり、公明側には「協力に向けた課題を解消しなければ政策協議に進めない」との認識もあった。
 それでも、同選挙区での協力に道筋をつけるとともに、並行して都議会レベルでは幹事長同士が会談を重ねて距離を縮めていった。公明などが都議会1定で出した「こども条例」に都民ファなどが修正を加えると、都民ファとの対立は決定的に。公明の東村邦浩幹事長は3月の記者会見で、都民ファを「会派のガバナンスが取れない。誰と交渉すれば話を前に持っていけるかが4年間難しかった」と評した。
 現在、都議会の構成は、都民ファ単独でも自公でも過半数を取れない状況で、改選後も同じような局面が想定されている。個人レベルではたもとを分かった当時のわだかまりを抱えたままの議員もいる中で、今回の「復縁」が「都政の混乱」を回避する手段となるのか否か、都幹部らはその行方を注視している。
 

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