都政新報
 
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東京の未来像~有識者に聞く都の長期戦略(4)/経済/成長至上主義から脱却せよ/みずほ総合研究所主任エコノミスト宮嶋貴之氏


  
 ─長期戦略ビジョン論点整理の印象は。
 2040年代の東京の都市像や都民生活のイメージが見えづらい印象だ。課題を列挙した上で、伸ばしたい強み、改善したい弱みが様々に挙げられているが、優先順位が付けられていない上に、相反する効果が見込まれるものも含まれており、長期戦略ビジョンという印象を持ちにくい。例えば、人手不足と生産性の問題だが、40年代を見据えれば、ロボットが普及して人手が必要ではなくなる職業も一部に出てくる可能性があるわけで、個々の問題としてだけではなく、もっと体系的に議論する必要がある。
 ─将来像を明確に示す際に留意する点は。
 論点整理の部分では、相対論と絶対論を混同している印象を受けた。例えば、経済成長率を高めることを最優先するのか、持続可能性に重点をおくのかがはっきりしない。この二つはトレードオフの関係にある。例えば中国は経済成長率が高い一方で、環境に負荷をかけていることが問題化している。政策には効用とともに、副作用もある。それを可能な限り示したうえで、都民の声を聞くべきだろう。
 ─東京の経済発展に重要と考える観点は何でしょうか。
 成長よりも持続可能性だ。東京は国際的にも生活水準が高いので、成長率だけを追い求める段階にはない。成長至上主義は脱却すべきだ。環境負荷の低減や、都民の安全安心の確保などを通じて、住民の幸福度を上げることが重要だ。東京の成長に向けて、都は論点整理でユニコーン企業の誘致や高度人材の呼び込みなどを盛り込んでいる。実現に向けて重要なのは、高度人材に限らず、東京都で働く人々が生き生きと社会に参画し、しっかり所得を得て、日々の生活に充実感を感じられるように、制度や働き方などの慣習を変えていくことだ。そうすれば、結果的には国内外からの企業や人材を招くことにつながる。
 ─東京が直面する経済課題をどう見ていますか。
 東京は経営者や観光客、居住者からの評価が高い一方、海外の専門人材からの評価は低い。その理由として考えられるのが働きにくさだ。外国人は銀行口座を開設するにも手続きに時間がかかり、家探しでも「外国人お断り」の物件があるなど生活上の不便を伴う。また、高齢者や子育て世代の女性にとって、時間に縛られる働き方は難しい。古い慣習を変え、働きたくても働くことができない人たちの社会参加を後押しするソフト面の改革が必要だ。
 ─世界最速のペースで進行する少子高齢化を乗り切るためには。
 40年代には75歳が約4割を占める人口構成になることを考えると、税収を確保するため、高齢者にも経済活動に従事してもらう必要がある。現役世代が社会福祉の支え手となっているが、持続性に欠ける。これからはあらゆる世代が担い手として参画し、自己実現を体現できる社会への転換が望まれる。そのためには制度や慣習も含めて社会がもう一段進化する必要がある。高齢者を公的支援で支えていくことはもちろん重要だが、将来的には相応の受益者負担を求めることも必要となろう。社会的な責任を求めることは、社会に参画しているという自覚を育む。そうした発想の転換に率先して取り組むべきだ。
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