都政新報
 
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東京の未来像~有識者に聞く都の長期戦略(3)/防災都市機能誘導へ長期戦略を/東京大院准教授廣井悠氏


  
─首都直下地震や水害などの課題がクローズアップされています。
 一般に防災対策は短期的・長期的双方の対策が必要とされる。私が名古屋大学にいた頃は、地域や企業を巻き込んで南海トラフ巨大地震を対象とした30年先を見据えた議論をしていたが東京では長期的な議論の方は進んでいない印象を受けた。特に首都直下地震や大規模水害は対策が急務だ。
 ─どのような対策が求められますか。
 短期的には初期消火や避難、家具の固定、耐震補強、木密改善などが求められるが、長期的には過密・危険地域の居住を避ける対策が必要だ。公共交通や住環境、医療・介護などとの合わせ技で、地震にさらされる「曝(ばく)露(ろ)人口」を減らすため、都市機能誘導を行う必要がある。課題を企業などとも共有し、働き方なども含めた形で、官民連携で長期戦略を実行すべきだ。
 ─40年代の防災をどう見ますか。
 都市の災害対応力がますます下がるのではないかと悲観的に捉えている。今から30~40年前を考えると、市街地大火が発生したり、風水害で1千人単位の死者が出た。河川の整備や延焼遮断帯の形成、消防力の充実で中規模の災害はそれなりに抑えられる形になったとは言え、今後は少子高齢化に直面するので、防災の基本である自助・共助・公助のポテンシャルが著しく衰え、被害が深刻になる可能性がある。
 ─公助については。
 全国的には夕張市のような(財政破(は)綻(たん)の)自治体が増えるだろう。東京は大丈夫かも知れないが、それでも職員数が減少すれば、行政として災害を受け流す能力は縮小する。限りある税金を効率的に使う視点は大事だが、防災を考えると冗長性を持たせる工夫は重要だ。IT化を進める上でも、人を減らす方向にいってはいけない。
 ─首都直下地震のリスクをどう考えますか。
 首都圏は行政や経済、メディアなど、中枢管理機能が集中し、人口が密集しているので、何が起こるか予想がつかず、行政の対応が後手に回る恐れがある。
 対応力が減少する中、「曝露人口」の低減と並んで重要なのは、定性的な被害シナリオを網羅し、優先順位をつけておくことだ。私は災害の因果に関する膨大なデータベースを作成し、地震の場所や大きさ、被害のざっとした状況から、数日後に何が起こるかをAIで定性的に即時予測する研究に取り組んでいるが、長い間、東京では大規模な災害は起きておらず、これまでに起きていない意外な現象が発生するかもしれないと危惧している。大都市部は社会変化のスピードが速く、災害の教訓が積み重ならないことも対応を難しくさせる要因だ。
 ─防災を進める上で留意すべきポイントは。
 「防災だけ」にならないようにすることも重要だ。地域ぐるみで防災活動に取り組むなど、防災が疲弊したコミュニティーを再構築する道具にもなるのではないか。
 もう一つは、防災だけで考えると木密を不燃化することが是となってしまうが、谷根千のような住宅をなくすことは、文化的価値をなくすことにもなる。『進撃の巨人』のように塀で囲まれた街は、安全ではあるものの「住みたい」とはならない。最終的には防災を手段として、魅力的な都市づくりをどう進めるかを考えるべきだろう。
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