都政新報
 
 >  HOME  >  連載・特集
東京の未来像~有識者に聞く都の長期戦略(1)/貧困対策/生活向上なくして成長なし/首都大学東京子ども・若者貧困研究センター長 阿部彩氏


  都が2040年代を見据えて年末に策定予定の長期戦略ビジョン。今年8月に公表された論点整理では、「人が輝く東京」を目指すべき姿に挙げ、小池知事が就任以来掲げる「3つのシティ」や、長寿などの「7C」を推進させる方針を示す。少子高齢化や人口減少対策、環境、防災、働き方改革など都を取り巻く重要課題は山積している。東京の将来や2040年代のあるべき都市像について各分野の有識者からの提言を聞いた。

 ─「長期戦略ビジョン」の論点整理に対する第一印象は。
 貧困対策そのものが入っていない。都から16年に委託を受けて実施した調査では「十分な食事が摂れない」「電気代や家賃を払えない」という子育て世帯が東京でも少なからず存在することが分かっている。論点は全体として国際競争力の強化が前面に打ち出されており、都心区に勤めている都民を念頭に置いている印象が強く、周辺区や市町村などの交通不便地域に住んでいる都民や子育てしながら外出する機会が少ない都民などの姿が見えてこない。東京に住むすべての人の生活の質を上げるのが東京の第一の戦略であるべきだ。
 ─貧困対策に取り組む意義は何でしょうか。
 福祉政策は地方自治体が先行して国が続くもの。都は他の自治体に先駆けて児童育成手当の支給などに取り組んできたが、今は福祉政策のリーダーシップを発揮していないのがもどかしい。東京だからこそ、日本をリードする貧困対策を打ち出してほしい。
 ─論点整理では「居場所づくり」や「子ども食堂の支援」が挙げられています。
 もちろん居場所を増やすことも大事だが、家庭や学校がなぜ子どもたちが安心できる居場所になっていないのかを考えるのが先だ。居場所の一つとして無料の学習支援事業が注目されているが、公教育にてこんなにも大きな学力格差を作ってしまっていることも是正するべきだ。特に、高校中退の問題は貧困と近接しており、中退防止、すなわち、すべての子どもを包摂し、教育の機会均等を目指す視点も含めるべきだ。子ども食堂も市民活動としては素晴らしい取り組みだが、食の保障で言えば、給食がなくなる高校生以上の年齢層にも食の支援を手厚くすることが効果的。特に、定時制高校などでの給食の提供が不可欠だ。
 ─「相談機能の充実」も掲げています。
 相談しても支援策が用意されていなくては、相談機能が充実してもどうにもできない。明日の食費がない時に相談窓口で激励されてもどうしようもない。相談機能より支援メニューを増やすべきだと考えている。医療費や教育費、そして、生活費など、すべての都民が安心して暮らせるようなセーフティネットを張ってほしい。今は生活困窮に至るまでの支援が少なすぎる。多様なニーズを想定した医療や教育が必要だ。例えば、文京区がフードバンクなどの民間事業者とのコンソーシアムを結成して実施している「宅食プロジェクト」はLINE経由で手軽に申し込め、実際に支援物が届く。食の提供をきっかけに、生活支援にもつながる点で効果的だ。
 ─ほかに、長期戦略ビジョンに盛り込むべきと考える観点は。
 家賃の問題も取り組まなければならない。家賃が高い都においては、公営住宅の供給が難しいならば家賃補助制度を創設してほしい。欧米の先進諸国は住宅費補助を社会政策の大きな柱の一つとして打ち出している。成長する都市では地価が高騰し、地元の底辺層の住民が追い出されてしまう。東京が成長戦略を掲げるのであれば、長く都内に住んでいる人たちが過ごしやすい政策を同時に進めなくてはならず、家賃補助もその一つだ。
 

会社概要  会社沿革  事業内容  案内図  広告案内  個人情報保護方針