都政新報
 
 >  HOME  >  連載・特集
座談会特集/モバイルネットワークが導く/東京の未来の姿/次世代通信規格「5G]への期待と課題


     東京都は8月、世界最速のモバイルインターネット網の構築に向けた基本戦略「TOKYO Data Highway」を公表した。次世代通信規格「5G」で明るい未来への道のりを指し示す道しるべと位置付け、東京2020大会のレガシーとして高速モバイルインターネット網を構築するとしている。これによって東京はどのように変わるのか。東京都で5G戦略を指揮する宮坂学副知事と、専門家の立場から首都大学東京の清水敏久副学長、通信行政を所管する総務省の飯村由香理情報流通高度化推進室長に、高速通信がもたらす未来像や期待、課題などを語ってもらった(敬称略)。   =司会・編集部

 ─都は8月に「東京データハイウェイ」基本戦略を発表し、次世代通信規格の「5G」を民間企業などと連携して推進する考えを打ち出しました。まず、都が目指す「5G戦略」のイメージをお願いします。
 【宮坂】東京都は小池知事のリーダーシップの下で「ダイバーシティ、セーフ シティ、スマート シティ」という目指すべき方向がある。その実現をデジタルテクノロジー、いわゆるモバイルインターネットで加速するというのが大きな役割。東京データハイウェイ自体が単体で存在するというよりも、そのインフラの上で、「三つのシティ」を加速していくイメージで考えている。5Gは話題になるが、大事なことは全てのインフラや行政サービスをモバイルインターネットにつないでいくということ。なので構想も「5Gハイウェイ」とはせずに、包括的な名称にした。「セーフシティ・by・デジタルテクノロジー」みたいなイメージで、全てのサービスやインフラをデジタルテクノロジーを使ってより良くしていきたい。
 ─お二方はどう見ますか。
 【清水】私の専門分野は通信ネットワークではなく、電気・電子工学という非常に広いフィールドで、情報とエネルギー系をミックスして、いかに安全・安心な社会を作るかの観点から、通信に関する勉強もさせていただいている。電力と通信という全く別のインフラとして存在していたものが現在、完全に融合しようとしている。良い意味で夢を持っている一方、安全・安心という面も含めて、世界のエネルギー戦略も踏まえながら、それぞれのアイテムを最適化していくことが重要だと考えている。副知事がおっしゃったように5Gだけに偏った議論ではなく、トータルでどうしていくかという議論が極めて重要だ。
 【飯村】モバイルで可能性は無限に広がると感じている。通信速度も5Gになるまで、30年間で10万倍くらいの速度の進化がある。5Gは超高速・大容量のほか、超低遅延や多数同時接続といった特徴があり、その部分で社会の様々な課題を解決できる基盤となっていくことを期待している。東京都を始め、自治体が5Gを含め、モバイルインフラも活用し、公共サービスをより良いものにしていく流れは、生活により近い形で利便性が実現していくのではないか。

時間軸の長い取り組み
 ─具体的に5Gは国民・都民生活にどのような効果をもたらすのでしょうか。
 【宮坂】5Gはこれから始まるインフラですが、私はインターネットの仕事を始めた25年くらい前のことを思い出した。当時、私はインターネットという新しいインフラが世界中に行き渡ると思っていたが、世間ではそうではないという声が割と多かった。「こんなもの遅くて使い物にならない」とか言われていた。また、典型的な例が「みんなが百科事典をオンラインで見られるから便利になる」という説明。でも、実際にはウィキペディアになってしまった。30年前に世界中のアマチュアが無料で使える百科事典を作るとは誰も想像していなかった。つまり、ビジョンも大切なんですが、まずはインフラをしっかり作ること。すると次に新しいスタートアップとかチャレンジャーがどんどん出てきて、彼らがインフラを使い、新しい何かを生み出していく。インターネットのインフラがGAFAやシェアリングエコノミーというスタートアップをどんどん生み出した。都市全体が新しいモバイルインターネットに覆われた後に大事なことは、いかに世界中の新しいアイデアとガッツを持ったチャレンジャーやスタートアップ、大学の研究者などを呼び込めるかということ。もちろんイメージ的にはビデオ会議や自動運転の実現などがあるが、10年後に振り返ると、「当時はそんなことも言っていたな」といっているような変化になると楽しみにしている。
 【清水】私は1998年に北米のバージニア工科大学に短期滞在していたが、大学があるブラックスバーグという人口3万6千人くらいの小さな街に行って驚いたのは、既に当時、街全体がインターネットでつながっていたこと。93年のクリントン・ゴア政権の時に情報スーパーハイウェイ構想というのがあって、各州でいろんなチャレンジをしていた。ブラックスバーグではすべての住民がインターネットに接続し電子決済も行っていた。アメリカはガレージセールというカルチャーがあるが、98年にはメルカリみたいなアイデアが既に出ていた。
 【宮坂】最高ですね。それはボトムアップでですか。
 【清水】人口のうち2万5~6千人は大学の関係者なんです。大学が一般市民に使い方などのIT教育のサポートを行った。副知事がおっしゃったように、アカデミアと一般市民と行政が一体となってそういうものを構築していった歴史がある。
 それからカリフォルニア州やジョージア州だと思うが、既に当時、ネットでの電子指紋認証や遠隔医療などのチャレンジがあった。また、今後の課題というのもきちんと整理しており、そうしたものをベースにベンチャーが立ち上がり、GAFAとかが生まれてきた歴史がある。東京が新しいモバイルネットワークを構築していくに当たっては、これまでの技術的・社会的な歴史を十分に学習した上で、それに引きずられずに新しい発想を生み出す、そういうやり方が大切だ。
 【宮坂】示唆に富む話ですね。民間にいるとどうしてもROI(投資によってどれだけの利益が生み出されているかを測る指標)とか考えるし、期間も1年とか5年なので、やはり30年後にインターネット社会が花開くとは民間では言えない。一方で行政は時間軸の長い取り組みができると思うんです。先日、大きな台風が来て地下の放水路が大活躍したが、都庁のベテラン職員に聞いたら、30年前は「本当に役立つのか」と賛否両論があったという。でもあれは行政にしかできない仕事。東京にモバイルインターネット網を引くといっても完成するまで時間がかかるし、出来たころには6Gとかになるので永遠に作り続けることになると思うが、やはり最初に行政が「やるぞっ」と言って、次に民間やアカデミックの世界の挑戦者を後押しするのが良いなと思います。テクノロジー業界では「ハイプ・サイクル」ってよく言いますが、最初ブームでわーっと盛り上がった後に必ず下がる、それから一皮むけて再び盛り上がっていく、だから5Gももう少しすると下がると思います。「思ったよりも使えない」とか「大したことない」とか。でも歴史に学ぶっていうのはそこだと思う。ちゃんと正しい方向を向いて信念を持って進めることが大事。
 私のお気に入りのエピソードなんですが、19世紀にロンドンで蒸気自動車のイノベーションが起きたときに、当時は車といえば馬車でバッティングすると馬が驚くらしい。そこで赤旗法という法律ができて、蒸気自動車の前を人間が赤い旗をもって叫びながら走るというすごいルールができた。当時の人からすると、「こんなうるさい蒸気自動車よりも馬車のほうが速い」となったと思う。そして最初の自動車って時速9キロ程なんです。人間が走ったほうが速い。しかもその最初の自動車が世界初の交通事故を起こしている。たぶん作った人は「車なんて意味がない」と言われたと思う。チャレンジャーってそういうものなので、そこは行政や社会全体で「ナイストライ!」って言ってあげないと、新しい技術に挑戦した人が損する社会になる。特に日本はそういうスタートアップやチャレンジャーに厳しいので、これをきっかけに挑戦者をたたえて集まる街にしたい。

5Gで働き方改革推進
 ─チャレンジを後押しする一方、国は規制する立場でもあり、バランスを取る難しさもあるように思いますが。
 【飯村】皆さんが安全・安心に使っていただくために不可欠なルールも必要ですし、一方で、技術等の進展も踏まえて対応する場合もあると思います。例えば5Gであれば今後、地域の様々な課題解決というところがどんどん出てくると思います。総務省は昨年、5Gのアイデアコンテストを行ったり、地域の方々から出してもらった地域課題解決に資する5G利活用の実証試験も進めています。そうしたチャレンジの中で、より良いものに変えていく姿勢も大事だと思う。
 それと、将来に向けてというチャレンジャーへの後押しは重要だが、一方で着実に課題解決を実現していくべき領域もあると思う。以前、障害をお持ちの方の情報バリアフリーを担当したが、インターネットの登場でよって最も変わった部分が情報の入手。これまでは誰かが新聞を読んでくれるなど受け身だったが、インターネットで音声読み上げなどができるようになり、自分で情報を取りに行けるようになったという。やはり身近な暮らしの中で必須となるものが大きく変わっていく、劇的に便利になる、できなかったことができるようになるという部分を着実に増やしていくということも大事だと思う。
 ─身近な課題解決では、働き方改革もあると思います。5Gがもたらす働き方改革をどのようにイメージしていますか。
 【飯村】総務省でも働き方改革、その切り札となるテレワークなどを進めている。テレワークはずいぶん以前から推進しているが、なかなか浸透しなかったが普及してきた要因の一つにはネットワーク網の進展が大きいと思っている。5Gなど高速通信でどこにいてもつながることによって、自分が働きやすい場所で働ける環境をしっかりと実現できるということが重要だ。テレワークを例にとれば、ウェブ会議はまだスムーズでない場合も結構あり、隣にいるかのような対面している感覚はまだできていない。先日の台風15号の時も公共交通網が大混雑となったが、このような時こそテレワークで、スムーズにリアルな形がネット上で実現できれば劇的に働き方も変わっていくと思う。
 ─テレワークは東京都も力を入れています。
 【宮坂】現状の都庁の課題は結構山積みで、まずテレワーク以前にスマートフォンを使って仕事ができない環境にある。5G以前にまずLTE(通信規格の一種)でもいいので、仕事のためのインフラは絶対にやっておかないといけない。行政の中にいる人はファーストペンギンとして最先端のテクノロジーに触れておくことが大事。いろんな問題を自ら理解し、体験した上で外に打ち出さないと、世間様を実験台にすることになる。
 ─教育現場のほうがネット環境は進んでいるように感じますが。
 【清水】私は以前、企業で研究開発をしていたが、民間は80年代から比べるとものすごく情報処理部門が進んでいる。例えば部品の発注システムも出張報告書もすべてPCから入力し、アプルーバル(承認)は上司の席に自動的に通知が入ってボタンを押せばOKというシステム。翻って大学は最先端の研究をしているが、残念ながら都庁と変わらない。ハンコを押して、物品を買うにもすべて紙で渡して、不正防止の観点から現品確認とかはありますが、いかんせん書類主義。
 ちょうど先々週、バージニア工科大学に行ったとき、入構の手続きをミスしてしまい、警告書をもらったのだが、それを教授に渡したら、すぐにスマホで確認して「これは大丈夫だ」と。すべての情報は教授のスマホからアクセスできて、大学はそれでできているのかと聞いたら「当たり前だろ、ブラックスバーグだぞ」といわれた(笑)。
【宮坂】僕は(都庁に)移ってきたばかりで、来た時に思ったのは都庁の職員の方ってものすごく働くんですよ。ハードワークしているんだけれど、使っている武器が弓とやりで戦っている古い印象。鉄砲隊が来たら絶対負けるなと。道具は絶対にいいものを使ったほうが良い。料理人は切れる包丁を使った方が良いのと同じで、ここで我慢する必要は全くなく、やればやるほど普通は良いアウトプットが出る。そういう意味では働くためのデジタルツールをよくする、ネットワークをよくするのは伸びしろしかないと思う。
 もう一つ強調したいのは、我々の子どもの世代は日本で働くのではなく、日本にいながら世界の人たちと仕事をすることが当たり前になる。その時にはもちろん英語が大事なのだが、もう一つ大事なのは、デジタル端末を使って会議ができたり、オンラインでコラボレーションできるか。グーグルとかヤフーでも既に行っているが、一つのプロダクトを作るのに、日本とアメリカとインドで共同研究で作ることは世界では普通。基本的にみんなが一つの場所に集まって仕事をするというのは、チーム作りの面ではアドバンテージではない。これから国際化社会のことを考えると、会わなくてもその瞬間に同じことができるようなスキルを身に付けないと、開発のスピードは上がらない。
 【飯村】私は以前、民間企業に2年間出向していたが、スマホも一人1台利用でき、PC上と同じ環境が実現できる状況で、スムーズな意思決定や相談ができる環境に触れた。今の職場でも、職場のPC自体を持ち出し、テレワークが可能だし、自分のスマホにメールを転送する仕組みがあるが、勤怠管理などのシステムはまだなく、紙資料も多いところもある。デジタルガバメントも推進されているが、申請を紙から電子に変えていくことを国が率先してやることで、全体として働き方も含めて業務の効率化等も推進されていくと思う。

改革はプログラミング思考で
 ─東京都はIT人材を取り入れて組織的に変えていこうとしていますが、どのように進めていきますか。
 【宮坂】自治体や政府のペーパーレスが遅れていると言われるが、その原因はエンジニアがいないということが大きいと思っている。他の国の状況を調べたが、ロンドンもバルセロナもニューヨークもシンガポールもみんな1千人以上いるんですよ。ICTエンジニアが。東京都で僕みたいなITバックグラウンドの人は10人くらいしかいない。これは頑張る以前に組織を作らないといけない。ITエンジニアは作りたがりの人が多いので、1千人いれば片っ端からIT環境を構築していくと思う。東京都は道路や水道など素晴らしいインフラを持っているが、それは千人単位で水道のエンジニアがいて、道路のエンジニアがいるからなんですね。ITエンジニアリングカルチャーを持つということが最初の一歩だと思う。
 【清水】私もエンジニアの端くれですが、エンジニアというのは定義がものすごく広い。例えば、電子化しようというときは、スペックをどうするかが大事で、一連の仕事をデジタル化するにはエンジニア視点で整理しないといけない。情報のフロー、仕事のフローはこうなるべきで、ここに無駄があるから、と。それができないと、プログラムには落とせない。この場合、エンジニアは単純にプログラミングができるだけではなく、システムとして全体を掌握し、それをちゃんと、安全性を含めてプログラムできるエンジニアが必要になる。だが残念ながらこれまでの大学での教育は、各ディシプリンで個別に行っていた。そこで、最近では分野横断の教育研究を促進する取り組みを行っている。大学には今言ったようなモノづくりのエンジニアと新しい技術や科学を生み出すエンジニアと、またそれらを統合化する中間のエンジニアと、幅広く求められている。大学としても、もう少しカテゴライズして進めていかなければならない。個々ができることは限られているし、学生の数も限られており、「あぶはち取らず」にならないようバランスをどうとっていくかを考えながら進めていかねばならないと思っている。
 【宮坂】おっしゃる通り、まず業務フローで無駄なものを省いたものをオンライン化しないと、無駄なものをそのままやってしまう(笑)。そもそも「こんなにステップいるの?」ということが大事で、その時にプログラミング思考が役に立つと思う。定義を明解にやらないといけないので、「うまい具合にやっといて」では通用しない。
 【清水】それができると、今までやってきた業務が効率化したというのが必ずあるはずで、IT化したことで時間がかかるというのは、その落とし込みがまずいわけです。でも今までの習慣、やり方の業務に慣れていると、どうしても抵抗感がある。やはり変わらなければならないということが第一だと思う。いくら良いスマホがあっても、中身がなければただの箱とはよく言われるが、そうならないようにしなければならない。
 【飯村】テレワークを推進する場合、働く側は効果的・効率的に働けるというメリットがあるが、経営層の方との間の齟(そ)齬(ご)も大きい場合がある。ただ、最近では経営層の方の意識が非常に変わってきていて、テレワークなど働き方改革は経営戦略として捉え、中期計画にも位置付けていく企業も増えているようだ。人材不足の中で一人ひとりの労働生産性の向上が不可欠になっており、これまで通りの働き方や評価の仕方も変わってくると思う。トップダウンでの推進と、業務の見える化や働く側の意識改革との両面で推進することが必要だと思っている。
 【宮坂】都もスムーズビズとかテレワークデイとか推進しているが、いかんせん道具が追い付いていない。いま自宅に持って帰れるのがノートパソコンくらいでビデオ会議もできない。それができるとだいぶ変わってくると思う。これは人によると思うが、打ち合わせや会議で7割くらい使って、1~3割で資料を作るという感じだとすると、7割の仕事が家でできることは大きい。ビデオ会議はクオリティーが上がっているので、最初は癖があるが、慣れてしまえばものすごく生産性が高い。どこでもスマートフォンでビデオ会議に入れるとなると、さらに加速する。だから道具をセットで進化させれば、テレワークというのは進化する余地があると思う。
 ─働き方改革の一方、先日の台風19号では役所のホームページがつながりにくいなどの課題も出ました。5Gがもたらす防災面の効果は。
 【宮坂】東京都のデジタルシフトの責任者として、今回の台風はデジタル面において反省しかない。ホームページがつながりにくいとか遅いというのはあってはならないこと。ネットは今ではライフラインなので、絶対落とせない。ダイバーシティ、スマートシティ、セーフシティとあるが、やはりセーフシティ、命と財産を守ることが大事。それを守れずにテレワークや自動運転ができてもしょうがないので、まずは情報を届けるべき人に届け切ることが大事。これは5G以前の問題だ。災害は明日起きるかもしれないので、すぐやろうと思っている。
 加えて、もう一つ痛感したのがテレワーク。発災時にテレワーク環境が充実していることはすごく重要だ。何かあったときにノートパソコンを持って歩き回ることを考えると、スマートフォンだけで仕事ができる環境を日常的に準備しておくと不測の事態にもすっと入っていけると思う。
 【清水】モバイルコミュニケーションで、絶対に忘れてはいけないのはエネルギー。最近では災害などが起きると通信会社がスマホの充電設備を現地に持ち込んで対応する。遠隔作業や在宅勤務というのは平常時が前提で、非定常時にどう維持するかが課題。台風15号で電線が切れたが、無線は大丈夫かといえば、実は送る側も受ける側も電気がないと動かない。かつて電話線には電気も送っていたので、停電しても電話だけはつながっていた。ところが光ファイバー通信になって、停電したら電話がつながらない。その結果として、電気が滞ると情報も届かなくなる。これは大変深刻な問題で、自立発電や自然エネルギーを使ったシステムにするなど、ロバスト性(頑強性)の部分はもっと研究していかねばならない。新しい技術ができると、メリットに対して必ずドローバック(欠点)があるが、メーカーはドローバックがあるとは言いにくい。大学としては、ドローバックを潜在的な段階で解決して顕在化しないようにすることも重要な使命。いかに早く芽を摘むかというのが研究機関の重要な仕事だと思っている。
 【宮坂】そうですね、今の話を補足させていただくと、東京データハイウェイって5Gをアピールしているが、コンセプトは「つながる東京」なんです。そのためには速いほうが良いので5Gをやるんですが、ロバスト性も考えなければならない。つまり発災時でもつながる。自治体のサーバーもつながるし、エンドユーザーのスマホやデバイスもつながる。当然ながら避難所にはバッテリーが必要になる。最初は水、食料、毛布ですが、次は充電。10年前とは様相が変わって新たなライフラインになっているので、避難した時にWiFiがちゃんと出ているのかとか、どんな時にもつながる。「つながる」を割と広義に捉えないと、電波はあるけどバッテリーがないというのではどうしようもない。
 もう一点、強調したいのは「いつでも、どこでも」も非常に難易度が高いが、最後に「誰でも」が残る。高齢者などスマホを持っていない方もまだたくさんいる。彼らにスマートフォンを覚えていただくことも社会的に大きな挑戦となる。海外ではどんな年齢の方でもスマホを使っている。行政やキャリアが一緒になってスマホ教育を充実させるなど取り組みたい。
 【飯村】通信インフラが電力、水道に並ぶライフラインになっており、整備をしっかり進めていくということの重要性が増していると思う。通信がつながることや充電等も含めてインフラの堅牢性はますます不可欠になると認識。利活用のイメージでは、例えば、人が入れないような危険なエリアでも5G等を活用し、ドローンや重機を遠隔操作できるようになれば人がいけなくても助けることができるようになる。そのようなサービスが実現していけば、今後の災害や防災、減災につなげていくことも期待されるのではないか。
 【清水】おっしゃる通りで、情報とエネルギーは包括的に考えていかねばならない。ドローンは現在、30分くらいしかバッテリーが持たない。地上から非接触給電で送る研究もあるし、先ほどの重機も電気がなくなれば止まるので遠隔でどう電力を送るか、その時、いかに電波障害を起こさないかということも大事。その辺はトレードオフなんです。遠方に電力は送れるが、その周辺の通信機は全部使えなくなる。思わぬところでエネルギー系と情報系が障害干渉を起こしている。例えば自動運転では電気自動車はノイズの塊なので本当に動くのという大変深刻な課題が内在している。

ネコバス実現にチャレンジ
 ─都が5Gに取り組むことは日本全国への波及効果もあると思います。都は共存共栄として地方との連携を進めていますが、こういった都の取り組みが地方に与える役割をどう見ていますか。
 【飯村】東京都がモデルとして先進的な姿を見せられることは、他の地域の方々が参考にできるのではないか。通信事業者がインフラを整備することとともに、地域課題の課題解決のためにローカル5Gも推進している。県内や近くの県同士などで医療ネットワーク等連携している例もあるが、各自治体が抱える課題を東京が先行して実施し、それを地方で展開するなどがあればより普及促進される部分もあるのではないか。様々なモデル作りされることが期待されるのではないかと思う。
 【清水】東京都がチャレンジなものに関して良い意味でケーススタディーしていけば、地方はイニシャルコストを負担しなくてよくなり、首都・東京が担っていくことが重要だと思う。
 ─スタートアップを増やしていくというのも東京の課題ですが、教育現場の視点から何が必要だと考えますか。
 【宮坂】東京は日本で一番スタートアップの数が多い都市だと思う。一方で東京都という行政とスタートアップの距離が日本一近いかと言うとそうではない気がしている。もっと近い距離でやっている自治体があるように感じる。増やすことも大事だが、東京都は新しい世代のチャレンジャーや研究室の人ともっとコミュニケーションを増やすべきだと思う。そうすれば、新しい刺激が入ってくる。これまでの取引先もいいけれど、今生まれたばかりの荒削りなスタートアップや研究室でそんなこと無理でしょうということをやっている人に業務の一定比率をちゃんと割り振らないと、ソリューションがマンネリ化していく。そういうことをやっていくと、スタートアップが求めていることや、逆にだめな支援が分かってくるので、実のあるサポート策が生まれてくると思う。まずは胸襟を開いて話す場をもっともっと増やしたいと思う。
 行政課題をテクノロジーで解決する方法は多数あるが、その担い手は伝統的な企業である場合もあれば、スタートアップである可能性もある。行政課題の一部をスタートアップの人と解決していくというのはこれまでなかったと思うのでそういうこともやりたい。
 【清水】本学は東京都と連携・研究ということで都の行政施策にコミットできる、寄与できる研究というものを我々が提案して各部局の方々と審査いただいてやっているが、これは直接的に都の施策に役立つものとして行っている。一方で、スタートアップを都と大学、スタートアップを希望する企業の三位一体で応援していければと思う。「そんなものできるのか」というものも選定して、大学はそのチャレンジを強力にサポートするなど新しい形のスタートアップを側面から、行政と教育機関と希望するベンチャー企業が連携して生み出していく仕組みもあり得ると思う。
 【宮坂】そうですね。東京のアドバンテージの一つはスタートアップが多いということ、そして大学のアカデミックの層が世界有数に厚いところ。今言われたような取り組みはぜひやってみたいですね。そういうやり方があるんだという例を示すことで、取り組みが全国に広がるとよい。
 【清水】大学の研究っていろいろカテゴリーがありますが、これは当然できるよね、というのは論文としてもあまり価値がない。「そんなことできるの?」という、最初は誰も信じていなかったが10年経ってみたらすごかったねというのが大きな発明、イノベーションだと思う。だからすぐにできるものにチャレンジするのではなく、10年以上先を見据えた研究が大切。ある大学の先生は宮崎駿の映画に出てくるネコバスを実現しようと、階段でも何でも走っていくバス、あれなら誰も困らない。それは二足歩行ロボットの延長で、最後はネコバス作りたいよねと。そのくらいの発想でないと、いわゆるベンチャーをサポートできない。我々の大学では、そのくらいのマインドを持った研究がどんどん育ってくれれば良いと考えている。
 ─最後に、まとめという形で5GをはじめとしたICT利活用に向けた期待や課題など、一言ずついただけますでしょうか。
 【飯村】インフラをしっかり整えるという部分と、それをしっかり使っていくという両面を実現することが重要で目指すべきところでもあると思っている。日本はブロードバンド環境も整って、どこでもつながるようになってきたが、その上に乗るアプリケーションや、ユーザーが体感できるサービスという面で、もっとできる部分があると思う。5Gというインフラを含めてユーザーにもっと利便性の高い、課題解決につながるサービスがどんどん出てくるような素地を行政としても作っていかねばならないし、そういう方々をどんどん出すためのサポートも重要だと思っている。それに向けては国だけでなく、東京都や全国の自治体、大学など様々なステークスホルダーが考えて実行していくことが重要だと思う。
 【清水】私はよく学生に行っているが、「How to」というのは日本が追っかける立場の時は良かったんです。どうやって作ろうかという、でもこれから日本が牽引(けんいん)していくには、「Why、What」が、なぜそれが必要なのか、それはどんなものなのか、そのために5Gやモバイル通信をこう使おうじゃないかという、そういう議論が重要です。これからの社会、いろんな意味で、「Why、What」をよく考えて、そして先を予測するとか、現状をよく分析する中で新しい技術を最大限生かしていくという議論が必要。5Gは手段であって、目的はもっと大きなところにあってほしいと思っている。
 【宮坂】目指しているのはダイバーシティ、スマートシティ、セーフシティを実現すること。今まではインターネットはそれほど使いきってはいなかったので、この三つを「byモバイルインターネット」「by5G」で加速させたい。5Gは整備したがスマートシティになっていなければ本末転倒だし、5Gになってダイバーシティとかよくなったよねとなることが大事。一方で大事なことは、とはいえ、ある局面においてインフラは徹底的にやらなければならない。インフラはやる時に一気にやらないと、中途半端にやっても仕方がない。よく言われる例だが、関東大震災の後、道路をいっぱい作ったが当時はこんな幅広い道路がいるのかと言われていたが、今からすればもっと太くしとけばよかったとなる。50年くらいのスパンで考えれば、モバイルインターネットが大事なのは疑いようがない。10年、20年後の人が評価する仕事がインフラを作るということなので、まさに今回の外郭放水路のように行政として30年後の人々が評価してくれるインフラ投資をしっかり取り組みたい。
 ─貴重なお話を伺えました。ありがとうございました。

 宮坂学(みやさか・まなぶ) 東京都副知事=同志社大経済卒。1997年6月にヤフーに入社し、メディア事業部事業部長、執行役員、社長、会長などを歴任。2019年7月、東京都参与に就任し、9月から現職。ソサエティー5.0施策や5G施策の推進などを担当。

 清水敏久(しみず・としひさ) 首都大学東京副学長=東京都立大学大学院工学研究科修士課程修了。富士電機総合研究所などを経て1993年から東京都立大学工学部助教授、首都大学東京都市教養学部理工学系教授、同大学院システムデザイン学部教授などを歴任。

 飯村由香理(いいむら・ゆかり) 総務省情報流通行政局情報流通振興課情報流通高度化推進室長=慶應義塾大学卒。1999年4月郵政省採用。総務省情報通信国際戦略局情報通信政策課課長補佐、情報流通行政局衛星・地域放送課地域放送推進室課長補佐などを経て18年7月から現職。

 

会社概要  会社沿革  事業内容  案内図  広告案内  個人情報保護方針