都政新報
 
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市場幕開け~築地から豊洲へ(9)/海外展開/「世界の豊洲」なお課題


  今夏の猛暑では、開放型の築地市場で扱っていた生鮮品や加工品の鮮度に影響を及ぼした。水産仲卸は、店頭に商品を並べると暑さで傷みやすくなるため、注文のたびに冷蔵庫まで商品を取りに行かねばならず、「作業効率が悪かった」と振り返る。また、量り売りも行っている水産仲卸は加工品を店頭に長時間、置くことができず、量り売りそのものを中止した。「商売上がったりだ」とため息をついた。
 豊洲市場への移転後、業者からは閉鎖型施設を高く評価する声が上がる。店舗を構える水産仲卸売場棟(6街区)の1階は室温を20度程度に維持しており、ある水産仲卸は「夏場でも鮮魚や加工品の傷みを回避できる。豊洲に移転して良かった」と笑みをこぼした。
 閉鎖型施設は仲卸の取引先からも好評だ。ある仲卸業者は豊洲の店舗を訪れた取引先から、「夏場の築地市場は劣悪な環境だったが、豊洲は問題ない」とお墨付きを得たという。小池知事が豊洲の地下水から基準値を超える有害物質が検出されたことなどを理由に移転延期し、「豊洲は汚染されている」という風評被害が広まったが、仲卸は「取引する中では風評は感じられない」と強調した。
 豊洲では築地と比べて商品管理の面だけでなく、衛生面も向上している。築地市場では、小型運搬車「ターレ」を運転しながら喫煙している姿が見なれた光景だったが、ある業者は「豊洲の水産仲卸売場を見渡した限り、喫煙している人はいない」と驚きを隠さなかった。
 さらに、こうした衛生的な環境を生かしつつ、豊洲は輸出拠点の役割を果たすことが期待されている。築地でも一部の業者がシンガポールなどの飲食店に輸出していたが、豊洲ではさらに拡大できる可能性を秘める。その一つが6街区にある加工パッケージ棟だ。築地にはなかった閉鎖型施設で魚の切り身や刺身などに加工でき、市場業界の一人は「フレッシュな状態で羽田空港に運ぶことができる」と語った。
 また、羽田空港へのアクセスも輸出の追い風となる。築地市場よりも豊洲市場の方が羽田までの距離が短くなるため、6街区に集荷所を構える日通では市場移転前よりも出発時間を遅らせることが可能となり、業者はその分、出荷量を増やせるようになった。
 輸出の条件は各国で異なるが、特にEUなどに輸出するには厳しい条件が課せられている。HACCPの認証取得などが取引の条件となっているため、市場流通に詳しい都幹部は「HACCP取得を求めるのは産業保護のためだ」と解説する。
 だが一方で、輸出拡大に水を差しかねない状況も散見される。6街区の売場で店舗外にブルーシートを敷いて荷物を置き、床掃除の妨げとなっていたり、7街区の屋外待機駐車場で商品の荷さばきや魚の仕分けを行うなど、ある業者は「衛生面の観点からは良くない。海外からバイヤーが視察に来た時、改善しないといけない課題だ」と指摘する。
 多くの商品が低温を維持して管理されているものの、そうではない商品も一部混在している。仮に、豊洲から輸出した商品で食中毒が発生した場合、豊洲が敬遠される恐れがある。品質衛生管理を徹底するのは大前提となる。
 海外展開に当たっては戦略が必要だ。東京五輪では海外から多くの観光客が東京を訪れ、豊洲で扱う生鮮品や加工品をアピールする絶好の機会となる。その先の展開は今後の検討課題だが、都が輸出する市場業者を支援するとともに、海外で伍(ご)していくための戦略を都と業界が連携して練り、「世界の豊洲」を目指していくことが求められている。      =おわり
 

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