都政新報
 
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市場幕開け~築地から豊洲へ(8)/入退場システム/動かぬハイスペック装置


   開いたままの入退場を管理するバーの脇を、市場関係車両が勢いよく通過していく─。22日、豊洲市場7街区の水産卸売場棟の正門南口。入り口には、バーに加え、ポールに設置された車番を識別するカメラやICタグの受信アンテナなどが見える。
 豊洲市場には5~7街区の各入り口に計8カ所の入退場管理システムを設置した。高速道路のETCシステムに似た装置で、登録車両をシステムで認識し、入退場バーの開閉など市場関係車両を一括管理できる仕組みだ。総設置費は保守点検費などを除いて約6億7千万円に上る。
 システム導入の目的には、不審車両の入場制限などセキュリティー対策がある。食品テロや不法投棄の防止、商品の盗難対策などに生かせる。都中央卸売市場は「豊洲市場は築地に比べて格段に広い。防犯カメラはあるがブラインドポイントがあるので、入退場管理システムを運用すれば問題車両を絞り込める」(担当者)と話す。
 ところが、同システムはまだ本格稼働にしておらず、バーは開きっ放し。システムは運用上、時速20キロ以下でないと車番などを認識できない設計だが、現状では20キロ超で次々と車両が通過している状態だ。
 「少なくとも東京五輪前の運用開始は難しい。本格稼働まで50年ぐらいかかるかもしれない」。ある水産仲卸業者は冗談めかして入退場管理システムについてこう語る。
 システムの運用は豊洲市場に入退場する全関係車両の事前登録が前提になる。都は車番登録の対象台数を計2万超と見込む。そのうち、週に複数回来場する車両が登録するICタグは1万超。都によると、現時点での登録数は車番が審査中を含めて1万強、ICタグが約6千で、対象総数の5割程度にとどまっている。
 しかし、場内で働く人の通勤車両に加え、買い出しや産地からの運送車までもが対象になるため、関係車両の全数登録のハードルは高い。同一会社でも所有する各車両の車番をシステムにひもづける必要があり、とりわけ入退場数が多い水産関係者には「非現実的なシステム」と映る。例えば未登録者が入場しようとしてバーで止まれば渋滞が発生して円滑な物流に支障を来す。だからこそ安易なシステム稼働は許されない。
 築地市場では関係車の窓などに貼るワッペンを配布して入退場を管理していたが、「厳格に運用されていなかった」(水産仲卸業者)。そのため、築地では管理が甘いがゆえに粗大ごみや廃車の不法投棄などが発生。都は追跡調査して入場停止処分などを下していた。入退場管理システムを導入すれば、こうした事態への未然防止や迅速な対応が見込める。
 一方、開場間もない豊洲場内はまだ混乱が続く。豊洲市場は通勤や買い出し、産地用など駐車場がおおよそ割り当てられているが、市場業者の一人は「まるで無法地帯。指定以外の場所にバンバン車を停めている。これでは爆弾を搭載した車が入って来ても全く分からない」と現況を明かす。
 都は車両台数が増える年末年始の状況を見ながら各業界団体とシステム導入に向けて調整を進める方針だが、本格稼働への道のりは険しい。「市場が休みの日に限って先行導入するのも一案かもしれない」と弱気に話す都職員もいる。
 認識した車番は商品の荷下ろしをする「バース」にひもづけ、場内の円滑な車両誘導につなげる狙いもある。多額な費用を投じて設置したシステムが未稼働のままでは、都民らから批判が出る恐れもある。導入に慎重姿勢の水産業者をどう説得し、ハイスペックなシステムの本格稼働を実現するか。都には業者らとの粘り強い折衝力も試されていそうだ。
 

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