都政新報
 
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市場幕開け~築地から豊洲へ(6)/築地跡地/思い交錯も新拠点へ再開発


  「都側に法的に拒否する根拠はない。引っ越し猶予期間後を見据えて実績を残すため、『買い物で入場する』と伝えてください」。15日午前11時前。閉場した築地市場正門前で一級建築士の水谷和子氏が、参集した50人ほどの移転反対派の面々にこう呼び掛けた。
 同氏らは築地での営業継続を主張する「築地市場営業権組合」と連携し、閉場後の場内で「お買い物ツアー」と称するイベントを敢行。本格的な業者の引っ越しが終了した翌日の11日に開始した。場内では水産仲卸と物販各1店舗が鮭フレークなど日持ちする商品を販売。水産仲卸の店舗は、複数の同組合加盟業者が入れ替わりで対応した。
 彼ら反対派は「築地は閉場していない」などと持論を展開。買い物ツアーは自らが主張する営業権を補完するための戦略だ。
 だが、都の見解は真逆で、「築地の使用許可は消滅しており、営業できる環境を整えた豊洲市場での許可を出している」などと説明し、「都側の主張は法的に問題ない」(担当者)との立場だ。都中央卸売市場は、築地市場と本庁の双方で同組合と調整しているものの議論は平行線をたどっている。中央卸売市場の幹部は「連日連夜、場内で販売行為を行うのをやめるよう説得しているが折り合わない」とうなだれた。
 一方、築地では正門から数分歩けば重機の姿が見えてくる。11月4日からの暫定開通が決定した環状2号線の暫定迂(う)回(かい)道路を整備するため、市場跡地北西にある青果門周辺で急ピッチで工事を進める必要があるからだ。
 閉場後、築地には「営業」と「解体」という相反する行為が現出し、様々な思いが交錯する市場跡地だが、東京五輪・パラリンピック大会時に輸送拠点として活用後は再開発する。総面積約23ヘクタールの跡地は「都心に残された最後の広大な公有地」と関係者は口をそろえる。
 都は現在、関係局幹部で構成する庁内検討会と、有識者や中央区と港区も交えた「築地まちづくり検討委員会」の両会合で詳細を調整しており、年明けに市場跡地のまちづくり方針の素案を公表して年度内に取りまとめる予定だ。
 両会合の事務局を担う都都市整備局は「今は具体的なことは表に出せない」(担当者)と話すが、会合関係者からは「東京が国際経済の中で置かれている環境などを考えれば、方向性は自然と定まってくる」との声が漏れる。
 その上で、この関係者はこんな青写真を描く。低層部は水・陸交通の結節点、その上に都民や観光客らが集えるオープンデッキ、そして大規模な国際会議などを催せるコンベンション施設と、中・高所得層などハイクラス向けホテル─。同関係者は「5千万~7千万人のインバウンドを目指し、パリを凌駕(りょうが)するような国際観光都市として東京は生き延びねばならない」と話す。
 他方、都議会都市整備委員会の委員によると、年度内のまちづくり方針で具体性のある中身は期待できそうにない。しかし、都心と臨海部を結ぶつくばエクスプレス延伸の新駅設置や、小池知事がかねてから主張する浜離宮恩賜庭園との一体性など、再整備の条件や針路は絞られつつある。
 都が18日に官民連携の検討チームを発足した「東京ベイエリアビジョン」(仮称)では、20年後の築地の成長モデルを「新たなブランドの創出・交流拠点」と位置付けている。80年以上築き上げてきた食のブランドに何を融合させるのか。中央卸売市場なき築地の未来は都に託されている。
 

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