都政新報
 
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市場幕開け~築地から豊洲へ(1)/移転反対派/開場前夜、波乱含み


   「全く信用できない」。反対派の水産仲卸らが加入する築地市場営業権組合を始めとした原告団56人が9月19日、豊洲への移転差し止めの仮処分を東京地裁に求めた後、団長の宇都宮健児弁護士は司法記者クラブで豊洲の安全宣言を行った知事に怒りをあらわにした。約2年前の豊洲移転延期の発表前日に知事と会談した際は、終始笑顔だった宇都宮氏だが、会見では別人のように厳しい表情を浮かべていた。
 豊洲市場への移転反対派が抱く小池知事への不信感は根深い。根底にあるのが、豊洲の地下水問題だ。6月の都の調査で基準値の170倍のベンゼンなどが検出されたことに、宇都宮氏は「食の安全安心が確保されていない状態で移転すれば、消費者の不安が大きくなり、業者の営業は大打撃を受け、生活が脅かされる」と危機感をあらわにした。
 宇都宮氏は、これが生命や身体、生活など保護されなければならない権利「人格権」の侵害に当たると主張。人格権の主張は過去に、定期検査で停止中だった福井県の大飯原発の再稼働を巡り、原告が人格権を理由に運転差し止めを求めた訴訟で、福井地裁が原告の主張を認める判決を出した成功事例がある。
 だが、豊洲移転差し止め訴訟の判決は、豊洲開場後になる見通し。仮に移転差し止めの判決が下されれば、営業を開始した豊洲市場で取引ができなくなる。その代わりとなる市場はなく、生鮮食料品の供給に影響を及ぼす事態になりかねない。移転賛成派の市場業者は「移転したくなければしなくていいのではないか。移転を間近に控え、提訴したことにあきれる」と漏らした。

 「自腹を切って(豊洲に)移転しないといけないのはおかしい」。築地市場営業権組合が9月5日に記者会見を開き、怒声を上げた。同組合が引っ越し費用の自己負担拒否の根拠に挙げたのは営業権だ。
 同組合によると、行政機関から使用指定を受けて営業していたり、会社の信用を積み上げて築いた「のれん」がある場合、営業権を主張できるとしている。築地の仲卸には営業権があるとしているが、築地解体により営業権は消滅するため、補償が必要という主張だ。
 これに対し、都側は業者に築地市場の使用許可を出している理由について、「生鮮食料品を安定的に供給する行政目的の範囲内で行っているため」などとしており、業者が豊洲移転で営業上の不利益を被っても受忍すべきで、補償はできないとの考えを組合側に説明したという。
 市場業界の一部には組合が補償を求める背景に、千葉県浦安の漁業権放棄が念頭にあるのではないかとの見方がある。かつて漁業の町として栄えた浦安では、工場廃水や県の埋め立て工事により海が汚染されて漁獲量が減少した結果、漁業を存続できなくなった漁民が漁業権を全て放棄する代わり、県から補償を受けた経緯がある。その漁民の一部は築地の仲卸の権利を買い取り、今も営業を続けている。
 市場業界の幹部は、「築地の営業権組合は、浦安の漁業権放棄と同様に補償を受けられると勘違いしているのではないか」と疑問を投げかけた。
 この補償に関して、都と営業権組合が21日に話し合ったが、議論は平行線をたどり、決着はついていない。
 今後は移転反対派がさらなる強硬策として、築地閉場後に居残る懸念がある。築地・女将さん会の山口タイ会長は9月の営業権組合の会見で、「座り込んでも(築地を)守ろうという気持ちがある」と声を荒らげた。築地移転後の10月11日から17日までは業者が築地から運びきれなかった荷物を搬送できる調整期間となり、居残り業者が出るとすれば18日以降になる。
 市場業界の幹部によると、日本橋から築地に市場移転する際、一部の水産の業者が築地開場から約7カ月遅れて引っ越してきたという。また、豊洲開場後の反対派の行動をこう分析する。「歴史は繰り返されるかもしれない」
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 豊洲開場まで1週間余りとなり、カウントダウンが始まった。だが、移転反対派が勢いづく中、閉場後の築地に居残れば、築地解体工事への影響も危惧される。また、豊洲への引っ越しの遅れ、移転後は習熟しきれていない業者の混乱が起こる恐れもある。市場移転前後の築地や豊洲を巡る課題を追う。
 

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