都政新報
 
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小池都政2年~第2部 有識者に聞く(7)/国際金融都市/粘り強く施策の継続を/大崎貞和野村総合研究所フェロー


  国際金融都市の実現に向け、都はできる限りの施策を実施していると思う。中小企業など国内産業の衰退につながるとの反対論もあると聞くが、大きな誤解がある。金融業は3次産業の中で生産性や付加価値が相対的に高い。さらに、金融機能は情報を伴うため、金融業の高度な発達は情報集積による情報ハブをもたらし、様々な分野への波及効果も大きい。IT技術ではアプリケーションの開発や、高度なノウハウを持つ技術者が金融業に従事するなど、相乗効果が出るだろう。そのため、中小企業が衰退するような話では全くない。
 この施策には、国内の資産運用機関の高度化という狙いもある。これらの機関は、技術力や知識面で海外勢に比べて相対的に劣っている。こうした力はやみくもに事業を遂行しても伸びない。
 やはり競争による効果が大きいだろう。海外の高度なノウハウを持つ人が東京に来て、海外勢がある程度のシェアを占めれば「負けてはならない」と国内勢も腕を磨く。あるいは外資系企業で実力をつけた人材が国内の機関に転職するかもしれない。国際金融都市の施策がうまくいけば、プラスの効果しかないはずだ。
 実現可能性が問題だが、まずは海外の会社に現状や施策を知ってもらうことが重要だ。東京にはビジネスチャンスがあり、生活コストなどもそこまでかからない。加えて、都や金融庁など当局側が積極的に受け入れる態勢であることを知ってもらわなければいけない。
 しかし、東京にはビジネスの共通語が英語ではないという大きなハンディがある。これは変えるべきでも、変えられることでもないが、自覚しなくては始まらない。アジアのタイムゾーンにある金融センターはシンガポールと香港だが、ともに英語の街だ。全てのオペレーションを英語で行うことができ、高度な人材も容易に獲得できる。そうした実情に照らせば、東京の金融センターとしての競争力は低いという前提に立つ必要がある。
 ただ何もしなければ当然、競争力は落ちるため、都は現在の方針を粘り強く続けていかなければならない。金融分野は画期的な成果がすぐには出ない。2~3年など短期間で方針を変えたりするのが一番良くない。その意味でも、都が国際金融都市を実現するという目標を掲げ続けることが大事になる。ロンドンの金融街「シティ」を参考に創設準備を進めるプロモーション組織やベンチャー企業の発掘イベント、金融関連の各種会議など、しつこく何回も実施していってほしい。
 また、いわゆる「ハゲタカ」など資産運用会社を取り巻く都民らの様々な誤解を解く必要もある。海外だけでなく、国内や都民向けに、東京が国際金融都市を目指す理由について、都がストーリーを作ってアピールしていくべきだ。
 国際金融都市の取り組みは、舛添都政からの継続的な取り組みと理解している。国でも金融機能の強化の流れはずっとある。国民の金融資産を預貯金や現金からリスク性のある資産に移せば、老後の資産形成に資することになり、社会保障の安定につながる。さらに、資産運用の委託先の多様化は、厚生年金と国民年金の積立金を管理・運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の資産運用効率を高めることにもなる。
 アジアではシンガポールや香港に続けと、シドニーやインドも金融業に力を入れている。都には金融機能の強化がもたらす大きな構造に関し、都民を含む関係者への理解促進を図り、賛同を得られるようコンセンサス作りを進めていってほしい。
        =おわり
 

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