都政新報
 
 >  HOME  >  連載・特集
小池都政2年~第2部 有識者に聞く(4)/高齢者政策独自介護報酬で国動かせ/鏡諭 淑徳大学コミュニティ政策学部教授


  小池都政の高齢者政策は正直、地味だなという印象だ。これまで子育て施策の方に目が向いていたように感じる。
 ただ、豊島区と実施した混合介護の特区制度は踏み込んだ施策だ。現行のホームヘルパーサービスは、同居家族への食事や洗濯などが保険適用外で、無償で実施している実態もある。そこで、特区制度を活用して有料で実施する枠組みを創設した。
 だが、事業者がなかなか手を挙げてくれなかったとも聞く。利用者もサービスが有料になるため、施策の方向性は理解できるが、料金の面でうまくいかない可能性もある。
 国の路線と同じく、都はこうした在宅サービスに力を入れていると見える。都内の在宅サービスの実績は全国平均より高い。人口が密集し、比較的サービスを提供しやすいことに加え、利用者の所得が高いことも要因だ。さらに一定の家族介護があることや、医療サービスの近さなど東京の特性もある。在宅サービス路線は、こうしたメリットに沿った政策と言える。
 都の高齢者施策で最大の課題は個人的に施設だと思っている。高齢者人口に対する特別養護老人ホーム(特養)の整備率が全国で約1・51%なのに対し、23区は1・2%程度。施設が圧倒的に足りていない。
 都は補助金など施設整備への財政支援に力を入れ、特養1床当たりの補助金が全国平均で約350万円のところ、更に約200万円上乗せしている。しかし、土地代の高さに加え、都の責任ではないが、事業者への介護報酬が大幅に減少。介護保険制度が2000年に始まってから約8%下がり、事業者の収入が頭打ちになっている。働き手にもしわ寄せがいき、撤退する事業者が増える中、都も施設整備に苦しんでいるのではないか。
 介護人材不足は報酬を上げるしかない。介護報酬は公定価格のため、産業間の競争力に劣る。厚生労働省は介護保険の給付費が大きくなるので踏み出さないだろうが、加算を含めて都による独自報酬制などを望む声が多いのではないか。
 都が独自に事業者へ資金援助をすれば、国が動くことになるかもしれない。自治体先行で事業者が地域で健全な事業を行えるような環境を作るのも都の責任だ。
 特養の整備が進まない中で問題になるのが、一人暮らしの低所得者や高齢者のみ世帯などへの支援だ。今のところ、都が公費で積極的に支援するという姿勢は見えない。都内には、「ふるさとの会」や「エス・エス・エス」など低所得者対策を行っているNPO法人などが相当数ある。こうしたNPOなど民間団体に補助金を出すなど活用した方が、効果を生むという行政の判断があるのかもしれない。
 一方、首都大学東京の「100歳大学」など、生きがいや健康など高齢者のモチベーションを喚起する政策は評価できる。元気でまだ働きたい高齢者は多い。60歳や65歳で定年した人はまだまだ働ける。75歳ぐらいまで5~10万円程度の収入が得られるような働ける仕組みを作った方が良い。障害者と同じように、高齢者を雇う事業者に補助金を出すのも一つだろう。
 ただ、「介護予防」や「自立支援介護」といった言葉があるが、「自立が良い」と固定的な価値観を押し付けてはいけない。介護保険の利用者が悪いことをしているように捉えられ、健康志向を強調しすぎることで、負の効果を生む可能性がある。
 また、区市町村は政策的にも現場で苦労している自負がある。全国的に一定の政策水準に達している基礎自治体も増えており、都は区市町村の力を伸ばすような政策を打っていくべきだ。
 

会社概要  会社沿革  事業内容  案内図  広告案内  個人情報保護方針