都政新報
 
 >  HOME  >  連載・特集
小池都政2年~第2部 有識者に聞く(2)/水害と震災/災害対応社会の構築を/鍵屋一/跡見学園女子大学教授


  豪雨災害の対策は早めに逃げることに尽きる。行政は自力で逃げられる人に対し、情報提供することが大事だ。一方、自力で逃げられない高齢者や障害者には、行政と地域住民、福祉事業者などが事前に計画を立て、きめ細かな対応を取らなければ避難は難しくなる。
 西日本豪雨では短時間で浸水被害が起こったが、高知県では、南海トラフ地震後の津波、長期浸水に備え、低層階の住人が高層階の住戸に避難するマッチングを行っているマンションもある。病気などで自宅に残らざるを得ない高齢者もおり、なるべく現在の居住地で助け合いながら生活していくことが大事だ。
 西日本豪雨のような被害は東京でも十分起こり得る。(江東区や江戸川区など江東5区は)2週間以上の長期浸水の恐れがある。広域避難の計画作成は区だけでは策定できず、都の重要な役割である。
 また、水害対策で重要なのが、隣近所や福祉関係者が高齢者等を助ける仕組みだ。それが地区防災計画で、行政は誰が誰を助けるか勝手に決められないので、住民主体で作るしかない。東京ではまだ取り組みが進んでいないが、都の役割は住民の情報共有や学びの場を作ることだ。
 現在、都が意欲的に防災活動を行う町会を防災隣組として認定しているのは意味がある。頑張っている町会の連携や、工夫している活動の情報共有が図れるからだ。できれば隣組ごとに最終ゴールをきちんと定めたい。例えば、水害リスクの高い地域は自力で逃げられない高齢者等を安全に避難させる目標を決めて訓練することが有効だ。
 福祉事業者に取り組んでほしいのは、ケアプランや障害者向けの個別支援計画に災害時の対応を盛り込むことだ。災害時に誰が高齢者たちを助け、どの避難所まで移動させるかなどを書き込むものだ。都が音頭を取れば、他の自治体もついてくる。小池知事が総務局や福祉保健局に指示し、縦割りを超えればすぐにできる話だ。
 一方、北海道胆振東部地震や熊本地震では、たまたま建物の下敷きや火災による被害は少ないが、首都直下地震で想定される被害を減らすには、木造住宅の耐震化と木密解消の2本柱で進めるしかない。木造住宅の耐震化は思うように進んでいないので、戦略を大きく見直す必要がある。現在の耐震化助成は、持ち家を対象に工事費の最大3分の2を補助しているが、低所得者への対策も必要だ。また、都民の5割以上が賃貸住宅に住んでいる状況に対応していない。都が賃貸住宅の耐震性や危険度を公表する取り組みで耐震化を促すべきだ。
 木密解消に向けては、木密地域内の古い木造アパートのオーナーに、都が補助金を出すことを条件に建て替えを持ちかけ、震災前に復興住宅を整備することが考えられる。そして、木密に住む方に復興住宅への移住を誘導し、木造住宅をオープンスペース化することで地域の安全度を高める。木密に住む低所得者への対策にもなる。これまで「事前復興住宅」を作った自治体は全くないが、小池知事にはぜひやってほしい取り組みだ。
 さらに発災後、どう生活していくかも考えなければならない。東京では、身近な存在の「コンビニ早期再開」を目標とすることを提案したい。再開には陸路や水路での物流を確保しつつ、コンビニの配送車は緊急通行車両として認めるなど、都が全力を挙げて支援すべきだ。都民にはコンビニが再開するまでの間の備蓄を求める。明確な目標があれば多くの都民は応えるだろう。
 都が、大規模災害から都民の命を守り抜く覚悟を持って災害対応社会を作っていけるかが課題だ。
 

会社概要  会社沿革  事業内容  案内図  広告案内  個人情報保護方針