都政新報
 
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小池都政2年~1期目前半を振り返る(6)/ワイズスペンディング/足元見られ膨らむ経費


   市場関係者は信じられない光景を目の当たりにした。5月30日の神奈川県内のホテルの会議室で、小池知事が謝罪しているのだ。しかも1回ではなく、3回もだ。謝罪した相手は、豊洲市場に計画中の千客万来施設(千客)の運営事業者「万葉倶楽部」の高橋弘会長だった。
 万葉倶楽部は、都が築地市場跡地に整備するという食のテーマパーク方針に反発し、事業撤退も視野に入れていたが、この日のトップ会談で知事の謝罪を受け入れ、事業推進にかじを切った。会長は東京五輪後に千客を着工し、それまでは都が中心で仮設のにぎわい施設を整備するよう提案したが、官房系の幹部は「都が中心にお金を出せという意味なのか」と疑問を呈した。
 万葉倶楽部との協定再締結は「高い買い物になる」との指摘が出ている。仮設施設の整備費に加え、万葉倶楽部が千客の最寄り駅から施設まで雨に濡れないための対策など十数億円に上る取り組みを求めた。都庁内からは「こうした要求をのみ、仮設施設に多額の整備費をつぎ込んだら、議会からたたかれる。コストだけを見たら、事業者を公募し直した方が良かったかもしれない」との見方もある。
 さらに、都は万葉倶楽部との協議打ち切りを検討していた段階で、5月末に江東区と地下鉄8号線の事業スキームの構築などを話し合う予定だったが、その前提が崩れた。それでも区は事業スキームを白紙撤回せず、最終的に都は今年度中にスキームを構築する考えを示した。
 都は万葉倶楽部や江東区から足元を見られ、それぞれの提案を受け入れざるを得ない状況となっている。加えて、市場移転延期に伴い、市場業者への補償や豊洲と築地のランニングコストの二重計上など経費がかさみ、都幹部は「舛添前知事は政治資金の公私混同問題で批判されたが、小池知事は桁違いの無駄遣いをしている」と指摘する。
 知事が掲げる「ワイズスペンディング」(賢い支出)ではなく、「ワイドスペンディング」(支出拡大)となっている状況だ。庁内からは「後先のことを考えないからコストが膨らむ。知事の責任は大きい」と批判の声が上がっている。
評価の質向上を
 一方、予算編成では無駄の排除を徹底し、ワイズスペンディングを継続している。全事業に終期を設け、見直しや再構築を図るのが狙いだ。2018年度予算では1086事業を評価し、うち676件で事業の見直しや再構築を行い、約870億円の削減となった。舛添都政の16年度と比べ、削減額が3倍弱に増えたのは、トップの考え方が反映されていると言える。
 都庁内では「事業に終期を設けたことは悪くない。見直しを図るチャンスとなり、一定の緊張感が生まれるのは良い」「都の施策の新陳代謝が促進された」と評価する声が上がる。
 小池都政は事業評価を強化している。今年度予算から施設や資産など他県のコストと比較して妥当性を検証する「エビデンス・ベース」を、また来年度の予算編成では経費と社会的便益を比べる「コスト・ベネフィット分析」を導入。財務局は「これまで一つの事業を評価する際は過去の取り組みや決算を基に検証してきたが、他県の類似事例などと比べることで検証が多角的になり、改善する視点が増える」と説明する。
 だが、さらに事業の見直しなどを進めるには知事の姿勢が問われているとの指摘もある。事業局の幹部は「知事がパフォーマンスで行革を標榜(ひょうぼう)しているだけなら、見せかけの行革にすぎない。それに付き合う気はない」と突き放す。中には時限で事業を推進し、延長すればいいと主張する職員もいることから、知事は職員に改革マインドを植え付けられるかが問われている。
 

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