都政新報
 
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小池都政2年~1期目前半を振り返る(5)/ピンポイント/政策散発振り回される職員


  
 「日本の森林を元気づけるため、安全性、景観のためにも国産材を使った塀を推奨できるようにしていく」。大阪北部地震のブロック塀による死亡事故を受け、小池知事は7月6日の会見で突如こう提案した。「木材塀」の普及で需要を作り、衰退傾向にある林業の活性化を狙う大胆な政策案だ。
 背景には国による偏在是正措置も見え隠れする。税制基準を変えて都税を地方に配分する動きは、知事が昨秋の衆院選で政権与党の自民党にたてついた影響なども重なり加速。全国の自治体は地方創生で国との関係性を強め、東京が孤立傾向の中、国の動きを修正させるのは至難の業だ。
 木材塀はこうした状況への妙案になる。現に知事は7月26日の全国知事会議で同政策を提案。木材生産県などの賛同を得て、知事会での検討会設置という結果を得た。
 「ピンポイントで成果を取りに行く姿勢は、石原知事に似ている」。都幹部の一人は小池都政の印象をこう言い表す。
 失策を含めて石原知事の代表政策には、ディーゼル車規制や東京マラソン、新銀行東京などがある。これらは都政全体ではなく、ピンポイントに標的を定めて政策を立案・遂行し、一点突破・全面展開する手法だ。
 同幹部は石原知事がピンポイントに政策を進めた要因を「都政そのものに関心がないからだ」と言い切った上で、「小池知事も関心がないのは同じ。更に石原知事以上に自分をどう良く見せるのかに関心がある」と見る。
 一方、「世論受け」も小池知事と石原氏との共通点だ。石原氏は「三国人」発言など失言を散発したが、知事選当選数は4回を数える。この不動の人気を支えた一因は、世論受けの裏付けでもある一種のカリスマ性にある。
 この世論受けやカリスマ性は小池知事も持ち合わせている。更に小池知事はTVキャスター出身のためマスコミの習性を熟知。世論受けを見込んだ政策をセンセーショナルに発信し、世論の流れを形成してきた。市場移転や五輪会場の見直しなど、この手法を用いた政策は実に多い。
 だが、経緯を無視した政策は、時に再修正や目標の未達を伴った。それに巻き込まれたのが都の職員だ。
合成の誤謬
 昨年7月。知事は人気絶頂だった芸人のピコ太郎氏と都庁でおどけていた。省エネ促進策で白熱電球2個以上とLED電球1個を交換する事業のオープニングイベントの際だ。交換実績の目標は、1年間で100万個。ところが実績は低迷し、今年6月中旬現在で約28万個にとどまっている。
 都環境局は「30万人近い都民が参加し、一定の家庭の省エネ効果はあった」(担当者)と話すが、運用途中に地域産業振興の観点で除外していた大型家電店にも対象を拡大。一歩でも目標に近づかせるため、なりふり構わず軌道修正を行った。加えて8月15日からは白熱電球1個に交換条件を引き下げるなど再度微修正した。
 知事が箱根駅伝を見てひらめいたと言われる電動バイク支援策、廃止決定後に職員が業者の根回しに奔走する工業用水道事業など、類似の政策は枚挙にいとまがない。石原知事は都政への関心が乏しいゆえ、都職員の自由がある程度きいたが、小池都政下では相次ぐピンポイント政策に職員が振り回される。
 ミクロの積み重ねでマクロの最適解は生まれない─。経済学には「合成の誤謬(ごびゅう)」と呼ばれる理論がある。一方で「神は細部に宿る」とのことわざもあるが、小池知事は都政全体を見渡した最適解を導き出すことができるのか。次の知事選を逆算すれば、そろそろ「全面展開」での成果が求められる時期に入った。
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