都政新報
 
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東京最前線/上山信一・前特別顧問に聞く(下)/下水コンセッションは必然/都営交通、経営センス磨け


  ─個別の改革について見ると、下水道局がコンセッション(公共施設等運営権)を提起しています。
 下水道のコンセッションの導入は世界、全国では常識、歴史の必然に近くなっています。いずれやらざるを得ません。将来、大赤字になるのは明らかですし。まだ慣れていないだけで、50年前に国鉄の民営化が「あり得ない」と言われたのと同じです。職員も議員もまずはよく勉強してほしい。嫌だ嫌だと叫んでいても、他の自治体がコンセッションを導入して赤字を減らせば、都もやらないわけにはいかなくなるはずです。数字がいずれ解決します。浜松市が全国で初めて導入し、大阪府・市なども検討中です。ちなみにコンセッションは何も都の下水道を特定の会社に丸ごと委ねるということではないんです。こうした当たり前のことも分からずに批判する人がいる状況です。まだこれからです。
 ─都立病院の経営改革については。
 独法化は方向性としては正しいのですが、他の選択肢も含めた検討の余地があります。個人的には全病院を丸ごと一つの独法に入れるのではなく、岐阜県のように個々の病院ごとに独法化するやり方がいいと考えます。あるいは民間委託もいいでしょう。個別に答えは違うでしょう。各病院のポテンシャルをまずきちんと分析しないといけない。
 現状では直営のガチガチの人事制度のもと、(各病院の裁量で)麻酔科医やリハビリの職員の増員すらできない。せっかくの立派な施設が人手不足で生かされず、結果的に稼働率が下がっています。直営にこだわるが故に、いい人材が取れない、いい医療ができないという悪循環に陥っています。経営形態を変えないとジリ貧に陥り、赤字の拡大、医療の質の低
下、事故の可能性につながります。どうも独法化や民間委託は合理化、コストダウンの手段と誤解している人たちがいるようです。勉強不足でしょう。
 ─大阪市では地下鉄を民営化しました。
 大阪市営地下鉄の民営化は、今から12年前に私が初めて当時の關(淳一)市長に提案しました。当時は労働組合が極めて強い中、過剰人員・過剰賃金が目に余る状態でした。国鉄改革に似て、組合問題が根っこにありました。しかし、その問題は今回の民営化までの間に政治の変化等で解決し、今回の民営化の目玉は、今や調達・入札の効率化や資産の有効活用です。都も、地下鉄もバスも上下水道も病院も、公営企業はすべからく柔軟な経営形態に切り替えた方が良いと思います。
■気の弱い自治体
 ─今の都営地下鉄の課題は。
 猪瀬知事時代に東京メトロとの統合の案が出たりして、都営地下鉄は揺さぶられ、経営努力が進んだと思います。当面の問題は監理団体が小さ過ぎることです。もっと強い子会社を作るべきで、そこが民間企業として柔軟な仕事をすれば、実質的に「上下分離」の民営化に近い形にできます。ただ、現状では行革で監理団体の職員数が厳しく制限されています。ヒトもカネももっと投資すべきです。
 あと、大阪市営地下鉄は独占企業体に近かったから競争はあまりありませんでした。東京ではJRも強いし、都営地下鉄は一生懸命、東京メトロを追っています。公営であっても、決してのんびり経営しているわけではない。ただ、(経営主体が)手足を縛られているのは自由にしてやらないと。やがてやって来る人口減や設備老朽化には対応しにくくなるでしょう。将来、弱体化してくる関東の私鉄を救済する可能性などもありますから。早目に株式会社化しておいた方が良いです。ただ、同じ地下を走っているからといって東京メトロと一緒にする意味はあまりないでしょう。
 ─地下鉄はバスなど他の都営交通から切り離すべきですか。
 都や大阪市のバスは恵まれていて、人口密度が高いから(単体でも)黒字化が可能です。路線の再編やダイヤの見直し、人件費の圧縮など大阪市並みの合理化を行えば、都バスは黒字になるでしょう。他の自治体でも多くが、バス事業は路線別に民間譲渡しており、やり方はいろいろあります。まずは「見える化改革」で地下鉄もバスも路線別の収支をオープンにするべきで、そこから経営センスが磨かれます。そしてダイヤやバスの場合は路線の見直しもする。2020改革はまずここからでしょう。
 ─美術館など文化施設や公園のサービス改善にも手を付けました。
 美術館などの学芸員は優秀で、展示の中身も高く評価されています。しかし都からの出向職員が担う建物の管理や来館者サービスはまるでだめです。東京都歴史文化財団にはハコモノ経営のスキルがない。管理やサービスは百貨店やイベント会社に再委託すべきです。都庁の人が副館長に出向なんかしていては、全くだめです。企画と学芸部門は独法化し、サービスや管理はノウハウがある民間企業に任せる。もし財団が全部を担当し続けるなら、民間から人材を雇ってきてプロパー職員を育てるべきです。都庁からの出向者がやっていてはだめです。
 改革はまずは美術館や公園などサービス系の分野から取り組んではどうでしょう。都民から反応が見えれば励みになります。ちなみに都庁全体に言えることですが、議員のちょっとした一言に過剰反応し過ぎです。都庁は何をやる前にも必ず「議員が何か言ってくるのでは」と気を使う。こんなに気の弱い自治体職員集団はよそで見たことがない。知事の力が弱かったのか、都民の声が直接聞けていないからか。何事につけ、ヒアリングやアンケート調査で普通の都民の反応を積極的に取りに行くべきです。
■要請あれば「手伝う」
 ─今後の都政との関わり方は。
 都政改革本部の特別顧問の任期は切れたし、枠組みもなくなった。しかし(知事側から)要請があり、意味のある仕事であれば手伝うでしょう。他の特別顧問も私も、個別の検討会の委員は今も務めています。
 ─今後の都政に期待することは。
 過去二人の知事が任期を全うせずに辞めたわけです。そんな中、都庁はやっと小池さんという真っ当な知事を得ました。大臣の経験もあって安定感がある。寸暇を惜しんで職員の話を聞かれるし、ろくに都庁に来ない知事の時代とは隔世の感があるはずです。だから職員には「2020改革」をちゃんとやってほしい。「しごと改革」「仕組み改革」は順調に進んでいるが、「見える化改革」は少しでも手を抜くと絶対に失敗します。特に副知事、局長が率先して動いていただきたい。
 

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