都政新報
 
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東京最前線/上山信一・前特別顧問に聞く(上)/触媒の役割果たせた/都議会の批判具体説明ない


  都は今年度、都政改革本部の特別顧問を廃止し、副知事の下、職員が主体となって改革を進める体制に切り替えた。「自主性・自律性を発揮して、局ごとの課題に取り組んでもらう」と小池知事。都議会から「顧問偏重、職員軽視」という批判が出る中での見直しとなったが、特別顧問として都政改革を主導した上山信一・慶応大学教授にこれまでの取り組みと今後の課題について聞いた。

 ─特別顧問として任期満了となりました。
 特別顧問としての仕事は都知事選直後から都議選(2017年7月)の頃までと、それ以降の二段階で変わりました。前半はオリ・パラの競技会場や予算と市場移転の見直しが中心でした。この二つは小池さんの選挙公約でもあり、かなりの時間とエネルギーを割きました。
 ─これまでの改革は成功と言えますか。
 当初は小池さんが一人で都庁に乗り込んだ状況。都民ファーストの会もなく、都議会に2~3人のサポーターがいるだけでした。一方で改革への都民の期待は高く、「都議会のドン」との関係など大きな政治的な山もありました。そんな中で、私としてはできるだけ客観中立的に仕事をしました。しかし知事の意向で仕事をする以上、政治的な対立構造の中で特別顧問や都政改革本部の役割を受け止める向きがあったのは否めません。
 ただ、後半の行政改革全般については、総務局、都政改革本部の事務局が主体的にやってくれました。前半に比べると各局職員も協力的だったし、幹部も改革の趣旨をよく理解し、総じて順調でした。情報公開や内部統制などの制度の手直しは当初からうまく進んだし、「見える化改革」もやっていくうちに段々理解が進み、各局と一緒にやる改革になりました。もちろん当初、職員は外部から来た人にいろいろ言われるのに慣れていませんでしたが、総論ではなく個別・具体の話でなるべく実現可能な改革の出口を見いだす工夫をするうちに、抵抗感は次第に薄れていったと思います。
 ─具体的には?
 例えば「見える化改革」で、(港湾局の)視察船「新東京丸」の見直しをしました。多くの職員の予測とは逆に私たちは「造った方がいい」と助言しました。合理的に分析した結果です。この例で、「初めに答えありきではない」とか「政治的な意図で仕事をしているわけではない」という主張の意味が分かってもらえたと思います。
 教育庁と相談して学校支援の監理団体を設立すべきという案も出しました。従来の行政改革は都庁に限らず、人も予算も「何でも削る」というものでした。だから庁内には戸惑いもありました。知事からも「大丈夫ですか?」と聞かれたほどです。しかし、スクラップ・アンド・ビルドでよいから、ぜひ作るべきだと今も考えています。「2020改革」のような行政改革は、総務局も元々必要な時機だと考えていたと思います。しかし、この10年間、知事がコロコロ変わるし、歴代知事は必ずしも行革への関心が高いともいえず、提案しにくかったのでしょう。
■常識を「強制注入」
 ─就任当初と都庁の印象は変わりましたか。
 五輪や市場移転の見直しの頃は職員の間では抵抗と摩擦が大きかったのですが、それがやがて戸惑いに変わったと思います。最初は「自律改革の中身を教えてください」「費用対効果は業者にどう提案させればいいか」など、冗談のようなやり取りもありました。しかし、監理団体や局のヒアリングを行う中で、「世の中の常識はこうではない」ということを相当、インストール、というか強制注入しました。お公家さんに自分で金勘定をやれという感じもありましたが。
 とにかく前半では(知事が)都民との約束を(結果として)達成して見せないといけないわけです。五輪も市場移転も、期待にダイレクトに応えなければならなかった。私たちも無理矢理突っ走った面がありました。しかし、後半の「東京大改革」を進める段では、官僚組織が納得して動かないと何も実現しません。事務局の調整の下、各局とは時間をかけて話し合いながら進めました。
 ─都議会からは「顧問偏重」といった反発も強い中での任期満了となりました。
 いつ何の事案で具体的に顧問の誰にどのような問題があったのか、具体的な説明がされていません。一部の議員が、会ったことも話したこともない特別顧問について何か誤解をされ、もしかしたら政治的な印象操作の道具に利用されているような感じもします。
 ─都庁内からの反発もありました。
 改革というものは、全員がすぐ同意するものではない。反発はあって当然でしょう。逆に丸のみや誤解もあって混乱もありました。しかし過去よりも今後に向けた中長期の動きの方が大事です。当初は混乱もあったし、あえてかき混ぜた部分すらあるが、全体としては「新しい考え方に変えなくてはいけない」という機運が醸成できました。改革へのエネルギーの源泉はいろいろあっていいのです。共感でも怒りでもいいと私は割り切っています。そもそも特別顧問なんて改革の触媒、使い捨てでいいんです。その役割は果たせたし、いい方向に反応しつつあるのではないでしょうか。
■やり残しは「ない」
 ─その小池知事自身は「改革は道半ばのものもある」と言っています。やり残した仕事は何でしょうか。
 やり残しはありません。2020改革プランに全て反映してありますから。これまでやるべきことを順番にやってきました。ただ、都庁改革を車にたとえていうと、知事1人ではなかなかエンジンがかからなかった古い高級車を私たちが蹴飛ばしたようなものです。蹴飛ばし続けたら、とうとう反応して、最近は近所なら言う通りに走れるようになったという状態でしょうか。
 例えば公園や美術館などの現場に行って、目に見える形で都民サービスの改善やコストダウンをしているか。決してそうではない。これが10年前にエンジンがかかった大阪府・市に行くと全く違います。現場から民間委託や事業の見直しの案がどんどん出てきます。まして監理団体の統廃合や役割分担を大きく変えるとかは、まだまだで、ごく一部の幹部が想定しているに過ぎません。
 

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