都政新報
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TOKYO2020五輪への航海図(1)/混迷の聖地(1)/リーダー不在の無責任体制

 
   「政府も自民党もここに至った経過を検証し、どこでつまずいたんだということを(検証を)やっていかないと、新しい組織でも同じことになる可能性がある。内閣全体でやることが必要なので、すぐ発足できたことは評価したい」
 2020年東京オリンピック・パラリンピックのメーンスタジアムとなる新国立競技場(新宿区)の建設計画を政府が撤回し、関係閣僚会議が発足したことを受け、舛添知事は22日、遠藤利明五輪担当相にこう語った。
 何と言っても驚くべきは、2520億円という巨額の建設費だった。英在住の建築家ザハ・ハディド氏によるデザインは、2本のキールアーチが最大の特徴だ。一時は3千億円を超えるという試算が出て、デザインをコンパクト化したが、それでも過去のメーンスタジアムと比べると、桁違いの総工費だった。
 安倍首相が「現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで計画を見直す」と表明したのは今月17日。約1カ月前から検討していたと言うが、10日の国会答弁では「これから国際コンペをやり、新しいデザインを決め、基本設計をつくるのは時間的に間に合わない」と否定し、菅義偉官房長官も「工期に間に合わせないといけない」「変更は我が国の国際的信用を失墜しかねない」と真逆の説明をしていた。
 折しも安保法制の強行採決で政権の支持率急落が見込まれた中での「窮余の一策」に、舛添知事は17日、ツイッターで「主張の整合性よりも内閣支持率が優先か」と批判した。
■批判を封印
 新国立の建設費を巡り、下村博文文部科学相と対立していた舛添知事のトーンが顕著に弱まったのは、6月18日の五輪組織委員会の森喜朗会長との「蜂蜜会談」からだった。
 会議室から出て来た舛添知事は、森氏からプレゼントされたという琥(こ)珀(はく)色の蜂蜜を片手に、「これをなめて甘くなりますので…」と不自然な笑顔を浮かべた。
 しかし、そんな甘さはみじんもない。誰のおかげで選挙に勝ったと思っているんだ、次の選挙に出るつもりはあるのか――。約1時間に及ぶ非公開の会談では、こんな趣旨の発言を森会長がしたようだ、と自民党筋が明かす。
 それに先立つ9日、知事は都議会の所信表明で「国立である以上、建て替えは原則として国の費用で行うべきだ。都に協力を求めるならば、都民にどのようなプラスがあるのか、そのための情報は国が提供するのは当然だ」と発言。文科省を「無責任」と断じ、新国立の見直しを求めていた。
 これに対し、森氏は同12日の記者会見で、「五輪招致は都がやったもの。都がどこまで国と協力してやっていけるかという政治姿勢の問題だ」と牽制。別の講演では、都が整備する競技会場の見直しについて「彼が圧縮したわけではない。圧縮したところに彼が来ただけ」と内情を暴露するなど、溝が深まっていた。
 こうした経過をたどり、以前は自ら「新国立関係で何かありますか」と記者に質問を促していたのとは対照的に、「文科省、政府から聞いていないので、コメントのしようがない」で押し通し、毎週のウェブマガジンでも新国立競技場の話題は「封印」した。
■再び舛添節
 新国立について、政府は今秋にも整備計画を策定し、年明けに着工する予定だ。都も作業チームに3人の幹部職員を派遣し、舛添知事も国との連携が必要なポイントでは意見する姿勢を示している。
 方向性は定まった。しかし、これだけの失態を重ねながら、誰一人として責任は取ろうとしない状況は変わらない。
 所管の下村文科相は「全体的な責任者というのがハッキリ分からないまま来てしまった」と他人事で、首相が見直しを表明した後も、遠藤五輪相は「首相の決断を尊重する」と言うのがやっと。
 森会長は「競技場を造る立場にはない」と自らの責任を否定し、舛添知事はこれまで、「情報が入ってこない」ことを理由に「国の責任」と評論家然としていた。
 「文科省は無能力・無責任で、これが失敗の最大の原因だ」。新国立の見直しを受け、舛添知事は20日、ブログでこう指摘。ツイッターでは「大失策に至った経過を検証し、責任者を処分することが不可欠」と批判したが、安倍首相は民放の番組で「誰に責任があるとか、そもそも論を言うつもりはない」と述べ、責任論はうやむやになりつつある。
 五輪関係者は終始、リーダーたちの無責任に振り回されてきたが、新体制は政治判断が遅れたツケを取り戻すことが出来るだろうか。
◇  ◇
 2020年東京オリンピック競技大会が5年後の今日、開幕する。都や組織委員会は競技会場の見直しやレガシーの創出など五輪準備に奔走しているが、メーンスタジアムとなる新国立競技場は政府の不手際で迷走を重ねている状況だ。13年9月のIOC総会で東京が五輪招致を勝ち取った時、16年リオ五輪の準備が遅れていることへの危機感があり、東京の安定感への期待につながったが、それから1年10カ月が経った今、メーンスタジアムの在り方が定まっていない綱渡り状態を誰が想像しただろう。
 「オールジャパン」で臨むだけに、五輪組織委員会の森喜朗会長は「同じオリンピックという船に皆、乗ったんだから、向こう岸に着くまで努力しよう」と職員に呼び掛けた。1964年以来2度目となる「東京五輪」への航海の行方をシリーズで追う。
 

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