都政新報
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都政漂流~新知事の課題(4)/ジキルとハイド/前進しなかった車の両輪

 
   2012年11月21日、都知事選への立候補を都庁会見室での記者会見で表明した猪瀬氏は、その足で議会棟に向かい、各会派にあいさつ回りをしていた。
 最初に向かったのは自民党の控室。出迎えた野島善司幹事長と両手でしっかり握手して、にこやかに知事選での支援を訴えた。次の公明党でも、中嶋義雄幹事長らに謙虚な姿勢で頭を下げた。
 ところが、次の民主党の控室では表情が一変。ドアを閉じた幹事長室でのあいさつで、詳細は分からなかったが、部屋から出てきた猪瀬氏はズボンのポケットに片手を突っ込んだままで、後ろ姿を見送る民主幹部を振り返ることなく片手を挙げて「じゃあ」。そのまま、共産党や生活者ネットを順番に回った。
 当時の民主党は都議会第1党。民主幹部は「あの人らしい」と苦笑するだけだったが、一連の流れを見た人間の目には二つの顔はまるで「ジキルとハイド」のようにさえ映った。
■付け焼き刃の対応
 副知事時代の猪瀬氏は、就任直後の参議院議員宿舎建設差し止め問題を始めとして、たびたび議会と摩擦を起こした。
 「打ち上げ花火の政策」「独断専行」「議会軽視」。議会側からは猪瀬氏の政治手法にも批判が根強かったが、石原元知事が重しとなって暴発には至らなかった。
 知事就任に前後して、猪瀬氏なりに自公会派を始めとする都議会に気配りしている様子は伺えた。だが、行動は表層的で、付け焼き刃のような感じは辞任まで付きまとった。
 「議会と知事は車の両輪の関係で都政を前進させなければならない」
 議会側も猪瀬氏も、この言葉を1年間で何度も口にしたが、期待は何度も裏切られた。猪瀬都政の前半は、大詰めだった五輪招致活動や都議選を控えた時期でもあり摩擦は目立たなかったが、ニューヨーク訪問時の都営バス24時間運行構想の発表や、さらに問題化したイスラム教に関する発言と、議会側は不満を高めていた。
 都議選後、自公がいったんは釘を刺し、五輪招致の成功で猪瀬氏も第3回定例都議会の所信表明で「車の両輪」を改めて強調したが、最終的に猪瀬氏自身の5千万円問題が致命的な断絶をもたらした。第4回定例会では代表・一般質問で知事答弁の機会も与えられず、厳しい批判を浴びた総務委員会での20時間に及ぶ集中審議、そして百条委員会の設置決定という最悪の結末を迎えたのである。
■人気投票のジレンマ
 5千万円問題が浮上しなくても猪瀬氏と議会の関係は悪化し、第1回定例会も大荒れになったとの見方がある。特に自民は、昨年に五輪組織委人事を巡って猪瀬氏が「僕のところでやる」と大見得を切って波紋を呼んだことや、新国立競技場の整備費問題を勝手に進めたことなど不満を増大。「同時進行していた地方法人課税問題などとセットで、国との妥協点を探るのがセオリーだ。知事があの段階でペラペラ話すことではない」(都議幹部)と怒りを隠さない。
 猪瀬氏の弱点には、本人に代わって都議会との調整や気配りできるパイプ役を担える政策的スタッフやブレーンがいなかったこともある。施策内容や議会運営など直接的な都政運営に関しては都職員が十分担えるとして、下地になるべき関係構築や情報収集は知事の腹心でないと難しい。
 猪瀬氏の政治スタイルは石原元知事が影響しているが、石原氏には「6奉行」といわれたスタッフがおり、隠密や特命で根回しや交渉を進めてきた。スタッフ間の連携は少なく時にはいがみ合ったとも言われるが、個々の手腕は確かで石原氏へのチャネルにもなった。こうしたスタッフやブレーンへの過度の依存は弊害もあるが、調整機能としての存在価値を猪瀬氏が理解していたかは不明だ。
 95年の青島都政から3代続けて、作家・タレント出身者が都知事に就いた。
 今回の都知事選では「脱タレント知事」がテーマの一つに浮上している。青島都政誕生の背景には、当時4期続いた鈴木都政への反動から「脱官僚都政」が盛んに主張されたこともあるが、約20年が経って一種の揺り戻しが起きつつある。辞任理由は異なるものの、任期途中での投げ出しが2代続いたことも影響しているようだ。
 猪瀬氏辞任以降、都議会の各会派幹部に「知事に求めるべき資質」を聞くと、知名度や派手な施策よりも堅実な行政手腕や現実的な政治感覚を重視する声が圧倒的に多く、全会派のコンセンサスと言っても過言ではない状況だ。そして、そこには前知事に欠けていた「議会との交渉能力」が含まれているのは言うまでもない。
 とはいえ、無党派層の多い東京では、知名度がモノを言うのは宿命的だ。議会、政党側にも人気や知名度を優先してきた責任はある。人気と実務手腕、両方を兼ね備えた候補者が今回の知事選で果たして出てくるだろうか。(14年1月17日掲載)
 

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